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小説✳︎cafe『あけぼの』【はじまり】 5

しかし、ミズホは
「自由に出来る時間は削られるし、本気とは思ってなかったから、この前は適当に話を合わせただけ」と言った。
愁は、つなげる言葉が見つからずにいたが、少しの沈黙の後
ミズホが
「本当に愁が、今の仕事を辞めてやりたいのなら、私、別れても良いよ」
と言って来たのだ。
まさか、いとも簡単に別れの話になるとも思わず、頭が真っ白になった愁は、そのまま黙ってしまった。

二人で生きていきたいと、話したはずが、愛が既にそこには、見当たらなかった。
少なくとも、愁は仕切り直して
ミズホとの出会った頃の気持ちをもう一度取り戻したいと思っていた。
だが、ミズホの方には
もうそういうものは、残っていないのか。
愁は彼女の笑顔を大切にしたくて
自由な生活を送ってもらえる事が
一番と思っていた。
「僕たちが2人でいる事の
意味はもう何処にも無いのか」
愁はやり場の無い心で、眠れぬ夜を過ごした。

偽りの夫婦と分かった今
愁は、もう2人で居る意味も
解らない。いや
愛する想いがあれば意味なんて要らないだろう。

結局、その話はそのままに
相変わらず顔を合わすこともない
すれ違いの数週間を送った。

それでも、インスタには変わらない笑顔の彼女が並んでいる。

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