【逃げ若】大昔のマナー集『小笠原百箇条』を読んでみる【楊枝】
逃げ上手の若君があちこちで話題になって久しい。
相変わらずの素晴らしい作画を見せてくれるClover Worksには去年のぼざろから引き続いて感謝しかないわけだが、そんな逃げ若の中でも自分が気になっているキャラクターは……!
小笠原貞宗である。
……いや、最初は「なんか眼がヤバい人」としか思っていなかったのだが、なにやら情報を掘っていくと彼は現代も続く弓馬術礼法の中興の祖という凄い人らしく、興味が湧きまくりだったのだ。
立場的には主人公の敵側にいる彼だが、現状のアニメではキャラ立ちトップクラスな気がしてならない。(主に眼力で)
だが、この特徴的すぎる眼に関する資料は特に存在しないとのこと。
……まあそれはそれとして、そんな小笠原家が現代まで残した小笠原流の中には、弓術以外にも日常生活でのマナーに関する教えがあるらしい。
自分はマナーと聞くと現代の謎ルールを押し付けてくるアレな人たちを想像してしまうわけだが、これに関しては昔の日本が荒れまくりだったことも考慮しなければならないだろう。
「小笠原といえば礼法」と言われる基盤を作ったのは足利義満の時代に活躍した小笠原長秀の「三議一統」らしいが、当時はあの室町時代なので、今とは比較にならない荒くれな価値観で人々が生きていたことは想像に難くない。
そんな中でマナーなんてものを説くのは凄いことだと思うのだ。
いやまあ、一般民衆にまでその礼儀作法が広まるまでには江戸時代になるのを待たねばならないし、そこで民衆に広まったマナーが正しかったかといえば、実はわりとテキトーなものを勝手に広めただけだったりするのだが……(すごく既視感のある現象)
とにかく、そんな大昔のマナー集『小笠原百箇条』を読んでみよう。
こういうのは興味が湧いたときにさっさとやる方が良いのだ。
ちなみに、図書館の叡智を集合させたレファレンス共同データベースによると、『小笠原流百箇条』は国立国会図書館のライブラリで誰でも閲覧することが可能だが、現代語訳されたものはないという。
今でも小笠原流のマナー教室等はやってそうだし、本当にないのか疑問に思ってしまうものの、まああえて古い資料を読むのもいいだろう。
国立国会図書館のもので一番古いのは寛永9年(1632年)のものだが、現代とは内容も違って楽しそうな気がするし。
というわけで、「国立国会図書館デジタルコレクション」と、くずし字翻訳アプリの「みを」を駆使して自分で読んでいくことにした。
※資料を見たい方は以下よりアクセス!↓
さて……早々に面食らっている自分がいる。
そういえば「みを」は良い感じに現代語訳してくれるわけではなかった。
あくまでもくずし字を読める状態にしてくれるだけで、昔の言い回しを解読するのは自分自身の能力によるのだ。
なお、自分の古文の成績は興味がなさすぎて覚えていないレベルなので絶望的である。
まあ始めに書いてある文章なので、序文のような感じだろう。
「奉公人たるもの、これらのことは守ろうね!」みたいな……?
そして次のページに入ると、さっそく百か条が始まったようだ。
こうやって文の一番最初に「一(いち)」を書くのはよく見るやつである。
読めそうなものを自分なりになんとなく読んでみると……
その……
百か条の5つを「ようじ」で消費してるが大丈夫か?
……いや、これを一番最初に持ってきているということは、これは相当に大事なマナーだということなのかもしれない。
でも最初の「人前にて楊枝を使うこと」と、「人前にて楊枝で歯を磨くこと」は内容がダブっているんじゃないだろうか……?
しかしこれは小笠原家の国語力がアレだったわけではなく、こうまでして繰り返さないと当時の連中は行いを改めないという考えの現れなのかもしれない。
徳川綱吉の生類憐みの令が近年は見直されているが、あのような劇毒までとはいかずとも、楊枝の扱い一つでここまでの配慮をして教えることが必要な時代なのだろう……!(たぶん)
どんだけ当時の武士のようじの使い方がアレだったのかが忍ばれる。
さてさて、他には……?
なにやら一般常識レベルなものが相当混じっている気がするが、でもマナー本ってこういう基本的なことも書くもんだよなと思ったりもする。
他にも、「無駄に音を立てて歩くな」とか、「貴人の前で大声で雑談したり鼻をかんだりするな」、「囲炉裏の縁を踏むな」、「敷居を踏むな」、「こたつの中に足を深く入れるな」などなど、こりゃ確かにマナー本だわと思わせる例がいっぱい載っている。
この後のページは自分の解読能力ではどうにもよくわからないものが多いのだが、ニュアンス的には「酒席での振る舞い方」「馬に乗るときの作法」「手紙の書き方」「庭を見るときの作法」などが続く。
「輿(こし)に遭遇したときの作法」では、輿に乗っている人が男か女で避ける方向が変わったり、馬に乗っていた場合は下馬必須だったりと実にマナーを感じる例だ。
こういう路頭礼は牛車・馬・輿でみられるものだが、その時代に生きていたらめっちゃ面倒だっただろうなと思う。
ホント現代に生まれてよかった。
そしていつの間にか「一」から始まる羅列は終わりを告げ、特定のことについて数ページ語っていく感じになった。
以下は「武士の小袖の畳み方」についてだ。↓
まあなんというか、「絵で説明してくれ」と思ってしまうのは現代人の甘えなのだろうか。
そして「〜それは口伝あり」と書いてあるわけだが、要するにこの本だけで全てが語られているわけではないらしい。
”口伝”……つまり言葉によってのみ教えられる細々としたことが加わってこその礼儀作法なのである。
こんな感じで昔の礼儀作法は一子相伝なスタイルだったので、先述したように民衆に礼儀作法が広まるまでには江戸時代を待たねばならなかったし、そこで広まった礼儀作法が正確なものではなかったのはこういう理由もある。
そしてこのあとは「刀の受け取り方」、「薙刀の受け取り方」、「弓の受け取り方」のような、なんとも武士らしいマナーが続く。
「右に持って〜、膝をついて〜、受け取るときは両手で〜」などなど、武器種ごとにこんな決まりまであったとは、最高に面倒くさ…文化を感じる☆
そしてなにやら食事のマナー的なことが始まってそうな挿絵を発見。
「じゃあ服の畳み方のときにも絵を書いてくれよ」と思ってしまうが、まあそれは置いといて翻訳を見てみよう。
相変わらず翻訳してもよくわからないが、なんとなく「祝言のときの食事マナー」を語ってそうなのは伝わってくる。
「一献飲みて栗を食い、また一献飲みて昆布を食い、鮭を咥えて一献飲むべし」……?
食事のマナーに関しては日本は寛容な方だと勝手に思っていた自分だが、昔からこんな決まりがあったとは。
いや、これは祝言のときの儀式的な意味合いが強いか……?
なお後半には季節によってどんな色のものから食べ始めるかが変化するという記載もあり、もう本当に食事一つとっても厄介である。
最近のコテンラジオでは秀吉と家康を取り上げているが、秀吉が関白になるにあたっては、これ以上の上流階級のマナーとかを全部覚えさせられたんだろうか……?
上級国民になるのも大変である。
そんなわけで、67ページしかない資料なのだがめっちゃ疲れた。
紹介したのはほんの一部なので、気になる方はぜひとも自分で資料にアクセスして、「みを」などを活用して読んでみて欲しい。
というかくずし字に詳しい人なんとかしてください!!
果たしてくずし字AI翻訳に誰かがすごい投資をして、現代語訳まで行ってくれるアプリになる日はくるのだろうか。
まあ何にせよ、こんな風に本来は一生出会わなかったであろう資料に出会わせてくれた逃げ上手の若君に感謝を。
あと国立国会図書館と「みを」にも重ねて感謝を。
多くの人のおかげで自分は面白い人生を送れているんだなと実感しつつ、次回の逃げ若アニメ放送を楽しみにしたいと思う。