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成瀬あかりは春日俊彰である

Audibleで『成瀬は天下を取りにいく』を聴いた。2024年本屋大賞ほか、文学賞15冠を受賞し、シリーズ累計55万部を突破する人気青春小説だ。著者は京都大学文学部卒で滋賀県大津市在住の小説家、宮島未奈さん。

宮島さんのデビュー作である本作は、二作目の『成瀬は信じた道をいく』とともに連日メディアやSNSで取りあげられ、物語の舞台である滋賀県大津市では、京阪電車のラッピング電車や沿線のスタンプラリー、ミシガン(作中にも登場する、琵琶湖の南湖を周遊する外輪船)の特別クルーズなど、観光も大変盛りあがっている。

普段はもっぱらアジェンダのKPIがアグリーしている意識高い系のビジネス書やちょっとエッチなグラビアアイドルの写真集ばかりで流行りものの小説を読むことは滅多にないのだけれど、どこかの誰かがおもしろいと言っていたのがうっすら記憶に残っていて、Audibleのオススメに出てきたので息抜きに聴いてみることにした。

結論からいうと、めちゃくちゃおもしろかった。それはあえてボクが言わなくとも、帯には錚々たる方々のコメントが載っているし、YouTubeでも旧TwitterでもAmazonのレビューでも多くのファンがその魅力を語っている。

成瀬の活躍を読み進めながらはじめに頭に浮かんだのは、あらゐけいいちさん原作のアニメ『日常』。ぶっとんだ女子高生たちが織りなすカオスでシュールな世界観が魅力の作品だ。10年以上前のアニメだけどコアなファンが多く、いまだにコミックやDVD、フィギュアなどが売られている。

だけどちょっと違う。たしかに変わった女子高生が主人公でシュールな笑いを誘う点は似ていなくもないけれど、あそこまでぶっ壊れた話じゃない。

『成瀬は天下を取りにいく』のおもしろさは、成瀬あかりという主人公のまっすぐな生き方にある。他人の目を気にせず我が道を行く性格であり、勉強もスポーツも文化活動もこなす万能っぷり。本人は極めて大真面目にやっていることが、周りから見たらちょっと(だいぶ)変わっていておもしろい。

地の文が一人称ではなく三人称で書かれる、しかも複数の三人称の視点から色を塗り重ねるように描かれることで、成瀬あかりという稀有な人物像が読者の目にだんだんと浮かび上がってくる。
あまり例えがよくないかもしれないが、動物園のライオンが見ている世界ではなく、複数の来園者から見たライオンの感想が描かれている感じ。

ところでこの構図、どこかで見たことがないだろうか?

そう、春日俊彰である。
作中、さまざま登場人物によって語られる成瀬あかり像をイメージするうちに、日本を代表するテレビスター・オードリー春日俊彰さんにしか見えなくなってしまった。

以下に、成瀬あかりと春日俊彰の共通点を記す。

ゴーイングマイウェイ

成瀬あかりは、まわりの目を気にせず我が道をいくゴーイングマイウェイな人である。西武大津店の閉店の際、カウントダウンのテレビ中継に毎日映り込んでみたり、高校の入学式で頭をスキンヘッドにしてきたり、いきなり漫才コンビを組んでM-1に挑戦したり……。人になんと思われようが、自分がおもしろいと思ったことをやる。

春日俊彰も、成瀬に負けず劣らずのゴーイングマイウェイだ。徹底した節約家であり、芸人として売れてからも、むつみ荘という家賃39,000円風呂無し築40年のアパートに住み続けていた。家具家電はほとんど拾い物。コインシャワー代を浮かせるために自宅からシャンプーをしながら歩いていたため、近所の小学生からはシャンプーおじさんと呼ばれていた。
テレビの1か月1万円生活という企画では、あまりに度が過ぎる節約に「それは節約じゃなくてただの我慢だ」と番組ディレクターから注意を受け揉めたらしい。

若干ベクトルが異なる気もするが、まわりの目を気にしないという点では二人ともいい勝負だろう。

二人を見ていると、人と比べることをやめるだけで人生がどれだけ自由で楽しいものになるか、しみじみと感じずにはいられない。

スター性

成瀬あかりは万能の天才である。小さい頃から走るのが早く、絵や歌もうまかった。琵琶湖の絵コンクールで琵琶湖博物館長賞、大津市民短歌コンクールで大津市長賞をはじめ、小学校時代から数えきれないほど表彰されてきた。
学校の成績は常にトップ(のちに京都大学に入学する)。高校ではかるた班(部活)で主将を務め全国大会にも出場した。
けん玉や手品のほか、一度見た名前と顔は忘れないといった特技ももつ。
幼馴染とお笑いコンビを組んでM-1に出場し、地元の祭りでは毎年司会もこなしている。
ダ・ヴィンチのような異次元の存在ではないけれど、手の届く身近なスターといった感じだろう。

春日俊彰といえば、スポーツ万能なアスリートの印象が強い。

  • アメフト(オール関東)

  • 潜水(当時日本5位)

  • フィンスイミング(ワールドカップマスターズ大会銀メダル)

  • ボディビル(東京オープンボディビル選手権5位入賞)

  • エアロビ(全日本エアロビクスコンテスト銅メダル)

  • レスリング(マスターズ全国大会4位)

ほかにも水中ベンチプレスのギネス記録を持っていたり、K-1に挑戦したり、とにかく数々の伝説を残している。
頭も良く、TV出演本数ランキングで常に上位に食い込むほど多忙な中番組の企画で挑戦した東大受験にこそ失敗したものの、クイズ番組で東大王チームにあっさり勝ってしまい場の空気が凍った放送事故も記憶に新しい。最近では「世界の春日プロジェクト」という企画で1年間極秘で英語を学んでいたことも明かされた。

「多才 芸能人」「万能 有名人」などとググってもなぜか一切ヒットしないのだけれど、春日俊彰は間違いなく万能多才なスターである。

ちなみに春日さんは学生時代から非常に真面目で、中高は(若林さんらの妨害にも負けず)皆勤だったそう。作中で言及があったかは定かではないが、200歳まで生きることを目標に常に安全第一を心がけ、朝5時に起きてジョギングをし夜9時に寝る生活を続ける真面目な成瀬も、たぶんきっと皆勤だろう。

西武ファン

これはおそらくまったくの偶然なのだけれど、成瀬あかりも春日俊彰も西武ファンである。
『成瀬は天下を取りにいく』の書きだしはこうだ。

「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」

西武デパートの閉店という地元住民にとっては決して小さくないイベントを中心に、複数の視点から序盤の物語が進行する。
西武(大津店の)ファンである成瀬あかりは、閉店のテレビ中継で、目立つように埼玉西武ライオンズの(知らない選手の)ユニホームを毎日着用していた。幼馴染の島崎みゆきと組んだお笑いコンビ「ゼゼカラ」の衣装も、当初は同じ西武のユニホームだった。

春日俊彰といえば、芸能界でも屈指の熱狂的な西武(ライオンズの)ファンだ。西武ドームがある埼玉県所沢市の出身で、幼少期からライオンズを応援し、学生時代には西武ドームでアルバイトをしたことも。最近では始球式や青炎隊長なども務めている。

著者の宮島未奈さんが西武ファンなのかと思ったのだけれど、そういうわけでもないらしい。ただしライオンズファンの間でも本書が話題となり、8/14にはベルーナドーム(西武ドーム)の福岡ソフトバンクホークス戦で、宮島さんによるセレモニアルピッチが実現したのだそう。
もしかすると、いつかは成瀬あかりと春日俊彰のコラボレーションも……。

好きなことで生きていくか、求められたことで生きていくか

以上のように、成瀬あかりと春日俊彰には共通点が非常に多い。あなたもだんだん、ピンクベストを着た成瀬が無表情でカスカスダンスを踊る姿が頭に浮かんでこないだろうか。

そういえば唯一無二の相方がいるという点も、二人の共通点といえるだろう。
成瀬は幼馴染の島崎みゆきを誘って、ゼゼカラというお笑いコンビを組んでM-1に出場した。成瀬がボケ担当だったが、M-1の前哨戦として臨んだ文化祭の舞台で偶然に島崎がボケになり、ボケとツッコミが入れ替わったことで急成長。(成瀬は当初ツッコミ志望だったので思いがけず理想の形になった)
普段はクールで感情を表に出さない成瀬だが、島崎に対する想いは特別で、島崎が東京に引っ越すと知ったときには大きく取り乱していた。

春日さんと相方の若林正恭さんとは、中学2年からの仲だ。日大二中(高)の同級生で、高校では同じアメフト部に所属した。ナイスミドル時代には若林さんがボケで春日さんはツッコミだったが、春日さんの間違いばかりで下手なツッコミをズレ漫才に昇華させたことでブレイク。
オードリーのコンビ仲を勝手に語ると若林さんに苦言を呈されそうな気もするが、放課後の部室ノリラジオで仲良さそうにじゃれあっているのを聴くといつもほっこりする。

話がそれたけれど、最後に成瀬あかりと春日俊彰の相違点について書いておきたい。生き別れた兄弟なんじゃないかとすら思える二人だけれど、実のところ生き方の基本スタンスは大きく異なる。
成瀬は「好きなことで生きていく」人間だ。興味の赴くままに我が道を行き周囲を巻き込む攻めの人。
対する春日俊彰の基本スタンスは"受け"。さまざまなことに挑戦しているように見えるが、本人も度々「自分からこれがやりたいと思ってやったことはほとんどない」と語っているように、求められた仕事を(強靭なフィジカルとメンタルで)断らずにやってきた結果、どんなことにも果敢に挑戦する春日俊彰像が築きあげられた。そもそもお笑いだって若林さんに誘われたからはじめたことで、自分からやりたいと思ってやったことじゃない。
好きなことではなく「求められることで期待以上の結果を出す」のが春日俊彰という人であり、全国のリトルトゥースの心を掴んで離さない魅力なのだ。

ちなみに成瀬シリーズは続編(第三作)の出版もすでに決まっているらしい。

対照的な道を歩んできたはずの人間が山の頂上で交差する。だから人生はおもしろい。成瀬と春日が次に登るのは、どんな山だろう?


『成瀬は天下を取りにいく』の書評を書くつもりでnoteを開いてみたのだけれど、気づいたらリトルトゥースがオードリー愛を好き勝手に語るだけの回になってしまった。自分でも途中から「なんのこっちゃねん」と思いつつ、ついつい楽しくて止まらなくなった。久しぶりに何でもない文章を書いてリフレッシュできたし、まあ良しとしよう。素敵な本に出会えたことに感謝。

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西村おいも
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