【interview】武蔵野大学の明石先生が都会の屋上菜園で育てたい "Re-generative" な豊かさとは?(後編)
こんにちは!Tokyo Urban Farming コアメンバーのひろとです!前編の記事では、武蔵野大学の明石先生が屋上菜園で進めている試みと想いについてお聞きしました。明石先生が学生と作ったDIYピザ窯や養蜂がとても印象的でした。
後編では、明石先生がこの場所で屋上菜園を始めた理由や、晴海にあるタワーマンションでの屋上菜園プロジェクト、"Re-generative"な再生型農業についてお聞きします!
インタビュー相手
明石 修 (あかし おさむ)先生:
武蔵野大学工学部環境システム学科准教授 博士(地球環境学)
パーマカルチャーの手法をつかって、ひとと自然がともに豊かになるような関係のつくり方を実践的に研究中。大学に集う人が自然につながる場として屋上にパーマカルチャーガーデンを学生たちとつくっている。趣味は種まきと育苗。植物の芽がでて伸びていくのを見るのがたまらなく好き。人が自分で伸びていくのを見るのも好き。
TUF取材チーム
ヒデさん:UNIVERSITY of CREATIVITY(以下、UoC) サステナビリティフィールドディレクター。サウナが好き。
こうさん:UoCプロデューサー。3児の父。家庭では料理担当。ベランダファーミング始めました。
宮村さん :UoC FERMENT「SUSTAINABLE CREATIVITY」メンバー。コンポストやカレーに詳しい。
山岸くん:立教大学4年。UoC 「バイオフィリック・クリエイティビティ ゼミ」1期生。日本酒と焼酎の知識が豊富。
ひろと:明治大学4年。「SUSTANABLE CREATIVITY実践編」1期生。最近水墨画を始めました。
武蔵野大学に屋上パーマカルチャー菜園が生まれたきっかけ
明石先生:この屋上自体は、キャンパスが2012年にできたので9年目になります。でも元々ここには芝生だけが入っていたんですよ。なぜかと言うと、 東京都で屋上緑化の条例があってそれを満たすためだけにあったんです。鍵も閉まってて、屋上には入れないんだけど芝生だけあるみたいな(笑)せっかく作ったのに何も使わずに、鍵を閉めて置いておくのはめちゃくちゃ無駄じゃないですか。
それを、校舎の上の方にある研究室の窓から見ていて、「もったいないな」とずっと思っていました。僕はパーマカルチャー(*1)の勉強をしていたこともあり、「ここでみんなで農園やったら楽しいだろうな」ということを考えていたんです。それを学長に提案をしに行きました。ここは仏教の大学なので、仏教精神とかと絡めて。
ヒデさん:仏教と!菜園はどういうふうに絡めたんですか?
明石先生:循環や輪廻転生とか、そういう感じの話です。 それが本当に概念じゃなくて、大学の中に見える場所があった方がいい。 生きると死ぬとか、そこから命をいただいてるという感覚とか。そしたら、ぜひやろう!となり、使わせてもらえるようになりました。それが4年ぐらい前ですかね。
(*1)パーマカルチャー... パーマネント(永続性)、農業(アグリカルチャー)、文化(カルチャー)を組み合わせた造語で、永続可能な農業をもとに永続可能な文化を築いていくためのデザイン手法のこと
日常の中で循環的な暮らしをやっていけるように
ヒデさん:なるほど〜、循環という意味で仏教に通じますね。この菜園づくりはどういう風に進めているんですか?
明石先生:今僕のゼミとは別に「プロジェクト」と言うのが大学にありまして、週に3時間、学生20人ぐらいと進めています。まずパーマカルチャーの講義をしたあと、今後どういう活動をしたいかをみんなで話し合っていきます。
この屋上菜園は、今はまだ鍵がかかっているのですが、本当は誰でも入れるようにしたいと考えています。職員さんや先生、学生が、疲れたときとかに気軽に来て、ボーッとしたり、土を触って畑作業したり。それが日常の中にあると言うことがとても大事なんですよね。週末にわざわざ行くというようなものでなく、普段の暮らしの中に自然が在るイメージです。 朝来て、ちょっと畑を耕してから仕事行くとか、昼休みに来てちょっとここでレタスつんでサラダにして食べるとか、そういう場所にしたいと思っていて。
やっぱり気候変動や環境問題の話も興味ある人はいっぱいいるのですが、興味があっても実際、自分の影響範囲で何かできるか、わからない人が多いと思うんです。だから、こういう屋上菜園のような場所が日常にある事で、自分で循環的な暮らしを実感していけるようにしています。
ひろと:とても素敵ですね!自分の周りで環境問題の活動をしている友達に始めたきっかけを尋ねると、台風が来て家が流された、山登りが好き、サーフィンが好きとか、いい意味でも悪い意味でも、日常の中に自然があった体験からという事が多いと思ったんです。
でも東京にいると中々そういう機会がないですよね?こういう場所があったら、休憩時間とか普段の生活の中に取り入れることができて、とてもいいな!と聞いていて思いました。
実際、2年間のプロジェクト後に学生の心境や行動に変化はありますか?
明石先生:自信はやっぱりついてきてそうですね。
変わったっていうか、元々あったものが引き出されたのでしょうか。
ひろと:環境問題を意識しているんだけれど、何すればいいかわからないという人の解決策になりますもんね。 挑戦や失敗ができる環境がいいですよね。
こうさん:それ自体がすごいパーマカルチャー的な感じですね。このプロジェクトが菜園をつくるということだけでなく、人と人や自然がどう繋がって、っていうところも含めて、パーマカルチャー。素人的な視点では、ここに来たときに、どこか荒れ果ててるような印象を覚えてしまうと思うんですけど、実は、生態系がぐるぐる回るように、色々なものが植わってたりして。効率化とは違う視点なんだろうなと感じます。
ヒデさん: 少量多品目の方が、実は大規模な農園よりものすごいたくさんの収穫ができる場合もありますよね。 しかも種類がたくさんあるから環境変化にも強くて(*2)レジリエンスがある。一種類のモノカルチャーだと、病原菌などが入ってきたら全部やられちゃう。
こうさん:ちょっと聞きかじった話なんですけど、いわゆる共生農法(*3)に近いですよね?
明石先生:そうです、それに近い。自然農(*4)や不耕起栽培(*5)が混ざり合っていますよね。自然に任せてうまく組み合わせると勝手にうまくいってくれる。奇跡のリンゴとか。あれも森の状態を作ると、超おいしいりんごができるという。
(*2)レジリエンス...「困難で脅威を与える状況にもかかわらず,うまく適応する過程や能力,および適応の結果のこと」を意味する心理学の言葉。 日本語に訳すなら、復元力、回復力、弾力が当てはまる。
(*3)共生農法...地球の生態系が元々持っている自己組織化能力を多面的・総合的に活用しながら有用植物を生産する農法。
(*4)自然農...農薬や肥料を使わず、自然を模した環境の中で植物自体が持つ生命力を生かして栽培する農のあり方
(*5)不耕起栽培...農地を耕さずに作物を栽培する農法
晴海のタワーマンションのコミュニティガーデン
ひろと:ちなみに大学以外で、明石先生が手掛けたパーマカルチャー ガーデンはありますか?
明石先生: 2年前に、晴海にあるタワーマンションで自治会の人たちと一緒に、菜園を作りました。公開空地という、緑地のような場所を作らなきゃいけないんですよ。そのタワーマンションの公開空地をコミュニティガーデンにしたら面白いんじゃないかという話になりまして。
自治会の人がここの畑を見にきてくれて、やりましょう!って話に。そこでは人の繋がりを生むっていうのが一番の課題だったんですね。 タワーマンションって本当に人が繋がらないように構造が出来てるらしいんですよね。
自分の階以外に降りられないようになっていたりだとか。繋がることで厄介事が起きるのを阻止するために、構造上そうなっているらしいんですけど。やっぱり人間なんで、人と繋がりたいんですよ。それで、自治会の人が声かけてくれて、屋上菜園を作ることになりました。みんなでコミュニティで毎週日曜日に、畑作業をしたり。
ヒデさん:ここも明石さんと学生さんでやったんですか?
明石先生:そうですね。ここでやってる学生のうち何名かがプロジェクトとして行きました。最終的にはそ住人たちで回していく形を目指しています。今は、かなり自律的にやり始めていますね。
雑草抜く?抜かない? 論争
山岸くん:ここの屋上菜園のように、多様性のある生態系を意識した畑を他の場所にも増やしていくにあたっての課題は、知識(の浸透)の問題ですか?
明石先生:知識というより、一緒にやっていく期間がしばらく必要だと思います。雑草は悪いものという刷り込みってないですか?そこがもう、180度違う考え方なんです。根っこが耕してくれるとか、共生するとか。パーマカルチャーデザイナーとしばらく一緒につくりながら、学んでいくべきかもしれません。
ヒデさん:まったくそうですよね。雑草をめちゃくちゃ排除しますよね(笑)。そして虫がこなくなるように農薬を撒く。植物同士の関係性をうまくつくれば、農薬を使わずに育てられることもあるのに。
明石先生:そうですね!雑草を刈って敷いておけば、蒸発も防げるし、害虫を食べてくれる生き物の住みになったりして、すごくいいんですけど、それを全部捨てちゃうんです。
その雑草も土の肥料になるのに、それをどかして、わざわざ農薬を撒いている。日本の人は特有なのかな?「雑草は悪だ」っていう気持ちがすごい強いです。生態系は全部繋がってできてるっていうのがなかなか伝わっていない気がします。
こうさん:本当は雑草も一緒にいて、その生態系を作った方が豊かになれるんですね。でも、自分も結構「雑草は悪」ってイメージはありました。自分実家は田舎なんですけど、うちのおばあちゃんがここより広いぐらいの家庭菜園を1人でやっていました。そこで雑草を抜いたり、雑草抜くの手伝ってっていったりしていて。雑草を抜かないと栄養持ってかれて、野菜が育たないんじゃないか?と思っていました。
ヒデさん:刈って上に置いておく。根っこは残しておくのがいいですよね。
山岸くん:自分はじいちゃん農家で。自分はじいちゃんに「雑草は全部綺麗に根っこから」と小さい頃から教わっていたので。それがが意識として付いていますね。
明石先生:自然農では、根っこは残しますね。根っこは、微生物の餌になったりだとか。枯れて、そこが穴になったら、空気の通り道になります。
こうさん:結構、昔の人の知識がある種間違った情報が今もそのまま信じられているんですね。
ヒデさん:ぼくらの親世代は、近代農業の考えを植え込まれたんですかね。効率性を金科玉条のように埋め込まれちゃって、それ以前の自然農法的な考え方が、根こそぎなくなっちゃった。
その辺りをマルクスも指摘していたというのを斉藤幸平さんが「人新世の資本論」の中で、いかに近代の農法が土地を収奪して自然を破壊してきたかということを書いていました。マルクスもそうした近代農業のなかにある搾取と収奪の構造を見抜いていたようです。
農薬や肥料を使わず、自然を模した環境の中で野菜が持つ生命力を生かして栽培する農のあり方があることを思い出してもらうのも、私たちの仕事かもしれません。
環境破壊型農業と"Re-generative"な再生型農業
明石先生:農業ってすごい環境的なイメージがあるけれど、実はすごい環境破壊なんです。土地を収奪して、耕すこと自体が結構土の中から、炭素を出してしまうようなこともあります。
ヒデさん:近代農業が、大量にCO2を排出させているんですね。
明石先生:やり方によっては、それと全く逆の..…土をどんどん豊かにしていって、CO2を吸収するようなやり方もあるんです。さっきの、雑草を置けばその炭素が土に入っていくという話のように。
今までは、環境とか、資源を奪って豊かになっていってたのを反転するような方法。人間が暮らすことによってその場所が豊かになっていくようなやり方も選べる。こういう場所も、この都会の中ですごく人工的な場所なんだけど、ここで人間が、僕らが楽しんでやることがこの場所を豊かにするっていうやり方ができないかと思います。
ヒデさん:まさに「re-generative」ですよね。そういう再生型の考え方をもっと普及させたいですね!環境運動に関わっていると、たまに「人間がいるとどうしても破壊しちゃうから、人間がいなくなればいいじゃないか」という極端な話になってしまうこともあるんですけど。
でも、パーマカルチャーの考え方でうまくデザインしていけば、人が関わることで自然の豊かさを加速させていくことができる。昔の日本の里山もそうだったわけですよね。人が里山に手を入れしながら、豊かに共存していた。後先考えずにバサバサ切っちゃうと、生態系は破壊され、回復に時間がかかってしまう。それがいま地球規模で起きてしまっている。
明石先生:そういう再生型の挑戦を、都市の中でやってみたらすごく面白そうですよね!
昔、里山でやっていたことを、今の人間がこういう屋上菜園とかでやってみて、どんどん生態系も豊かになるしそこから新鮮な食べ物も得られる。 楽しいし、いいですね。
ひろと:全部のオフィスとか大学の屋上とかが、そうなればいいのに!
ヒデさん:そうだよね。なんかみんなそれぞれ社員たちがみんなやったりして、ここでランチ食べながらねちょっと収穫して、一杯飲んでみたいな日常(笑)。心身も健康になって、ストレスがなくなりそう。
関係性をつなげる、循環を生み出す
こうさん:この屋上菜園のように、生態系をみんなで作っていける場にするために大切なことはなんですか?
明石先生:人がそこに関わるっていうことだと思います。モノだけ完璧に作ればできるってことではなく、誰かがずっと関わり続けているということが大切です。基本的には畑とかは、ちっちゃくてもいいと思っています、それこそプランターとか。
だんだん豊かにする方向でやっていけば、だんだん大きくなってくる。
楽しくやっていれば、人も集まってくるし。
こうさん:そのコミュニティというか、そこでの繋がりみたいなことを作りながら、その場を豊かにしていくんですね。
明石先生:どうしても、盛り上がってすごくいいいものを作って、完璧なモノだけ作っても、関わり続けないとすぐなくなってしまう。特にこういうところはまだ自然が弱いんで、関わってて手入れしていかないとないと枯れてしまう。
屋上は割と意図しないといかない場所じゃないですか。だからそこをどうやって入れるようにするか、鍵のアクセスなどのバリアをどけて、いかに入りやすくするかが今の課題です(笑)。 今のところは僕が自分でやるのがすごく好きなので続いてるんです。子供が遊ぶように習性で来ている感じ(笑)。
宮村さん:おうちでもやっていたりするんですか?
明石先生:家でもやってますよ。家の庭で。ちっちゃいですけど、毎日楽しいですね。ちっちゃいとこでも、だんだん生態系ができて、トカゲが現れたり、カエル現れたり。
ヒデさん:うちの庭にもカエルやトンボ、物凄いハチも来ますね(笑)。そういうのを毎朝コーヒー淹れながら眺める時間に幸せを感じます。いろんな植物や生き物が集まってるなーって。元々は駐車場だったんですが、いまは野菜や木が生い茂ってるのでアゲハチョウとか毎朝やってくるんだよね。トカゲも、ミミズも、いろんな生き物が集まってきてくれてる。
パーマカルチャーデザイナーの四井真治さんが「命の仕組みとは、集まるということ」だと言っているんですね。逆に、生きてないものはエントロピーの法則通り「拡散する」。つまり自然界では、生と死、集めるのと拡散の両方が存在することによって循環している仕組みなんじゃないかと。だから、都会でもそうした自然の摂理を参考にしながら、いろんな循環の仕組みを生み出していくのが、これからの僕らの役割なんじゃないですかね。
・・・
その後、集合写真を撮影したり、ハーブの収穫をお手伝いさせていただきました。そのハーブは下にある大学のカフェの料理に使われるそう!
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
(ロハスカフェARIAKE )
Tokyoを食べられる森にしよう
Tokyo Urban Farming
http://www.tokyourbanfarming.jp