「IPOゴール」は経営者の問題か?

この記事は、「資本主義のアップデートについて考えるアドベントカレンダー2024」のための企画記事です。

株式会社Payment Technology 代表取締役 上野 亨
1997年ソフトバンクへ入社、経理財務部にて資金調達やBPRプロジェクトに従事し、1998年の分社にてSBIグループへ、SBI証券の立ち上げ、ナスダック・ジャパン上場プロジェクトに参画した。   
2005年以降は公開引受コンサルを5年、法人部門の責任者を5年。その間に関与した主幹事は15社以上、シ団では200社以上の上場に関与。2015年2月より独立してIPO支援事業を開始。現在約20社の企業と顧問契約。2020年3月、金融庁による「株式新規上場(IPO)に係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会」にメンバーとして参加。2020年8月より、南青山グループが運営する「IPO・M&A ACADEMY」の理事就任。

こんにちは。
株式会社Payment Technology 上野 亨です。
今回は、前職の証券会社時代からのギモンについて、記事にしたいと思います。

日本でのIPO後のPOの現状

日本では、IPOしたが、その後PO(2回目以降の公募増資)による調達ができていないという事実をご存知だろうか?
直近3年間上場した企業で、POした企業は数社しかない。
日本でIPOする直前までベンチャーキャピタルなどから、資金調達をしてきた企業は数多くあるが、本来調達の多様化の為のIPOのはずが、IPO後にPOを通じた追加資金調達を行えている企業は少ない。
当然だが、調達資金は企業の成長に使われるものだから、その調達額の多寡によって成長速度がリアルに反映される。
未上場企業に資金を提供する環境はこの数年で劇的に変化し整備された。
その恩恵を受けたスタートアップ、ベンチャー企業は順調に育ち、IPOを成し遂げられるのだが、その後に待っている環境はほとんど知られていない。
かくいう私もIPOの支援を行う者であるのだが、恥ずかしながら曖昧な認識しか持っていなかった。
繰り返しになるがIPO後は調達できていないし、「させてもらえない」のである。
できない理由は後述するが、企業の成長に直結する資金が手に入らないのに、経営者をIPOゴールと批判する事は適切だろうか?
また、取引所の上場維持基準が厳しくなる方向で検討されているが、適切なタイミングで資金調達が可能なマーケットとは言い難い状況で、成長を求められるのは厳しい。この事実を知ったら、上場しない方が資金調達ができ、成長も早いのではないかと考えてしまう。
では、なぜIPO後の資金調達がしにくいのか?

POができない理由①

一つ目の理由は、特にグロース市場銘柄のPOを引き受けてくれる証券会社の不在がある。
証券会社は公募株を買取引受し、投資家に株式を販売する。
グロース銘柄では普段の出来高の大半が個人投資家であることから、POにおける買い手も個人投資家がメインとなる。証券会社が販売する際、個人投資家は当然小ロットの株式を多人数に販売することになる。また個人投資家側も購入するメリットとして、マーケット価格よりも3~5%程度のディスカウントがされているとはいえ、値動きの大きいグロース株では旨味に欠ける。要はわざわざPO株を買う必要はなく、マーケットで買えば良い。
あまり知られていないが、IPO後1年間はPOを控えるという証券会社の慣習もある。

POができない理由②

二つ目の理由は、グロース株を購入する機関投資家の不在である。                機関投資家にとって時価総額が低いグロース銘柄は運用ファンド等に組み込むことができず、投資対象ではない。
そもそも日本でのPOはローンチされると株価が下がる。POによりダイリューションが発生することで株価下落を懸念し、一部の投資家が売却に動く傾向があるため、この現象が起こる。
本来POは成長資金を得るためであることから、ポジティブな事であるはずで、株価は上がって然るべきである。
これは事業の成長をきちんと伝えるIRの不在も影響している。
このように、機関投資家がグロース株を購入しづらい状況となっている。

米国市場でのPO

しかし、米国市場・NASDAQ市場では小規模企業の上場でもPOによる資金調達はできている。
時価総額が小さくとも投資をする上場後の資金の出し手がきちんといると言うことだ。
しかも複数回。

日本のマーケットの問題点

問題はPOを引き受けることに消極的な証券会社と、時価総額50億程度の企業に関心を持つ投資家や機関投資家が日本では限られているため。
なんてことはない、日本はまだこの部分で未成熟なのだ。
日本市場においては、時価総額が概ね150億円以上に達した企業がPOを成功させるケースが多い。
超優秀な企業家が資金調達という「息継ぎ」なしで、奇跡的に2、3年経ってたどり着く領域だ。

※日本のマーケットの貴重度

この話をすると、では上場基準を引き上げて150億円以上の時価総額になってから上場させればよいのではないかと、議論が始まる。
私は、この小規模企業でも上場のチャンスが与えられる日本のマーケットは貴重であり、その価値を大切にすべきだと思っている。
上場には調達以外の社会的信用の創出という側面もあるわけで、ベンチャー企業にとっては大きなメリットになる。
断言できるが、私が付き合ってきた多くの起業家は、上場ゴールを目的としていなかった。
上場後のマーケットの整備がされれば、もっともっと成長の可能性を持っているのである。

上場企業経営者の本音

ある上場企業経営者が言っていた「上場したらしんどいよ…」                     これは成長資金を十分に調達できないのに「成長せよ」と株主から言われている経営者の心から出た言葉。                                                

私の想い

私はこの環境を変えたい。
このままではIPOゴールの企業ばかりになってしまうし、IPOしない方が良いマーケットになってしまう。


いいなと思ったら応援しよう!