生きたまま、私の世界から消えていく
付き合っていた人と別れて、気が付けば半年が過ぎていた。
息をしているだけでも辛い時期もあったのに、彼の存在が私の世界から消えて6か月。
付き合っていた時の記憶はあるし、別れたばかりのあの時どんな気持ちだったかも覚えているのに、既に体感として思い出せなくなっている。
20代後半にして、人生で初めての失恋だった。
実際体験した失恋は、イメージするものと違っていた。
恋愛が終わることを失恋というのかと思っていたけれど、どうやら自分を構成している世界の一部を失うことを失恋と言うらしかった。
親しい人が突然、自分の世界から消えるのが失恋だった。
彼のお葬式のことまで考えたことがあるのに(今思うと笑えるけれど)、今は彼が死んでも私はそのことを知らずに生きていく可能性すらある。
何かあったら彼に聞いてほしかったのに、私が何をして、どんな風に変わっいっても、彼はもはや知ることはない。
彼が痛いと言っていた膝が今どんな具合なのかも、健康診断にひっかかった項目がどうなっているかも、私だってもう知ることはない。
彼は生きているのに、彼の人生を更新しているのに、私の世界からは消えていった。
なんだか恐ろしかった。
もう私は彼の部屋に行くことは無くて、彼が飼っているペットの姿を見ることもなくて、最後に彼と話した言葉が何だったかも思い出せないまま、お互いに人生を更新していく。
いつかお互い、付き合っていた時とはまるで別人のようになっていって、私の知っていた彼はもうどこにもいなくなる。
「時間が解決してくれるよ」
そう言ってくれる人がいたが、解決してしまうことが悲しかった。
はやく苦しみから逃れたかったのに、苦しくなくなった時は、彼はもう私にとって大切だった彼ではなくなっているのだ。
少しずつ他人になっていく。生きたまま、私の世界で死んでいく。
宇宙はいつできたんだろう、どこまで続いているんだろう。
そう考えて感じる何とも言えない恐怖に違い。
身体がすうっとして、途方もないあの感じだ。
彼を忘れてしまうことが、彼と他人になって何も感じなくなることが怖かった過去の私。
実際今の私は、恐れていた通りになってしまった。
ごめん、なのか良かった、なのか。
彼は私のことを、思い出すことはあるのだろうか。
そんなことを聞くことすら、出来なくなるのが失恋なのかな。