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2024 SIGGRAPH感想
2024 SIGGRAPH E-techに行ってきました
昨年8月、アメリカ合衆国コロラド州で行われたSIGGRAPHに行ってきました。SIGGRAPHとはコンピューターグラフィックスの国際会議ですが、その中でもE-techという展示では、HCI分野の世界最先端のデモを見ることができます。具体的には以下の分野だそうです。
触覚インタラクション・触覚センシング技術
タンジブルインターフェース
ウェアラブル技術
ディスプレイ技術
没入型テクノロジーと3DUI
エンターテインメント技術とゲームインターフェース
コンピュータビジョンと生成AI
ロボティックス
人間増強技術
ブレイン・コンピュータ・インターフェース
テクニカルHCIプロジェクト
私は現在東大先端研の稲見門内研究室に所属しており、今回は出展する先輩方の手伝いとして技術面での手伝いやデモ対応などを行いました。このnoteでは、デモ展示を実際に行ってみての感想と、気になったE-techの作品を紹介していきたいと思います。
私が手伝った発表 "skill picker"について
https://star.rcast.u-tokyo.ac.jp/skillpicker/
この作品は稲見研の大伏さんが中心となり、植物学者との協働で作り上げたものです。植物学における実験では、植物の葉をピンセットでつまむ時に熟練者と初心者で力のコントロールに差があることが課題でした。そこでskill pickerでは初心者でも適切な力加減が分かるよう、ピンセットにかかる圧力を可視化しました(SIGGRAPHのデモでは音も追加)。
一見シンプルなアイディアですが、指先の僅かな力がビジュアルとして楽しめるというのは、かなり新しい体験なのではないかと思いました。普段の生活や技術の中に組み込まれている動作を異なる感覚としてフィードバックすることで、コントロールを向上させたり普段よりも大きな力を出せるなど、様々な身体拡張にも貢献できそうです。個人的には、稲見先生が以前著書で仰っていた「ウィーナー界面を自在に制御できることが『自在化』だ」という話と繋がりそうだと思っています。ビジュアライズによってピンの把持力を「制御できる」側にレンジが広がったことにより身体コントロールの自在化にも応用できそうだと感じました。
SIGGRAPH裏話 -デモ準備の極意-
ここからは、デモ準備の裏話について振り返りたいと思います。デモは建築で例えるならコンペの締め切りのようなもので、要は修羅場です。私たちのチームはそこまででもありませんでしたが、稲見研から参加したもう一つのチームはかなり大変そうでした。何がそこまで大変かというと、デモ直前に限って急にアイディアが湧き、それを実現するために仕事量が増えるからなんですね。私たちの準備の過程でも、ちょっとしたことでデモのクオリティが大きく変わったことがありました。
当初はデモ中にピンセットでつまむ(モニターに大きく映し出される)オブジェクトはハリボーのグミにするつもりだったのですが、ハリボーには一瞬で人を引き付けるような魅力が足りませんでした(ごめんねハリボー)。そこで現地のスーパーに出向き、見た目が面白そうな物を沢山買い込みました(犬用クッキー、カラフルな化繊ユニコーン、卵の殻に貼りついたグミなどなど…)。
買い物中にふと横を見ると、稲見先生が棚からどぎつい色のグミを取っていました。赤と青のラムネがふんだんにくっついた紫色のグミです。私は内心「それにするん!?」とショックを受けたのですが、いざデモをしてみると、拡大された瞬間に独特なサイケデリック感が出ました。教授のデモクオリティを爆上げする力、凄い。結局これでデモをすることに決まり、お客さんも沢山来て下さったように感じます。
ここから、デモは総合芸術、すべての体験設計を考え抜き、技術的新規性はもちろん、少しでも感動を生み出すための仕掛けをギリギリまで考え抜くことが重要だと学びました。
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E-techで気になったprojectたち
その他、E-Techで気になるプロジェクトが沢山有ったので、紹介していこうと思います。
Tangible Data/FIRE
テキサス大学の学生による展示で、超音波ディスプレイによって3D上に温度を伴う触覚刺激を与えることが出来ます。デモでは実際に体験したところ、炎のビジュアルに合わせて暖かい感触を体験することが出来ました。また、粒などの細かな感触まで実現できており、今後はテレイグジスタンスなどに応用可能性が広がりそうだと思いました。
FEEL TECH Wear
keio media designとdocomo、commissureの共同プロジェクト(これに限らず慶應の作品はお金と人員を投入した大規模なものが多い印象でした)。指先と腕に付けた回転皮膚伸縮分布フィードバックによって触感提示及び力覚フィードバックを行うことが出来るというものです。バーチャルドッグとの散歩を通して機能を実感できたのはもちろんなのですが、デバイスのデザインが既に洗練されており、今すぐにでも実用化できそうでした。
haptoroom
こちらもkmdによるプロジェクトです。床センサと触覚フィードバックを使って家具とやり取りすることが出来る画期的なデバイスでした。人の歩行やタップによる振動を床センサで検知し、床センサの裏についた振動子で机の上の物を移動させたりテレビのon/offを変えることができます。まるで部屋全体が生きものになったような感覚で、組換え可能な床ユニットのみでインプットとアウトプットが出来るため、仮設や持ち運びにも耐えうると思いました。
kinesway
こちらはやや基礎研究よりですが、とても驚きのあるデモでした。なんと、足首の前後に交互に振動刺激を与えるだけで、地面が振動したり傾いたりしているように感じるのです。私も実際に体験しましたが、ジェットコースターの映像に合わせて地面が激しく揺れ動き、とても臨場感のある体験をすることができました。開発した学生の方によると、色々試していたらこのツボを見つけたとのことで、私も色々試して頑張ってみよう、と思いました。
最後に
SIGGRAPHでは様々な体験をすることが出来ました。デモ展示だけでなく、著名人(ジェンスン・ファンとマーク・ザッカーバーグ)の対談や様々な研究機関の方々とのお話はどれも知見に満ちており、活気に溢れた世界最先端の「今」を目に焼き付けることが出来ました。また、展示に至るまでの過程を実際に行ったり聞いたりする中で、試行錯誤の末に偶然発見した何かが大きな成果に繋がるのだなと感じました。それを掴むには、日ごろからの努力の積み重ねと、キラリと光るセレンディピティを逃さないよう心のアンテナを磨いておくことが大事だと思いました。私も引き続き研究を頑張っていきます。