高校の学びは、大学入試の手段なのか?~探究で、学びの「リミッター」をどう外すのか?~(アンラーニング編)
Scene 01 清明高校らしい素直さと自由な発想を両立させたい
ー篠原先生 清明高校は、1915年開校の歴史ある伝統校です。卒業後は、進学を希望する生徒が多く、2021年度は国公立大学に15人、私立大学に164人が合格*。例年、素直で優しくて穏やかな、とても「よい生徒」が集まるので、無限に可能性を引き伸ばせる素地があるなと思っています。
ー綾部先生 本校では、「新たな自分の可能性を発見し、それに向けて挑戦する資質・能力を持った生徒」「将来、地域のリーダーや、地域の根幹を支える人物となりうる資質・能力を持った生徒」の育成を目標に掲げ、教育活動に取り組んでいます。学習意欲が高く、素直な生徒ばかりですが、その反面、どんな時も優等生的な受け答えをしがちなため、もっと自由な発想をもってほしいと感じていました。
ー篠原先生 本校では、2019年度からグループでの「探究学習」を開始。自分たちで課題を設定し、調べ、考察をまとめることを繰り返しながら、課題の解決を目指しました。ただ、始めてみると、熱心に取り組む生徒がいる一方で、なかなか自分事にできず「探究なんてやりたくない」と言う子もいました。2020年度から、担任を持つ2年生の「総合探究」で生徒それぞれが個人で取り組む「テーマ研究」がはじまるのを機に、生徒が自分事として探究学習に取り組み、深めるためにはどうすればよいかと考えるようになりました。そして、それを実行するためには、生徒の心の中にある「こうあらねばならない」といった殻を打ち破り、自由な発想で探究学習に取り組むことが必要だと思い至りました。
*のべ人数
Scene 02 「生徒の心のリミッター」を外した大学との連携授業
ー篠原先生 本校では、「テーマ研究」の本格導入前に、大学の協力を得て全教職員向け研修を実施。「ダメな学校」をテーマに話し合いを行う中で、ブレストの基本的な手法や忌憚なく自由に意見を出し合うことの重要性を私たち自身が再認識しました。
ー綾部先生 頭では理解していても、変わることを恐れてなかなか一歩を踏み出せないでいること。研修は、まず教える側の意識を変えるかっかけになりました。
ー篠原先生 2021年度に、キャリアガイダンスなどを担う「ガイダンスセンター」の責任者となり、新教育課程に向けてキャリア教育をベースに「総合探究」のカリキュラムを練り直しました。1年生は職業・大学調べや大学建学、2年生は自分の興味・関心に基づいて行うテーマ研究、3年生では進路ガイダンスを中心とした進路学習。その中に生徒の自由な発想を伸ばすため、大学や企業との連携授業を組み込みました。
scene 03 「いい子」を「いい子」のまま卒業させたくない
ー篠原先生 「総合探究」の一環で、キャッチコピーを人前で発表したり、外部専門家に評価されたりしたことで、生徒は小さな成功体験を積み重ねることができました。
ー綾部先生 2年生が課題に向き合う姿を見て、1年生でも前倒しで実施しようと考えました。落ち着いた学年だけに、ただの「いい子」で卒業させたくなく、早い時期に外部講師などの直接指導を受けることで視野を広げてほしいと思ったからです。最初は自分に自信がなく、周囲に遠慮する子が多かったのですが、この授業を機に大きく変わりました。1年生のうちに自由に意見やアイデアを出し合う楽しさに気付けたことは、今後の学校生活に良い効果をもたらしてくれるはずです。
Scene 04 沼にはまるように主体的に学び始めた生徒
ー篠原先生 2年生2学期から取り組む「テーマ研究」では、一人ひとりが関心のある事柄について、独自の角度で探究学習を進めていきます。これをきっかけに自分なりの課題を見つける生徒が多く、例えば、服飾系の専門学校を志望していた生徒は、ファッションや流行について夢中になって調べていくうちに、それらが社会状況に大きく影響を受けていることに気づき、ファッションを広い観点で見るために美術史も学びたいと四年生大学に進路を変更しました。
卒業後には仲間を集めて展覧会を開くまでに成長。自分の興味が社会とつながり、「損得」や「好き嫌い」を超えて学びを表現する楽しさをつかんだからこその成長だと思います。
ー綾部先生 生徒たちはダメなものに対して積極的に声を上げ、意見を交わすようになりました。現在も、自分たちのルールである校則を見直したいという意見が出て、校長と生徒会で話し合いを進めています。探究学習をきっかけに、「生きる力」が育まれてきているという手応えを感じています。
まとめ 内なる想いこそが、大学入試と生涯の学びへの原動力
ー篠原先生 これまでの高校教育は、大学入試を突破するための手段、つまり、大学へ続く扉の鍵の開け方を教えることに偏っていたのかもしれません。しかし、今後は探究学習を通じて、生徒自身に「大学に入って〇〇を学びたい」という想いが生まれるように導きたいと考えています。併せて、大学に入ってからも自ら目標に向かって歩いていくための体力も身につけさせたいです。これこそが、探究学習の役割だと感じています。
ー綾部先生 これまで、多くの高校生が大学の偏差値や自身の成績といった外圧で進学先を決めていました。しかし、本来は「大学に行きたい」という気持ちも内発的な動機づけから生じるべきです。そうした内圧こそが、受験勉強も含め生涯にわたって学びを深めるための原動力になると感じています。従来通り、大学入試に必要な学力を身に着けさせることに加えて、バランスよく学びへの好奇心を育てることも高校教育の重要な要素です。
ー篠原先生 私たち教職員自身の視野を広げるためにも、学び多き大学や社会との連携授業を、今後もより積極的に展開していきたいです。
今回インタビュ―した教授
篠原 真美子 教諭
群馬県立伊勢崎清明高等学校 国語科教諭(書道)
2021年度よりガイダンスセンター長。教職歴32年、同校に赴任して5年目。
綾部 勝久 教諭
伊勢崎清明高等学校 数学科教諭
2年次主任。教職歴26年、同校に赴任して6年目。
※2021年度取材時は1年次主任。