「面白法人カヤック」のユニークなアイデア源、 "ブレインストーミング"に迫る!
高崎商科大学と共同して、新しい入試「総合型選抜 探究・ブレインストーミング型」を開発した、面白法人カヤック。さまざまな面白くてバズるコンテンツを世に送り出しているカヤックですが、そのユニークなアイデアを生み出す原動力となっているのは、同入試にも取り入れられている「ブレインストーミング」、通称「ブレスト」なのだそう。
そこで今回は、カヤックの管理本部長である柴田史郎さん、同じく社外人事の神谷俊さんに、そもそもブレストとは何なのか、なぜカヤックはブレストを大切にしているのか、などについてお伺いしてみました。
ブレストはカヤックの原動力。アイデアを出すことが、会社の風土・文化として浸透している
まず最初に、「面白法人カヤック」について教えていただけますか?
柴田:シンプルに説明すると、クリエイターやエンジニア、デザイナーといったものづくりをする人たちがメインとなって、ゲーム、広告、Webサービス、地域プロモーションなど、さまざまな事業を行っている会社です。例えば、昨年話題となったイベント「うんこミュージアム」の企画制作や、スマホ用コンテンツ「リカちゃんコーディネートメーカー」の設計・開発などが例としてあります。また、カヤックは鎌倉に本社があるんですが、そこで地域に根ざした企業活動を行ってきたノウハウを生かして、地域プロモーションのお手伝いなどもしていますね。
あとは、給料の一部をサイコロで決める「サイコロ給」、一定期間、世界中どこでもオフィスを借りてリモートで働いていい「旅する支社」など、ちょっと変わった社内制度が注目されることもあります。
神谷:僕は「社外人事」という立場で。客観的にカヤックを観察して、組織外の人間だからこそ分かるカヤックの文化や特異性をカヤックに伝えて、組織開発や採用に反映してもらうというちょっと変わった役割をしています。
そんな僕から見たカヤックの特徴は、利益やお金がすべてだと思っていない会社だというところです。仕事ならば、成果ばかりを重視しがちです。でも、カヤックはそこに辿り着くまでのプロセスや、その過程で出会う人、あるいは「失敗」までもを価値あるものだと捉えている。体験や経験に大きな価値を置いているところに、すごく特異性があるなと感じています。
もし「失敗」してもそこから学んで他に生かせばいいという、プレイフルな文化です。その意味で、遊び上手な人が多い会社なんですよね。
そのようなカヤックのユニークなサービスや文化には「ブレスト」が深く関係しているとお聞きしました。そもそも「ブレスト」とはどんなものですか?
柴田:ブレストとは、一言でいうと「複数人でアイデアを出す手法」「集団でアイデアを出す会議」のことです。カヤックはブレストを大切な原動力と位置付けていて、先ほど紹介したサービスや制度など、すべてブレストからのアイデアを中心に動かしています。
神谷:ちなみに、カヤックの言うブレストって、「ブレストっぽい会話・雑談」全体を指すんですよ。「今からアイデアを出すぞ!」と力を入れて、アイデア出しのフォーメーション、アプローチを取るんじゃなくて、常に雑談・会話の中でブレストっぽい会話をして、アイデアを出していく。アイデアを出すことが、会社の風土・文化として浸透しているんですよね。例えば、打ち合わせの帰りに、東京〜横浜間の電車の中で話しながら1本企画をつくったり。今日ここへ来る途中にも、柴田と雑談しながらアイデアを出し合っていました。
柴田:そうそう。今回、高崎商科大学さんと共同開発したブレスト入試も、「よし、新しい入試アイデアを出してやるぞ!」という姿勢からではなく、大学の方と何回か雑談をしていくうちに、自然と企画ができあがっていったんです。話していくうちに、「こういうことがあって...」「じゃあこういうのはどう?」「すごくいいです」「じゃあ、やってみましょうか!」みたいな。
いつもこんな感じだから、「この企画はいつ生まれたんですか?」「このアイデアはどういう経緯で生まれたんですか?」ってよく聞かれるんですけど、実はあまり詳しく思い出せないんですよね(笑)。
大切なのは、「乗っかる」「自分ごと化する」「実践する」
ブレストの利点は、どんなところにあると思いますか?
柴田:いろんな解決策があると気付いて、「悩まなくなること」ですかね。悩んでいるときって、「今、自分が考えていることがすべてだ」って思い込んで、詰まっている状態じゃないですか。だけど、複数人でたくさんアイデアを出していくと、「他の可能性、選択肢もたくさんあるんだ」「じゃあ何とかなるな」ということに気付く。そうすると、悩まず、立ち止まらずに、どんどん前に進んでいけるようになるんです。
神谷:ブレストをすると、自分だけでは考えも及ばなかったような選択肢やアイデアが生まれくるから、「固定観念にとらわれていたな」って気付きますよね。目の前の仕組みやメカニズムでふさがれていたところに、ブレストで風穴が開くと、いろんな可能性に気付くようになるから、「他にもこんなに案があるんだから、この案を選択しなくてもいいんだな!」って、気持ちが楽になります。
カヤックがブレストをするときに大切にしていることはありますか?
柴田:他の人の考えに"乗っかっていく"ことですかね。
神谷:他人のアイデアに乗っかっていくことで、「場」に参加することができます。その議論や企画を進める主体者の一人になっていくということです。要するに、"乗っかる"ことで問題を自分ごと化することができるんですよね。あと、"乗っかる"ことは、よりたくさんのアイデアを出しやすい雰囲気・空気感をつくることにもつながります。
「これを言って、誰かに何か言われたらどうしよう...」とか、周りの評価を気にしてなかなか意見を出せないときは、課題やテーマを「自分ごと化」できていないことが多い。会社や他人のテーマだから、そこに思い入れも何もない。反対に、もし周りではなく自分を中心としたテーマがあれば、どんどん意見を出したくなるし、何より面白くなる。みんながそういう姿勢で参加できるのが、ブレストの良いところですね。
例えば、カヤックの発想法をカードゲームにした「ブレストカード」という商品があります。これをつくったとき、関わったメンバー全員が「あれは俺がつくったんだ!」という風に言っていたことがありました。企画に加わったメンバー全員が主体的に進めたからこそ出てくる台詞だと思いますね。こういう風にして、みんなが「俺の」というメンタリティーを持ちながらも、ぶつかることなく良い相乗効果を生み出せてしまう。これがブレストの魅力だと思っています。
柴田:「これは自分のアイデアだ!」っていう気持ちが強ければ、周りの評価や失敗を気にせず、実践にも踏み込みやすいですしね。企画って、打ち合わせの過程よりも、実際にやってみる、ぶつけてみる「実践」の過程がものすごく重要だと思うんです。「実践」「失敗」「考える」っていうのを繰り返し行うことで、どんどんアイデアがブラッシュアップされていくから。
例え、もし「失敗」が許されないような環境だったとしても、ダメかもしれない範囲ギリギリで小さな実践をしてみると、「ここまでだったらイケるな」っていう選択肢・可能性の範囲を広げられるんですよね。
神谷:確かにそうですね、「実践に踏み込みやすい」っていうのも、ブレストの効能ですね。
自分を軸にした意見、自分が本当に思っていることを、言語化できるようにする
最後に、そんなブレストを大切にするカヤックで働くお二人から、学生の皆さんに向けてメッセージをお願いします。
柴田:学生のうちに、自分が本当に思っていることを言葉にする練習をしておくといいと思います。例えば「嫌いな食べ物はありますか?」と聞かれたとき、本当はないのに「〇〇が嫌いです」と嘘をついてしまう...。これって、「みんなと同じような意見にしておけば無難」とか、周りを意識した考えが本音より先行してしまうからですよね。でも、本当に思っていることをきちんと言おうとすると、自分でも気付いていないような面白い意見や本音が出てきたりするんです。だから、本音を言うクセをつけておくことは、将来何かの役に立つと思いますよ。
神谷:僕は学生時代に、世界のいろいろな国へ旅をしたんですが、そのときに出会った人たちのほとんどが、「私の意見はこうだ」という自分の観点や視点を持っていました。文化や宗教や習慣のなかで、自分のアイデンティティをしっかり持っていたんです。それに対して僕は自分の薄っぺらさを痛感しましたね。
社会に出ても、世界に出ても、「あなたはどうなの?」って聞かれたときに「分からない」と答えるのはダサいなと感じました。「受験が-」「偏差値が-」「親が-」など"社会"を主語するのではなく、"自分"を軸にした意見が大切だなと思います。「あなたはこう考えるかもしれないけど、自分はこう思っていて、あなたとはここが違うね」といったことをきちんと言語化できるようにして、それを人に伝える経験が大事かなと思います。
今回インタビューした教授
商学部 経営学科
面白法人カヤック/柴田 史郎・神谷 俊
柴田 史郎(しばた・しろう):
面白法人カヤック・執行役員、人事部長。会社でも、休日でも、真冬に北海道の実家に帰るときも、365日を同じ半袖Tシャツで過ごす、Tシャツ部唯一の部員。青春を落語に捧げた落語家人事。
神谷 俊(かみや・しゅん):
株式会社エスノグラファー・代表取締役。面白法人カヤック・社外人事部長など。カヤックでは「社外」人事として、組織外の人間だからこそ分かるカヤック特有の文化を言語化し、人事戦略にフィードバックしている。