観光客増など地域活性化のカギを握る、「フィルム・ツーリズム」って?
皆さんは、自分の好きな映画・ドラマの舞台やロケ地を訪れたことがありますか? ありふれた場所も、好きな作品に関わりがあると知ると、何だか特別な思いが生まれてきますよね。そのような気持ちを使った観光モデルを「フィルム・ツーリズム」と言います。今回は、観光社会学、観光マーケティングなどを専門とする岩下千恵子教授に、「フィルム・ツーリズム」について聞いてみました!
地域活性化にもつながる!「フィルム・ツーリズム」とは
ーまずは「フィルム・ツーリズム」について教えてください。ー
「フィルム・ツーリズム」というのは、映画・ドラマなどの撮影に使われた場所やゆかりの場所、モデルとなった場所などを旅する観光モデルのことを言います。
例えば、「ローマの休日」に出てくる「スペイン広場」や「真実の口」といった場所を訪れて、「オードリー・ヘプバーンってこうだったよね」「ここでこうしてたよね」など、映画のシーンを思いながら楽しんだ経験ってないですか?
ーあります!ー
そのような思い入れや付加価値を楽しむのが、フィルム・ツーリズムの醍醐味です。その作品を知らない人からすると何の変哲もない場所が、作品を知っている人からすると特別な場所になるんですよね。
ー地域の経済活性化にも結びつきそうですね。ー
もちろん。撮影場所が注目されれば、観光客を引き寄せることができますよね。また、それだけではなく、撮影隊がその場所に来て泊まったりご飯を食べたり、いろんな形で消費活動をすることも地域の経済活性化につながります。
フィルム・ツーリズムは、観光客増だけが成功じゃない?
ーでも、もし作品が注目されなかったら、観光客もあまり来ないかも....ー
観光客や撮影隊など外側からの影響だけではなく、内側への影響、つまり「地元への誇り」とか「地元への愛着」などに結びつく場合もあるんですよ。
ー地元への愛着ですか?ー
はい。例えば、自分の住んでいる場所がテレビや映画の舞台として使われるとうれしいですよね。さらに、地元で撮影があると、エキストラとして作品に関わるチャンスもあります。
こうした「地元が撮影に使われた!」「地元で作品の製作に関わることができた!」という喜びが、地元への愛着につながるんです。
ーなるほど!ー
実際に、高崎市で映画の撮影が行われた際、高崎在住の高校生にアンケートを取ってみたら、多くの人が「自分の地元が作品に使われて誇りに思う」と回答してくれたんですよ。
ーへえ!ー
だから、もし撮影後、観光地として有名にならなくても、「観光客が来ないから失敗だ」ではなく、撮影地として使われたことによって生まれる「住民たちの誇りや、まちのにぎやかさ」自体が、地域の活性化になっていると思います。
私はどちらかというと、有名な観光地になるというより、撮影隊が来てまちがにぎやかになったり、地元の住民がお手伝いをしたり、自分が生きていく上で何らかの喜びになっていくことへ活用していけばいいんじゃないかと思うんですよね。
ーちなみに、先生が面白いと思うフィルム・ツーリズムの活用の仕方はありますか?ー
仕掛けがユニークだと思ったのは、香川県で行われたロケ地ツアーですね。そのツアーは、実際にその作品を撮影した監督と一緒にロケ地をめぐるもので、撮影秘話とかをたくさん聞くことができたんですよ。
ーそれは行ってみたいかも。ー
作品自体はずっと前のものだったんですが、このような工夫をすれば、いくらでも活用できるんですよね。
ロケ地は観光のツールにしても、どうしてもブームになったときだけで終わってしまうケースが多いので、このような持続させていく工夫が必要だと思います。
観光学は入り口が広い学問!
ー先生のゼミは観光学について学んでいると聞きました。具体的にはどんなことをしていますか?ー
例えば、観光バスツアーに参加してツアーを客観的に評価をするという課題を行っています。
通常、観光は自分が主人公なので「楽しい!」で終わってしまいますが、そうではなく一歩引いて、「自分はこう感じるけど年配の方はどうなのか?」「子どもはどう感じるか?」など、客観的に一つひとつのスポットを見てもらうんです。
そうして、観光対象として魅力はどうなのか、こういうところに魅力はあるがこうしたらもっと良くなるね、と改善点を見つけてもらいます。
ーつくり手の目線ですね。ー
そうですね。どういう風にそのツアーをつくっているのか、商品としてどういうところが良くて改善した方が良い点はどういうところなのか、などをいろんな視点から見てもらっています。
例えば、この前は、学生たちに「オーバーツーリズム」の問題を感じてもらうため、埼玉県川越市に行ってきました。
ー「オーバーツーリズム」?ー
「オーバーツーリズム」とは、観光客の集中による弊害のことです。
川越市は最近、外国人の観光客の数がすごくて、混みすぎているんですよね。しかも、たくさんの人が歩いてるところに車が通っていたりするから危険だし、行きたいところにすぐ移動できない。
また、外国人観光客が食べ歩きをしながらお店に入ってきてしまったり、ゴミを自転車の上に置いてしまったり。
ー文化の違いってありますもんね。ー
はい。このような問題をどういう風にすれば解決できるかなど、高崎市に住んでいたら触れられないような課題を感じてもらえればと思って訪れました。
このような観光に関する知識は、将来はもちろん、自分が旅行するときにも役立てることができると思います。
ーなるほど。岩下先生が思う、観光学の魅力はどんなところですか?ー
観光学って一つの独立した学問ではなく、例えば地理学だったり、経営学だったり、経済学、心理学など、いろんな異なる学問を使って学ぶものなので、入り口がすごく広いんです。
例えば、地理に興味のある人が観光学を学ぶこともできるし、経営に興味がある人が観光学を学ぶこともできます。
ーいろんなところから興味が持てそうですね。では最後に、高校生の皆さんへメッセージをお願いします!ー
日本は観光産業を、これから経済をより発展させるための一つの重要な柱としてとらえているので、今後どんどん注目されて、発展していくと思います。
若い人たちには、将来観光産業や日本の産業をより良い形で発展させる力になって欲しいので、ぜひどんどん学んでいただいて、将来日本のために何か力を貸していただければと思います!
先生のおすすめ図書
今回インタビューした教授
商学部 経営学科
岩下 千恵子 教授
・“Media representation of the UK as a destination for Japanese tourists: popular culture and tourism”
Tourist Studies, Sage Publications,Vol.6, Nr.1,(2006 年)
・ “Roles of Films and Television Dramas in International Tourism: The Case of Japanese Tourists to the
UK”Journal of Travel & Tourism Marketing, The Haworth Press, Vol.24,Nr.2-3,(2008 年)
・ “Defining Japanese hospitality: In search of hospitality in Japan”The Hospitality Review, Threshold
Press, Vol.10, Nr.4,(2008 年)