【TUC×カヤック】開発担当者4人が語る、 新入試「総合型選抜 探究・ブレインストーミング型」座談会
「ブレインストーミング」、通称「ブレスト」とは、複数人でアイデアを出し合う手法のこと。このブレストを大学入試に取り入れたのが、高崎商科大学と面白法人カヤックが共同開発した「総合型選抜 探究・ブレインストーミング型(以下、ブレスト入試)」です。これまでにない斬新な入試方法は、一体どのように誕生したのでしょうか? また、その狙いとは?
今回お話いただくのは、同入試の開発に携わった、面白法人カヤックの管理本部長・柴田史郎さん、同じく社外人事・神谷俊さん、高崎商科大学の広報・入試室、室長・鈴木洋文さん、同じく広報・入試室の羽鳥広平さんの4名です。同入試開発の背景や狙い、また、今後の社会で求められる能力などについて語ってもらいました。
入試は大学と受験生の"マッチング"。高崎商科大で伸びる人材を選抜するブレスト入試。
まず、ブレスト入試について教えていただけますか?
羽鳥:名前の通り、ブレストを使った入試選抜方法です。大学入試というと、筆記試験や小論文、面接などで選抜を行うのが一般的だと思いますが、この入試では、受験生同士でブレストを行い、アイデアを出し合ってもらう。その過程を評価して選抜を行います。
鈴木:ブレスト入試は、次の2つの観点から開発されています。1つ目は、本学にフィットした人材、つまり、本学で最大限に能力を伸ばすことができる人材を選抜する"マッチング"の観点。そして、2つ目が、入試を「通過点」としてとらえ、これからの社会で求められる能力を、高校・大学が連携して伸ばしていこうという「高大接続」を目指す教育的観点です。
この2つの観点を捉えて入試改革を推進することは、意義のあるものだと思います。高校教育は、大学受験のためだけに学ぶ場ではなく、高校・大学教育を通じて社会で生きる力を伸ばす場です。大学入試を「到達点」ではなく、高校と大学をつなぐ「通過点」だと位置づけ、長期的な展望で育成環境を考えていく。そう考えた場合に、入試は変革が求められると考えました。
本学にマッチした人材を選抜し、その人材の能力を伸ばし、最高の状態で社会に送り出すきっかけになるブレスト入試は、高校-大学-社会を1本の「線」としてつなげる、とても理にかなったものだと思うんですよね。
柴田:一見、ちょっと変わった選抜方法に見えますが、企業の採用に当てはめてみると、これって全然普通のことなんですよね。その会社で能力が発揮できる人材、その会社にマッチした人材を選抜するわけなので。
羽鳥:おっしゃる通り、企業の採用って、「この人はうちの会社にフィットするか」とか「最高のパフォーマンスを発揮できるか」とかを見るじゃないですか。本来は、大学入試も同様に「この人はこの学校にフィットするか」「この学校で最大限成長できるか」というマッチング度を見なくてはならないはずなのに、それよりも「点数が取れるか」に重きを置いてしまっている。それっておかしいと思うんですよ。だから、本学で成長できる人材、伸びる人材をしっかり選抜していくというのが、このブレスト入試なんです。
ブレスト入試の開発背景にあるのは、"高大接続改革"と高崎商科大生のデータ分析
ブレスト入試は、どのようにできあがっていったのでしょうか?
鈴木:まず、ブレスト入試の開発された背景として、先ほども申し上げたように 「高大接続」があります。今年は、文部科学省が進める「高大接続改革」という大学入試改革が行われる年です。各大学が従来のようなインプットした「知識」を見る選抜方法から、その人の「考える力」や「発想力」も総合的に見る選抜方法へと変わりつつあります。
羽鳥:高大接続改革では、大学入試の際評価すべき基準として、新しく「1.知識・技能」「2.思考力・判断力・表現力」「3.主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」という3つの項目が設定されたんです。
「1.知識・技能」と「2.思考力・判断力・表現力」は、従来の筆記試験や面接などでなんとか評価することができるのですが、「3.主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」だけは、これまでの試験方法だと評価できないんじゃないか、と学内で悩んでいました...。
そんなとき、以前から企業連携をさせていただいているカヤックさんたちとの雑談の中で、「実は今、新しい選抜方法のことを考えていて...」といった話になり、そういえば、カヤックさんが使っているブレストって、主体性、協働性を評価するのにぴったりなんじゃないか、ということになっていったんですよね。
柴田:そのときは、まさか本当に実現すると思っていませんでした(笑)。そこから、実際にブレストで入試を行って、結果を出せそうかどうか分析をしていって、その結果、これはいけるなと。
神谷:高崎商科大の学生の傾向を分析したんですよね。ブレスト入試の開発と並行して、高崎商科大生の傾向を適性テストのデータで分析しました。例えば、授業に対する関心や価値観・態度、キャリア意識など網羅的に抽出されているデータなどですね。これらのデータから、どういう特徴を持った学生がキャリアイメージやキャリア形成の準備を順調に進めているのかについて、経年で分析を進めました。
その結果、「学びたいという意欲が高い」「難しいことに挑戦する意欲が高い」といった特徴を持っている学生ほど、自らの目指す姿を早期に把握し、キャリア形成を適切に進めているということが分かったんです。つまり、「試験だから」とか「単位のために」とかではなく、学ぶこと自体を面白がって意欲的に進められるような姿勢が大事ということなのでしょう。
そう考えたときに、「(1)高崎商科大の学習環境で伸びている学生の特徴」と、「(2)高大接続改革で提示されている内容」、そして「(3)ブレストで強化・評価できる特徴」の3つがリンクしたんですよね。ブレストは、普遍的な情報から、主体的に創造的なアイデアを抽出するアプローチです。主体性や協働性だけでなく知的好奇心や学習態度もあらわれます。それらを評価しつつ、促進する機会としては最適だと思います。
ブレスト入試では、今まで体験してきたことすべて、「生き様」を発揮してほしい
ブレスト入試では、どのような資質を評価されるのですか?
羽鳥:ブレスト入試では、資質の対象を「主体性」「多様性」「協働性」「創造性」の4つの尺度に分類して評価していくんです。例えば、みんなでアイデア出しをしている場を楽しめているか、アイデアが出しやすい場の雰囲気をつくるサポートができているか、自分の思ったことや価値を提示することを楽しめているか、アイデアそのものが面白いか、など。必ずしも、アイデアをたくさん出さなくてはいけないというわけではないんです。
柴田:むしろ、良い「場」をつくろうとする姿勢とか、人との関わり方を重視しているんですよね。例えば、全く盛り上がらないグループワークのチームだったら、盛り上げようと頑張っている人は高く評価されるだろうし、反対に、すでに十分いい雰囲気なのに、さらに盛り上げようと暴走してしまっている人は、「場」に貢献できているとは言い難いです。
みんなで良い「場」をつくって、相互作用を楽しんで欲しいと思います。もしかすると、他の人とブレストをすることで、自分でも気付いていない意外な素養が見出せたり、これまでの能力から急速にジャンプアップする学生も出てくるかもしれませんね。
鈴木:その通りですね、ブレスト入試は、学生一人ひとりの「可能性」を発見し、促進する場でもあります。勉強を頑張ってきた人、部活では補欠でも応援やメンバーのサポートによってチームビルディングに携わってきた人、どんな人でも生かせる可能性がありますし、そういった可能性を丁寧に見ていきたいと思っています。今まで経験してきたことすべてがあらわれますから、「生き様」を表現してもらう入試ともいえますね。
また、試験の後、エントリーした受験生全員に、合否に関係なくフィードバックを行います。その人が持っている素養や能力に気付いてもらうきっかけにもなるといいと思います。
最後に、高崎商科大の広報・入試室のお二人から、学生に向けてメッセージをお願いします。
羽鳥:学生時代は、いろんな人に会って、いろんな考えに刺激されてみてください。そのときに「自分の考えなんてたいしたことない」とか「自分の考えは正しい、正しくない」といったような基準で判断するのではなく、「自分の考えも、アイデアの一つ」「そういう考え方もある」、と肯定して認めてみてください。学生時代から自分にとっての付加価値を見出して、多様化する時代でも自分の思考を自分ごと化して進んでいってほしいですね。
鈴木:学生時代はいろんな人と出会うための準備期間でもあります。自分にとっての付加価値を発見する時間として使って、先の未来も見越して、「これは面白い!」と思える能力も蓄えておいてほしい。スパッと何かアイデアを出すには、知恵もないと生み出せないから、多くの知識を身に付けておくことも大切です。アウトプットに向かうためにインプット、インプットしたものをアウトプットしたら、またインプットが必要になった。そんなスパイラルを繰り返し、動機付けのスイッチも切り替えながら今後の活躍につなげていってください。
今回インタビューした教授
商学部 経営学科
面白法人カヤック/柴田 史郎・神谷 俊
柴田 史郎(しばた・しろう):
面白法人カヤック・執行役員、人事部長。会社でも、休日でも、真冬に北海道の実家に帰るときも、365日を同じ半袖Tシャツで過ごす、Tシャツ部唯一の部員。青春を落語に捧げた落語家人事。
神谷 俊(かみや・しゅん):
株式会社エスノグラファー・代表取締役。面白法人カヤック・社外人事部長など。カヤックでは「社外」人事として、組織外の人間だからこそ分かるカヤック特有の文化を言語化し、人事戦略にフィードバックしている。