[欠落] ジャズマンがびっくりする「ロック」
クラシックからジャズまで幅広く学んできた方でも「ロックがわからない」なんてことを言いだしたりすることがありまして、こちらのほうがびっくりしてしまうことがあります。
ロックにわかるもへったくれもあるもんか。
とはいうものの、それじゃあ「ロックの曲を作ってみようか」なんてことになった場合にそのあたりの無理解は如実に表れてくるものです。これはジャズでも同じことですね。
ジャズの勃興は1900年初頭ということですが体系づけてしっかりと理屈が伴ってくるのが1920年代、ただしそのころはまだそれほど高度なこともしていないくて、デューク・エリントン、ビリー・ストレイホーンという方がそのあたりからどんどんと頑張り始めて1930年代には今までになかった技法を確立してゆき「音楽理論」の本を分厚くしてしまいました。
対してロック・ミュージックは1950年代に勃興、エレキギターという文化とともに1960年~1970年に急成長したもので、よく「不良の音楽」などと呼ばれますが(それについてはジャズも似たようなものでしたが)「理屈より感性」で作られてきた部分が多いのは確かです。
なかでもビートルズの残した功績はたいへん目を見張るものがあり、彼らによって「音楽理論」の本はさらに分厚くされてしまいました。(未だ載っていないものもあると思います)
現代のわたしたちから見るとジャズもロックも産まれてきたときにはすでにあったもので、充分にその秘密が解明されつくした出来事ですが当世をリアルタイムに生きた人たちの中ではそうではありません。
物事をみるには「時代感」がたいせつだと思っています。
ロックの台頭は、「コード」に対する意識を変えた、あるいは「コード」に対して新しい解釈を与えたともいえるのではないでしょうか。
端的な1例を挙げるとそれは「3度の欠如」によくあらわされます。
ジャズマン(というかそれまでの音楽家)が「C」というコードを論ずる場合、それはroot、3rd、5thであるところの「C,E,G」の3音を指し、なかでも3rdであるE音に関しては大変重要な役割を担わせます。
いっぽう、ロックにおいて「C」というコードは「C,G」の2音を指すことがあり、これを「PowerChord」と呼称しています。
もともとの意味での「PowerChord」はその構成音の倍音がE音を潜在的に意識させるため結果として「C,E,G」というトライアド(C,E,G,BbというC7の場合もある)を構成し得るところを意味しますが、ロック・ミュージックにおけるPowerChordは単にC,Gの2音で構成されるすっきりとした(実際にはディストーションのかかった音色で演奏されるためまったくもってすっきりとは聴こえないが)サウンドを指すものです。
ディストーションサウンドでC.E.Gの3音を長い音価で発音する場合、ボイシングによってはたいへん不明瞭なサウンドを供することとなります。
これはオルガンなどの楽器でクローズボイシングを使用してトライアドを弾いてしまうときにおこるものと同じで、どこかの音をスプレッドするか、オミット(省略)するなどの処置が必要となることに近しい。(事実このコードタイプを表すために「C (omit3)」などという表記も存在する。)
そして驚くべきことに、このパワーコードを用いて楽曲を構成する場合に於いては「3度は長3度と短3度のどちらを使用してもよい」という(当時としては)革新的、革命的な技法が取られたのです。
それまでの調性音楽に於いて、兎にも角にも真っ先に考慮される3度が斯くの如く軽んじられるというのは、当時ではまさに驚天動地的な出来事であったと想像されますね。
ここで、キーがGメジャーの、ダイアトニックで構成された簡単なコード進行を(何でもいい)思い浮かべます。
そこでアドリブを演奏する際、ジャズ的アプローチであれば各コードの3度を最も重要視します。
それに対してロック的アプローチをとる場合、あくまでダイアトニックコードで形作られたコード進行であることを前提にすればペンタトニックを使用したフレイジングを中心に据えていくことがわかりやすいメロディづくりに役立ちます。
キーがGメジャーである場合Gメジャーペンタトニックスケールを用いるのがもっとも親和性が高いはずですが、これがロック的アプローチということになれば、Gマイナーペンタトニックスケールということになってもいいわけです。
また、どちらかに限定しなくてもいいわけですからこれらを織り交ぜる、混成して使用することも可能となります。
混成した場合、音列としてはブルーススケールまたはブルースペンタトニックスケールに近くなります。さらにブルース色を強めたければb5音を織り交ぜるようにするとその目的を果たすことが容易になるでしょう。
また、Gメジャーペンタトニックスケールと同じ音列ですがEマイナーペンタトニックスケールを使用することも可能ですし、そのうえでb5音を追加すると主音であるGから見た場合にBb(短3度音)となります。
つまり自由度が格段に大きくなるわけですね。
さすが自由を求める音楽です。
実際にはこれらの技法はジャズやその他の音楽へも逆輸入されていきますが、それはそれとしましてことロック・ミュージックに於いてはそれまでの間考えられてきた方法と少し違うやり方が通用し得るということになります。
ただしこれらの方法がそれまでの音楽に全くなかったかというと、実はそれなりにいろいろなところで垣間見ることができますので、音楽はやはりどこかがつながっているものなのだなぁと感じるのです。
ロックもジャズも、ともにブルーズを先に理解していないといけませんね。
京都在住のサックス/フルートプレイヤーです。 思ったことを自分勝手に書いていきます。 基本、内容はえらそうです。