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先祖代々守ってきた重文の奈良県・中家住宅の悲劇と復興へ
奈良県安堵町(あんどちょう)にある江戸初期の建築された中家住宅(なかけじゅうたく)があります。
国の重要文化財として認定され、先祖代々とご子孫の方々が守ってきました。
しかし、令和6年7月29日に近隣の焚火が原因で住宅の一部に燃え移り、火災にあうという悲劇がおきてしまいました。からぶき屋根の住宅にとって、火は天敵です。
幸いご家族には、無事でしたが、先祖代々守ってきたものが失われた憤りは計り知れません。
再興に向けて「火災で焼損、安堵町の中家住宅。代々守り継いできた文化財を修復したい」として令和7年2月5日~3月31日までクラウドファンディングで寄付を募っていらっしゃいます。
中家住宅について紹介していきます。
重要文化財「中家住宅」
奈良県生駒郡安堵町にある中家住宅は、国の重要文化財に指定されている環濠屋敷です。この住宅は、かつて戦国武将の館としての機能を持ちつつ、江戸時代には庄屋としての役割も果たした、武家造りと農家造りが融合した貴重な建築です。
環濠屋敷の特徴
中家住宅は、”二重の濠(ほり)”に囲まれた「環濠屋敷」であり、外濠と内濠の間には竹藪が広がっています。かつては南側の外濠も存在しましたが、現在は消滅。
しかし、中世の土豪が築いた「平城(ひらじろ)」式居館の名残を今に伝えています。
正面入り口には「上げ板」式の板橋が設けられ、防御機能を備えていました。
中家住宅の歴史
もともと中氏は足利尊氏に仕えた足立氏の流れをくみ、大和国で「窪田氏」として勢力を持っていました。その後、1391年(明徳2年)に「窪田中氏」と改め、戦国時代には筒井順慶の一族として活躍。
しかし、筒井氏が伊賀へ移る際には同行せず、豊臣秀長に仕えました。その後、武士から帰農し、庄屋や大庄屋を務めたことで、現在の中家住宅の形が築かれました。
建築の見どころ
主屋(1659年頃)
中家住宅で最も古い建物で、大和地方特有の「大和棟」という様式の屋根が特徴です。
この屋根は急勾配の茅葺と瓦葺のバランスが美しく、1998年には日本民家シリーズの記念切手の図案にも採用されました。巨大な竈(かまど)
主屋の土間には、日本の民家では最大級となる**11の焚き口を持つ「勾玉型の竈」**が残っています。これはかつて多くの人が集う庄屋としての役割を担っていたことを示しています。城郭の名残
二重の濠に囲まれた中家住宅は、中世の館城(やかたじろ)の形式を今に伝えています。さらに、天正時代(1573~1592年)の遺物も発掘されており、歴史的価値の高さがうかがえます。新座敷(1773年)
奈良県下では年代が確実に判明している最古の桟瓦葺(さんかわらぶき)の例とされています。防火構造「すのこ天井」
竹と渋紙を敷き詰め、その上に防火目的で土をのせた特殊な構造で、近年の火災でも火の拡大を防ぐ効果を発揮しました。持仏堂と庫裡(くり)
一般の住宅でありながら、お寺を備えていたことが特徴です。大正時代までは僧侶が庫裡に住みながら守っていたと伝えられています。江戸時代の「蒸し風呂」
来客用の戸棚式蒸し風呂が残っており、当時の生活文化をうかがわせます。
重文・中家住宅の復興へのクラウドファンディング!!
2024年7月29日、奈良県生駒郡安堵町の重要文化財・中家住宅は、隣家の焚き火の不始末により延焼火災の被害を受けました。消防隊の14時間に及ぶ懸命な消火活動により全焼は免れたものの、茅葺屋根の大部分が焼失し、屋根の梁や軒、座敷部分にまで被害が及びました。さらに、消火活動で多くの家財道具や歴史的資料も損傷を受けました。
失われたものと、つながる思い
中家住宅は、戦国時代に帰農した武士・中氏の屋敷として江戸時代に庄屋を務め、地域の文化とともに受け継がれてきた武家造りと農家造りが融合した貴重な建築です。
地域の歴史教育の場としても活用し、小学生や高校生を招いて「火の文化」「食の文化」を伝える活動を続けていました。しかし、40年ぶりに修復されたばかりの茅葺屋根が炎に包まれる姿を目の当たりにし、無力感と喪失感しかありません。
再建に向けた決意
火災発生後、国や県の視察が行われた結果、柱が残っているため重要文化財としての価値は失われていないと判断され、奈良県主導のもと修復計画が進められることに。
しかし、主屋の半解体修復には約5億円、防災工事にはさらに約1〜2億円の費用が必要とされ、国や県の補助金を受けても3,000万円以上の個人負担が求められます。
また、茅葺屋根の建物は火災保険に加入できないため、保険金による補填も望めません。この現実を前にしても、ご当主は「ここで途絶えさせるわけにはいかない」と決意しました。
クラウドファンディングを通じて後世に
文化財の再建には膨大な時間と資金が必要です。
そして何より、これからを生きる世代にこの歴史と文化をつなぐためには多くの人たちの寄付が必要です。
今回のクラウドファンディングでは、焼失した屋根や建物の修復、そして今後の維持管理に活用されます。
あとがき
2月8日のニュースで中家住宅の火災について知りました。
近隣の不届きな焚火によって、先祖代々守られてきた文化財が失われたことに憤りを感じます。
文化財保護を専門に勉強した者として、微力ながら寄付をさせていただきました。
何百年と受け継がれたきた伝統・文化・文化財などを大切にしていくことが必要です。
国・行政には、もっと充実した補助金の拡充を強く求めます。
ご賛同して頂ける方はぜひ寄付の方をよろしくお願いいたします。
参考文献
「火災で焼損、安堵町の中家住宅。代々守り継いできた文化財を修復したい」
Yhooニュース「国の重文「中家住宅」、近隣のたき火燃え移り修理費5億円…公費補助も所有者の負担2500万円に」(2025年2月11日閲覧)