【短編小説】目が合う2人
……見られている……気がする……。
そう感じ始めたのは、5分前のこと。
駅で待ち合わせをする俺は、時々目が合う、同年代くらいの女の人に気がついた。
俺が目を逸らすと、向こうも逸らす。普通、覗き見したいのなら逆だろ。とか思いながら、でも、その美しく惹き込まれるような瞳に、抗おうと思っても抗えない。
しかし、そう浮かれる俺も、そろそろ違和感も抱く。
だって、おかしくないか?こんな冴えない男をガン見?世界75億人に俺の写真を見せても、イケてる!と思う人がいるかどうか。それなのに、しばらく経っても、彼女と目が合う。
もしかしたら、俺の命を狙っている殺し屋……!?
俺について調査する怪しい探偵!?
俺を良いカモにしようとする詐欺師!?
俺の被害妄想は膨らむばかり。
そろそろ、俺の心は限界だ。思い切って、直接聞くことにしよう。偶然なら、偶然で済ませれば良いだけの話だからな。
トンッ
驚いた。俺が一歩を踏み出したのと丁度同じくして、彼女も、赤いヒールを前に進めた。
しかし、ここから引き返すという訳にも行かない。
彼女との距離は縮まってゆき……!
「あの!」「あの!」
え……?このタイミングまで同じ?
俺は、意を決して、彼女に目を合わせていた理由を尋ねる。しかし、それぞれが声を合わせるタイミングもまた同じで……。
「あの、なんで俺を
見てるんですか?」
「あの、なんで私を
見てるんですか?」
どうやら僕たちは、怖いくらいに一緒なようだ。