自分と“世界”を重ね合わせて描く/画家・古田和子
東北芸術工科大学校友会・リレーインタビュー「TUAD OB/G Baton」(ティーユーエーディー・オービー・オージー・バトン)では卒業生が日々歩まれてきた人生をインタビューと年表でご紹介します。
第13回目は画家・古田和子(ふるた・かずこ)さんです。
古田さんは、芸術学部美術科日本画コースに2009年に入学しました。ゼミ担当教員は番場三雄(ばんば・みつお/学部)先生、長沢明(ながさわ・あきら/大学院)先生でした。
モチーフは日々の暮らしの近くにある物語
――芸工大での思い出を教えてください。
思い出と聞かれて最初に思い浮かぶのは、身近な自然の風景です。
それまで東京に住んでいた私にとって、空の広さを感じたり、子ども芸大の横の小川でホタルを見たり、自然を身近に感じられる環境で過ごせた学生生活はとても貴重な経験でした。
それから、私が在学していたときは、国内外で活動するアーティストが学内で展示をしていたことを、とても印象深く覚えています。
特に大学院1年生のときに開催されたジャン・リュック・ヴィルムートさんの展示(ジャン・リュック・ヴィルムート展「Half Life」/会期:2013年10月8日~11月29日/会場:やまがた藝術学舎)が忘れられません。私はその時、ヴィルムートさんの滞在制作のサポートをさせていただいたのですが、ヴィルムートさんに出会えたことが「作家として生きていこう」と思うきっかけになりました。
――東京在住の古田さんが関東の美大ではなく山形にある芸工大を選んだきっかけ・理由はありますか?
芸工大は、憧れていた岡村桂三郎先生がいらっしゃったり、のびのびとした校風に魅力を感じて、ここだったらやっていけそうだと思い入学することを決めました。
東京以外の場所に住んでみたいという気持ちがありました。
故郷は好きですが、同時に違和感もあったので、少し距離をとってみたかった。結果的に、山形のことも、故郷のことも大好きになりました。
――現在も山形市内にアトリエを構えて制作をされていますが、どのように作品制作に取り組んでいますか?
その土地にある物語や、出会った出来事からインスピレーションを受け、自分の中で解釈しながら作品にしています。
例えば栃木県益子町では高館山のキビタキの話、牡鹿半島では半島に生息する鹿などをモチーフに作品にしてきました。
浜の暮らしのはまぐり堂(宮城県石巻市)や旧西村写真館といった、土地に根ざした場所で、そこにある物語を形にし、その場で発表する活動も行っています。
近年は自分が今住んでいる場所と、世界で起きていることから感じたことを重ね合わせ、作品を制作しています。
世田谷美術館やリアス・アーク美術館(宮城県気仙沼市)などの大きな空間で個展をさせていただくこともあります。
――空想ではなく、実在する物語や生き物、場所に紐づいけて制作を行っているんですね。これまで制作した中で、思い入れのある、あるいは印象深い出来事や作品はありますか?
浜の暮らしのはまぐり堂との出会いをきっかけに制作した「ぼくらの居場所は海の向こうか森の中、はたまたどこか彼方。」は印象深い作品です。
はまぐり堂がある牡鹿半島では、そこで暮す人々の生活に影響を与えるほど鹿が増えています。
東日本大震災を通して死と向き合った彼らが、鹿を駆除することにためらいがあるという話を聞き、このもどかしい気持ちをそのままに作品にしたいと思い描きました。
不思議だと思うものごとを不思議のままに表現できることや、白とも黒ともつかないものを受け止めることができることを絵から教わりました。
――古田さんの作品は草木や動物などがよく描かれていますが、昔からモチーフとして自然を取り入れていたのですか?
小さいときから描く対象は、動物や身近な植物でした。
私の故郷は東京都世田谷区なのですが、世田谷はもともと農家さんや牧場などがある自然豊かな場所で、いまでもその面影が残っています。
そういった環境で、小さな生き物の観察をすることや季節の植物を眺めるのが好きで、絵を描くと自然とそういったものを描いていました。
その経験が少なからずいまの作品制作に影響を与えているとおもいます。
――山形を拠点に制作することの利点と欠点はどんなところですか?
利点は、自分のペースが保てること、温泉があること(制作において体のメンテナンスはとても大事)、自然が身近にあること。
欠点は、いろいろ考えてみたのですが、あまりないですね。。
海を越えられる日を待って
――いまだコロナ禍で思うような活動のできない場面も多いかと思いますが、今後挑戦したいことなどはありますか?
まだ行ったことのない土地に出かけたいです。特に海外に行きたい気持ちが強くなっています。
なかなか自由に出かけるのが難しい状況が続いていますが、落ち着いたらぜひ実現させたいです。
――では今の状況が好転して、どこへでも行けるようになったら、どこで、どんなものを見たい、経験したいことなど、今思いつくことはありますか?
まずはフィンランドに行ってみたいです。フィンランドの森を歩いたり、人々がどのように暮らしているのか見てみたい。
あと、韓国に行きたいです。韓国の民芸品に興味があって、どんな風土から生まれくるのか見てみたいです。
――今後の展望について教えてください。
40歳までに留学できたらいいな、と思っています。
あと絵本を描いてみたいです。
おばあちゃんになっても絵を描いていられるように頑張りたいです。
――最後に、東北芸術工科大学で学ぶ在学生のみなさんへ、メッセージをお願いします。
学生の時はいろいろな経験をして、自分が好きだと思うことと向き合う時間をぜひ作ってほしいです。自分の「好き」が見つかると、どんな状況でも自分なりに楽しめると思います。
■古田和子WEBサイト
■Instagram:kazuko_furuta
編集後記
「自然の清と濁を描く人」
古田さんとは6年ほど前の4月、大学の嘱託職員として知り合いました。
その当時、採用された嘱託職員はとても多く、その大多数を占める副手は学部や大学院を卒業した年齢の人ばかりだったので、ずば抜けて年長者の私はその若さにそれはそれは動揺したものです。そんな中でも仲良くしてくれた古田さんに癒しを求めていたことはここだけの話です。
古田さんはとても透明感のある人です。それでいて心地良い“湿度”を感じます。なんとも表現しきれない独特の魅力的な雰囲気がある人です。
そんな古田さんの作品をしっかりと見たのは校友会15周年記念マルシェでした。当時マルシェに出店していた友人のブースの2つ先で、古田さんの描いた2匹のオオカミが行き交う人を見ていました。睨まれていると感じた人もいたはずです。同じだけ見つめずにはいられない人もいたでしょう。それくらいに強い眼光を放ち、神々しいほどの生命力に満ち溢れていました。(あの絵は売れてしまいましたか?)
彼女の作品は自身のもつ透明度と湿度を保ちながら、神秘的でいて、時に土の匂いが鼻をくすぐり、時に獣の匂いをまとい、色使いなのか、筆運びなのかわかりませんが、ただの美しい絵ではなく、自然にある清と濁の全てを優しく内包しながらそこにある、そんな印象を受けます。
彼女の描く動物たちとは、しっかりと目を合わせるようにして作品を見ていただきたい。
古田さんが絵本を出版したら、私は発売日翌日にコマツ書店(山形では大きいめの本屋さん)に買いに走るでしょう。(地方は発売日が1日遅れてやってきます。)
ぜひ実現していただきたい!と強く強く願っています。
校友会事務局 カンノ(デザイン工学部生産デザイン学科 卒業)