「Novelism」の利用者はみんなハッピーになる? ~作家2.0「収益化作家」の可能性とは
「Novelism(ノベリズム)」に関してはもう少し動向等を見てから語ろうかと思っていたが、YouTubeの動画で悪くというか否定的に言っている人がいた。そう考えるのは分かるが、ただ、えらく勘違いしていると思ったから今回「Novelism」に付いて語ろうと思う。
先に言っておくが、その動画に対しての反論、否定したい訳でもない。ここらは事前に訂正して置かないと色々と問題になりかねないので、丁寧に前置きさせて貰った。
ただ、私は「Novelism」に対してある程度、肯定的な目で見ているのもあるが、まだ始まったばかりのサービスに対して否定的に語るのには好きにはなれないという点もある。
さて、「Novelism」とは新しい小説投稿サイトではあるが、動画の内容での指摘点は「無料」の小説投稿サイトが多くある中で、「有料」の小説投稿サイトなんて成立するはずがないといった指摘だ。
確かに「Novelism」は他サービスの利用者からすれば、「有料」である点は利点がないように思える。だが、それは違います。ここまで「無料」が多用する中では、それだけで「有料」に対し需要があるのです。
例えば、「高級食パン」がなぜブームになっているのか?
これを例に出せば分かる様に、「無料」の小説投稿サイトがある中であっても、「有料」の小説投稿サイトは成立する道筋が立っているのです。
まず、そこをハッキリしないと「Novelism」の魅力を勘違いしてしまいます。ですから、「Novelism」における利用者、読み手のメリットから先に語っていきましょう。
利用者のメリットとは
「Novelism」は「有料」であることから作家側にとっては収益得る機会となる。これは利点はあるだろう。
では、利用者にとって小説投稿サイト以外にも様々なモノが「無料」で読める中で、お金を出してまで読む利点はあるのか?
軽く「無料」に対して補足をすれば、どのサイトにしても完全な無料ではない。広告収入にしろ何ら形で収益を生むようにしている。「完全無料」と言う概念は少なくともネット上には何処にもない。
「いらすとや」にしても、「完全無料」は謳っていないし、権利だって主張している。後、広告収入だけでなく、そのイラストのキャラクター性等でマネタイズ、収益化に至る活動もしている。
現在的な意味での「悪貨は良貨を駆逐する」とは、品質は多少悪くとも安くて使う分には問題ないと使われ、一方、品質が良く、使い勝手も良くとも値段の高さからあまり使われることはないといった具合だ。
「Novelism」に否定的に言っている人も、この点で駄目と思っているのだろう。
だが、先に挙げた「高級食パン」のように我々は十分に安くて美味しい食パンがある中でも、「高級食パン」を求める。しかも、値段だけでなく、遠い場所であっても、並んででも、手間をかけることすら厭わない。
そこには幾つかの理由があるが、その価格、労力を合わせても満足、期待できる品と消費者側が分かっているからこそ、購入に至るのである。
ここに置いて、「悪貨は良貨を駆逐する」は成立しない。
これを「Novelism」に置き換えてみよう。「Novelism」の「有料」は契約作品を読むことにある。今のところ、書籍化して一線を活躍するプロで書かれたモノが並んでいる。
つまりは「高級食パン」の様に品質が金銭によっても保証された有料コンテンツである。逆に無料で読める部分は普通の「食パン」となる。
「高級食パン」の様にプレミア感を手に入れるためなら、コストと手間を惜しまない。このような、基本サービスが無料で提供し、さらにプレミアな価値、機能に対して課金する仕組みを「フリーミアム」という。その言葉が示す通り、「フリー」と「プレミアム」の二つの単語から作られている。
そして、「Novelism」は今後、投稿作品から適性あるとされる作品に対して声をかけて契約するとある。
別側面から言えば、小説投稿サイトで数多ある作品を読み続け、良作を見つける人達をスコッパーと呼ぶ。この砂漠の中からダイヤを見つける作業、スコッパーを「Novelism」は代行しているともいえる。
また、作品を投稿する側にとっても、プロ同等の箔を得る機会としてメリットとなる。
その対価が「有料」と言うわけである。そもそも、他の小説投稿サイトとて書籍化の流れだけ見れば同じことである。
必ずしも有料である事はデメリットとはならない。「フリーミアム」が示す通り、アプリゲームでも課金しなくとも楽しめる様に棲み分けが出来ているのです。
そもそも、「Novelism」に置いても「有料」作品の冒頭は読めるため、「有料」以降の部分も読むに値するかは利用者の判断に委ねられている。価値の分からない物に買って確かめるという必要もない。
むしろ、我々消費者は「安かろう悪かろう」に飽きてきている。だからこそ、「高級食パン」の様に箔を与えられた「プレミアム」に意味を求める。
当然、貧富の差で「高級食パン」にそもそも手が出せない話もあるだろう。ここではそこまでも踏み込んだ話は抜きにします。
これらを勘違いして、「Novelism」は有料コンテンツだから駄目、つまり『「無料」が正義、「有料」が悪』という考えるのはビジネスとしても成立しない。
客に対してはお得であるがために、店の経営が成り立たなくなってしまう、これでは共産主義もびっくりである。
近江商人の経営哲学に「三方よし」とある。『買い手よし 売り手よし 世間よし』。今では更に増えて「八方よし」と言われている。
「Novelism」とて今のネットビジネス。少なくとも『買い手よし 売り手よし 世間よし』でなければ、成立しない。何処かでバランスが悪ければ、炎上する。
現に上記の記事のようにゲーム内広告でゲーム会社は収益を得ようとしたが、ユーザーに対しては何の還元もなく批判された。
「Novelism」はビジネスである以上、利用者みんなハッピーになる構造でなければ成立しないのだ。
そもそも、まだ始まったばかりのサービスに対して見もせずにダメというのは早計である。だからこそ、私も少し動向を見てから判断しようと考えていた。
また、「Novelism」の「有料」に対するを批判するのであれば、同じシステムがあるYouTubeで指摘するのは場違いであるが。
さて、次はビジネススタイルの側面からも見ていこう。
ビジネススタイルは一般的になっている
ライブ配信サイト「Mildom(ミルダム)」をご存じだろうか。私も詳しくはないのだが、ゲームを中心とした配信サービスで特に話題になっている点は配信者の収益性にかなり特化している所だろう。
その収益性もあってか任天堂を始めとしたゲーム会社からは配信が禁止されている。
こちらも「Novelism」同様、中国資本が関わっている。
「Novelism」の投稿者に対して収益性のあるビジネススタイルは周りから見れば、一般的になっている。そもそも、YouTubeも同様である。
決して斬新ではない。小説投稿サイトから見れば、斬新である。
しかし、これも日本国内に限った話で中国の小説投稿サイトではすでにサービス提供側も利用者側でも収益モデルが確立して、これで収益を出している作家がいます。そして、サービスは継続されています。
その上で、その収益モデルから様々な問題も浮き彫りになっているほど、話は進んでいます。
また、「Novelism」ほどの収益性を前面に出してないしろ、国内の小説投稿サイトでも収益性のあるシステムは存在している。
だから、「Novelism」はそれらの利点、問題点を分かってビジネスを展開をしているのです。前例があるため、失敗する可能性は比較的少ない。
だからといって、成功するとも、失敗するとも絶対ではない。
それでも採算性は取れると会社という集団が判断して、ビジネスとして打ち出している。
ここは勘違いしてはいけない。
そして、ビジネススタイルは確立しているからこそ、周りもそれに賛同なり協力をする。ライブ配信サイト「Mildom」にしても、多くの問題は抱えています。しかし、それ以上の魅力もあります。そういう背景もあるからか三井物産とタッグを組んで日本へ進出をしている。
「Novelism」もこの点は同様で『ノベリズム大賞』では下記の文言がある。
大賞は一迅社からのコミカライズ確約!
一迅社が「Novelism」に協力なり賛同しているのが、これで分かります。
「Novelism」が絶対に成功するとは言い切れません。ただ、ビジネスとして打ち出す以上は失敗する可能性は薄い状態で始めています。そして、それは周囲の企業も協力という形で判断している。
一個人が気に食わないからと否定的に言った所で、相手は集団で決め、その方向に向かって集団、他の協力者も得て動いていることなのです。
先にも言った通り、今は関係するモノ皆がハッピーとなる様な形でなければ、何処かで破綻しやすい時代です。一人勝ちなど許されません。
それに「Mildom」のような収益性、有料に対する批判、問題はあるにせよ、全てが始めから完璧なモノなど何もない。だから、それらを改善して前に進むのが普通なことなのです。
ただ「Novelism」と付き合うリスクとは
だが、私とて「Novelism」に対して全面的に肯定、信頼しているわけではない。とはいっても、先に述べた通り読む側にとっての「有料」はそれほどリスキーとも危険視していない。
むしろ、収益を得る側である契約作家の方が割を食っているのではないかと考えている。
例えば、下記に載せたように皆勤賞システムは条件を満たせば毎月3万円(税別)がもらえるとある。
また、執筆モチベーションのひとつ、最低限報酬保証として、契約作品には皆勤賞システムというものがあります。原稿料とは別に、一定の作品更新ペースを維持していただきますと、毎月3万円(税別)がもらえます。具体的には月に計24日の新話更新があり、更新ごとに文字数が3000字以上であれば、皆勤賞の条件を満たすことになります。
この皆勤賞の条件を計算すると月72,000字以上となる。プロなら1日1万字とはいうが、「Novelism」とどのように接するかで、この条件は難しくもあり、簡単にもなるだろう。
例えば今現在、契約作品にはプロの作家もいるが、他の案件と平行しての執筆となると、この条件のクリアは少し難しいかもしれない。
単純に考えても2本の連載なら、仮に1日1万字書けたとして、1本ではその半分の5,000字となる。
逆に簡単とする場合は「Novelism」とほぼ専属化で書き続けることである。
ここに関しては中国の小説投稿サイトでは文字の水増し、分業による執筆など裏技を駆使していると言われている。
ゆえにこの条件は私自身あまり好意的に見ていない。中国と似たような流れになると思えるからだ。当然、日本は後手であるから対策はされていると思うが。
ただ、素直に毎月3万円(税別)を貰おうと思うと先にも述べたように、ほぼ専属での執筆となる。また、先のライブ配信サイト「Mildom」でも似たような収益条件が設けられている。1日辺りの最低配信時間という具合に。
これらはもはや、他プラットフォームからの引き抜きと考えても良い。
「Novelism」の利用者、協力者はみんなハッピーになる。ただし、ライバルのサービスに対してはけん制をしかけている。
それが他にはないマネタイズ(収益化)の魅力がある。それに対し、どう付き合うかは利用者の選択に掛かってくる。
(少し余談ではあるが、契約作品の表紙絵は結構いいレベルなのに、タイトルロゴは正直力が入っていないと感じてしまう。何処かで見た事がある感じだし、明らかにロゴ作りの基本から外れたのもある。そこまでお金をかけられないのは分かるが正直、勿体ない所ではある)
そもそも、マネタイズ(収益化)とは
話は少し逸れますが、VTuberというコンテンツも基本YouTube上で配信されているため基本、無料で見続けることが出来ます。
なら、なぜ「スーパーチャット」を始めとする金銭を投げるのか?
また、メンバー限定といった有料コンテンツも成立するのか?
そして、近年では作家に直接支援するサービスも始まっている。
中には商業的な実績がない作家に対しても支援する人もいます。
これらは「Novelism」よりも「有料」の意味が違ってくる。極端にいえば、かけたコストに対して、明確なリターンがある可能性は薄い。
(VTuberの中にはスーパーチャットを始めとする収益の使用目的を明確にしている方も多くいます。ただ、ここでいうリターンは自動販売機のようにお金を入れて、商品がすぐに手に入るようなことでの意味となります)
そして、VTuberというコンテンツは「スーパーチャット」のランキングを締めている。出てきて数年にもならない概念は今や圧倒的に無視できないほどの存在となっている。
こういったクリエイターに収益を得られる仕組みマネタイズ、収益化は新たな可能性を開きました。そして、クリエイター側を支持する側も抵抗なしにその文化を受け入れた。
それを思えば、「有料」の小説投稿サイトは異質とは思えない。先にも述べた通り、誰かが一人勝ちするビジネスは今は成立しない。我々には多くのサービスを選択が出来るからだ。
そして、今までは作家という仕事は書籍といった形でなることで初めて収益を得ることが出来た。だが、現在は新たな道のお陰でYouTubeを活用するクリエイターであれば、制作過程を公開して収益を得ることも可能である。
そういった中で「Novelism」は作家に対して新たな道を提示してくれた場と考えている。だからこそ、私は肯定的でいる。
ただ、分かっている人はすでに「Novelism」などの中間を介さず、自ら全てをこなしている人もいる。
私は書籍化のみに頼らず、収益化のみで商業作家同等になっていく、いわば「収益化作家」は今後増えていくと考えている。
実際、紙で活躍するには出版不況などから、今まで以上に生き抜くのが困難になっている。その上、収益である印税は電子書籍に劣っている。
また、このコロナ渦で流通の関係で現実の品は落ち込んだが、逆に電子媒体の重要は増えているという。
こういった中では紙である書籍化の方がリスクでしかなくなる。ならば、確実な収益化が見込める場で戦う方が作家にとっても得策なのは確かである。
また、サービスを提供する企業側も紙で担っていた出版事業を新たな形で提供し始めている。
「Novelism」はそういった時代の背景を受けて出てきたサービスだと思っている。そもそも、これが先駆けでもないから、企業側もそれを理解してビジネスで打ち出している。
私が何度かネタにしていた「スターダストノベルス」にしても、このスタイルは似ています。
実際、漫画に関してはかなり前からこういった商業と同人の差、意味は語られている話である。
そういった意味では同人作家も「収益化作家」との位置づけに似ている気もする。
ただ、「収益化」という単語はYouTubeのアレをイメージしがちですが。