見出し画像

宣伝負けした名作『探偵はもう、死んでいる。』 ~それでも売りたい理由はそこにあるのでは~

■以前、『86-エイティシックス-』は中年では読みづらかったと語ったが、『探偵はもう、死んでいる。』(著者:二語十 イラスト:うみぼうず)に関して素直に読めた。

この作品は発売前後でツイッターの宣伝で知ったのだが、冒頭のみの情報しかなく、あらすじにはなっておらず意図的に内容を隠している事に気になって買った作品である。
宣伝時点では良作とも駄作とも予想が出来ず、困った所があった。
それにこの作品は【第15回MF文庫Jライトノベル新人賞《最優秀賞》受賞作】。新人の作品で話題性な宣伝ありきな売り方も気になっていた。

さて、それらの疑問は読んでみて理解した。

だが、不透明な内容と冒頭だけしか見えてないだけに、それ以上語ってしまうと若干ネタバレとなってしまう語るに困る作品ではある。
それに自分がこの作品は素直に読めた点もそれに関わってくる。

そのため、この記事は『探偵はもう、死んでいる。』の話の核心には触れずに語りますが、公式でも情報を不透明としている部分が多いだけに、そこに踏み込んで行かないと話も出来ません。
この部分は話のネタバレでは無いとは思いますが、不透明な状態で読んでいくのがこの作品の楽しみでもありますので、この作品が気になって読みたいと思っている方は読み終えた後にでも読んで頂ければ幸いです。

ひとまず、前回の記事と紹介しつつ行間を空けておくとしましょう。



■さて、この作品を語る前に新人賞の作品である事を認識しておく必要があります。そして、大々的なネット上での宣伝と。
大々的とは書きました、ネット上での展開だけにお金としてはびっくりするほどかかっているとは思えませんが、それでも新人という事を踏まえると異例とも思える待遇ではあります。

そもそも、ラノベの新人賞作品である以上、あらすじとその箔だけで無条件で買う人はなかなかな通でなければ発売日に買うことはないでしょう。
ただ、電撃文庫の電撃小説大賞ならレベルが高くなりすぎて、そこを突破した作品というだけで質が保証されていると感じ、買う人も多そうですが。

そんな中で『探偵はもう、死んでいる。』は不透明さ、ある種ノンジャンルを売りにしています。
自分はその情報だけでは地雷なのか当たりなのか判断がつかなかったが、一応なりとも選考で勝ち残った作品がつまらないはずがないとは思っていました。また、つまらなかったら、それはそれでネタにもなると思いつつも手に取ったのですが。
大々的な宣伝な割にはやっていることはリスキーで、見えないから気になって買わす方向である。作品ありきで出てきた新人作品にしては、そこで勝負せずに宣伝するのは変である。
とにかく、宣伝のやり方もよく見ると変である。

実際、読んだ内容は当たりでしたが、問題は宣伝ほど過度の期待して読んだら外れだったという事実でした。
自分は宣伝に対して過度な期待や懐疑的であったため、一旦宣伝の情報はシャットダウンして読みましたので、その差はあまり感じずにすみましたが。

そして、読み終えた後で、ジャンルを不透明にしている内容は理解できました。きっちりとジャンルを定めることはある種、ネタバレになってしまうからだ。

だが、ジャンルを語らないと、この作品の説明にもならない。なので、ネタバレとなるかも知れませんが語ります、ジャンルは『セカイ系』です。
更に核心に触れれば、西尾維新、上遠野浩平らのセカイ系な推理モノである。

これに関しては冒頭を過ぎた当たり、あらすじより先の部分で出てくる内容なのではあります。だから、早い段階ではセカイ系な推理モノと読者にとっても見えてはきます。
早い段階で分かる内容を別に秘密にするような内容でもないのですが、なら、わざわざ不透明にしたのか。

どうも、今のラノベ業界ではセカイ系は売れるジャンルではないとの事と、とある作家がツイッター上で語っていました。それに付随してオカルトもあまり好まれないとのこと。
オカルトというと『裏世界ピクニック』も完全に都市伝説ですが、百合を前面に持っていっています。
また、私が前に『86-エイティシックス-』について語った通り、こちらもSFというよりはセカイ系という印象が強い。

つまり、売れないジャンルよりも売れるジャンルにロンダリングする必要があったというのが多分、答えだと思います。そう、宣伝戦略です。
だからこそ、ノンジャンル、冒頭以上を隠して、衝撃を持って読み続けて貰う必要があったのではないか。

多分、『探偵はもう、死んでいる。』のある程度、確信を触れる部分をあらすじで書いてしまうと、それだけでつまらないと思ってしまうでしょう。

“それなら、ぼくが君を殺してあげようか”スプーキーEの死を探る合成人間ポリモーグは、彼の傀儡だった少女・織機綺に出会う。そこに忍びよるのは「イマジネーター」の残響で……死にきれぬ記憶が、街を襲う。

さて、上記の引用は『ブギーポップ・オールマイティ ディジーがリジーを想うとき』の紹介ページあったモノである。

この紹介文だけで、どれだけの人が手に取るだろうか?
「ブギーポップ」シリーズを知っている人なら十分な内容で興味を引くのですが、何も知らない人には単語の一つも理解しづらいだろう。

『探偵はもう、死んでいる』もあらすじや紹介文を書こうとしたら、これに近いモノになってしまう。先にも述べた通り、セカイ系な推理モノだからだ。

■そもそも、セカイ系に関しては10年ほど前に衰退したジャンルである。それでもセカイ系の代表格である西尾維新、上遠野浩平らは現役で新刊も出てます。

『探偵はもう、死んでいる。』の宣伝戦略を見ると、出版社は今の読者にもセカイ系を売りたいのではないか。
編集部サイドにとってはセカイ系が売れないと分かっていても、過去には販売実績のある鉄板ネタではある。
これを把握して、宣伝、販売展開を考えているはずだ。

実際、セカイ系は多感な思春期には刺さりやすい。『涼宮ハルヒの憂鬱』にしても思春期とセカイ系を両立した作品である。別の言葉でいっても中二病である。

これは自分の推測にはなるのだが、今現場で働く編集者にとって、『涼宮ハルヒの憂鬱』前後で育った世代だとしたら、セカイ系を押したいと思うのも自然だろう。だが、業界にいる以上、売り上げでもセカイ系は下目でもあると分かっている。

そんな中で小説公募から、自分達が育ったセカイ系の流れを組む作品が出てきたら、どう思うだろう?

実際、【第15回MF文庫Jライトノベル新人賞】の他の受賞作品をタイトルだけで確認すると、なろう系のような作品や売れ線ラノベのジャンルである。

編集サイドも多少のリスクを覚悟で、この作品を売り出したいと考えたのでは無いか。それに新人賞でありながら、2ヶ月後には2巻を出す異例な対応だ。
普通なら、市場の売れ行きを見てから出すだろう。いくら売れる道筋を立てていても、失敗するリスクは大きい。企画としても、今の時代だとかなり無理を通したと思う。

『探偵はもう、死んでいる。』の2巻は1巻の発刊から異例なスピードではあるが、予備審査自体で1年前にこの作品を発掘しており、その時点で出版というかシリーズ化が決まったのであれば準備期間も十分にある。
そうでないと、執筆期間等から考えても、この展開はつじつまが合わないからだ。

そう考えると、この宣伝には念入り仕込まれており、そういった意図があると考えるのが自然である。

■ただ、この売り方には問題もある。
不透明な内容だけで売り込んでおり、多くの著名人から推薦コメントを貰って過度な宣伝している。
そして、商品目当てに感想キャンペーンでしている。特に感想キャンペーンのハッシュダグでお互いに監視させることで、感想の均一化、批判的な感想も半ば排除させた印象もある。

これらによって、作品イメージの固定化させて、読者の読書感を阻害させている気がする。
実際、セカイ系を隠してノンジャンルと位置づけて売り出している。そのままの情報を受け取って読み続けたら、どうなるだろうか?

当然、違和感となって読み続けるのが変な感じとなるだろう。

また、過度の期待を持って見た作品が、普通であっても期待分に減点して駄作になりかねないことはよくある事である。鳴り物入りである。

後、感想キャンペーンに並んで『探偵はもう、死んでいる。』のエゴサも酷い。ツイッターで作品名をあげると、もれなく「いいね」をくれる。
(自分は結構、この「いいね」で遊んで、ネカティブな内容な投稿でも「いいね」がくれるか確かめていた。それでも発言した内容自体は本心ではあるので、遊び半分と言った所である)

あくまでこの作品は新人が書いた作品。新人らしさもある作品だけに過度の宣伝では宣伝負けしているといわざる負えない。

それでもセカイ系というネカティブさを消したいとするのなら、それも仕方がない気もして納得する部分もあるが。

■最後に自分自身も『涼宮ハルヒの憂鬱』前後の当時にハマっていたからこそ、『探偵はもう、死んでいる。』は問題なく読むことが出来た。特に「ブギーポップ」シリーズも好きだった。

だからこそ、今のセカイ系と言う事も考えれば、この宣伝にも一定の理解はできる。それでも、宣伝通りの印象は一切なかった。
正直、宣伝通りだと鳴り物入りのイロモノ扱いになってしまう。また、2巻のスピードからも異例であり、良作とはいえ、ある意味売りたいモノを売っているだけと邪推もしてしまう。

ただ、少し作品の中身に触れれば、新人だけに実験的な部分を自分は高く評価したい。何しろ、タイトル通りメインヒロインを早々に退場させたからだ。普通ではない。
ただ、これはラストに至るまでにも十分に回収される内容なので、楽しめた。これは新人作品でないと、企画段階で没にされそうなネタである。

それでも、メインヒロインとの伏せられたやり取りは、どうも2巻の紹介を見るとそこで補完されるようだ。だが、この作品は本来1巻完結で挑んだ、小説公募作である。
この作品を売るためにも、2巻で弾みを付けたいのだろうが、1巻で完結した作品にとっては2巻というだけでも蛇足感もある展開とも見えてくる。確かに、この物語の先や過去は気にはなるが。

これに関してはラノベ業界自体が小説公募作であっても、売れれば続編を作るという流れであるから、ここは指摘点にしても今更な話でもあるが。

■少し話は逸れるが、ジャンルロンダリングは小説投稿サイトでも、ユーザー間では問題となっている。こちらはランキングの絡みで有利に進めるための手法ではある。
ただ、運営側はこの行為を合法とアナウンスしていた。
よくよく考えれば、商業でも堂々とやっている手なので、小説投稿サイト上では取り締まれば自分達も首を絞めることになる。
だからこそ、合法とアナウンスするしかないかったのだろう。

そう考えても、『探偵はもう、死んでいる。』はセカイ系という事実を隠してジャンルロンダリングが必要だったのだろう。

それでも売りたい理由はそこにあるからではないか。

■追記(2020/3/22)
『探偵はもう、死んでいる。』発売から4ヶ月経たずで1巻5万部突破とのこと。デビュー作でもある新人賞を取ったラノベ作品では多分、異例なスピード、部数であろう。調べてみると現状では『涼宮ハルヒの憂鬱』を超える部数展開である。

スニーカー大賞で久々の大賞受賞作、しかも筆者の谷川流が電撃文庫と同時デビューということで話題になった。1年ほどで1巻が10万部を超えるまでになった。
出典: 「涼宮ハルヒシリーズ」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

何の背景もない作品がここまで部数を伸ばすことは完全に宣伝なしでは無理なこと。そう、とある「ワニ」のように。

その証拠という訳でもないが、『シエスタ×MF文庫J着せ替えコラボイラスト』で各作品の着せ替えだけでなく各イラストレーターに描いて貰っている。多くの人間に関わっている以上、明らかにお金をかけた宣伝になっている。


いいなと思ったら応援しよう!

ツカモト シュン
読んで頂き、もし気に入って、サポートを頂ければ大変励みになります。 サポートして頂けると、晩ご飯に一品増えます。そして、私の血と肉となって記事に反映される。結果、新たなサポートを得る。そんな還元を目指しております。