アニメ版『失格紋の最強賢者』を見て思った事 ~時代を写すクオリティ
『失格紋の最強賢者』のアニメが色々といわれていたので、見てみました。
自分も初手からネガティブな感情が出てきましたが、それ以上の違和感が多く占めていました。元々、この作品は漫画アプリの広告から漫画を読み、続きが気になり、web連載の原作を読んでいました。つまり、すでに原作を知っての視聴であった。
漫画、原作での感想は、定番の「なろう系」の臭さが薄く、普通のライトノベル、漫画作品として読めるといったモノだった。
ただ、同じく漫画広告で有名で同原作者の他作品は「弱すぎって意味だよな」という迷言の方は、この台詞からもいささかといった印象だが…
さて、話はアニメに戻るのだが、そんな「なろう系」の臭さ、えぐみが少なかった原作がアニメではなぜか一気に増していた。原作、コミカライズでは感じなかったモノがだ。
それがアニメ視聴して、ネガティブな感想だったが、それ以降はなぜこんな作りにしたのかと気になってしまった。そう原作時点では真逆の演出をしたのか。
まあ、世の中にはアニメ作品等の描写と自身の職業経験があってないことでクレームをいう人もいるが、私としてもなんでこんなアニメ製作をしたのかと気になって作品が楽しめなかった。
こんな風に考えるのは私だけとしても、実際、このアニメは賛否というか、否の意見が大きく聞こえている。それだけに、このアニメ化が原作と離れているというのは間違いない。
今回、この理由を考えていくつかの仮説が見えてきたので書いていきたい。
■なろう小説の連載速度と30分アニメの速度
『小説家になろう』などの小説投稿サイトでのスタイルは、ほぼ毎日連載が主である。そのため、細切れした話、エピソードの連続となってしまう。
それは例えるなら、4コマ漫画の様に1つのエピソードを4コマの起承転結として、一つの話としているいる感じだ。
『失格紋の最強賢者』のアニメ1話冒頭にしても、商人との会話から魔物が登場、討伐と約1分の超速展開。今はweb連載版は削除されてはいるのでうろ覚えの話とはなるが、これもweb連載で1話分のエピソードだったはず。手持ちであるコミカライズでは確認したが、数十ページを使った1話としている。
本来、この場面は約1分で終わるエピソードではない。
このアニメは終始、このような「なろう小説」で日々1話消化できるエピソードを、アニメでは更に起承転結だけにまとめ、再編集している。
それだけにアニメ1話で書籍における1巻をほぼ消化している。ここがファスト動画と揶揄されている部分でもある。
しかし、web連載という原作自体が短い起承転結の連続という構造だけに、アニメでのこの作りが正解か、不正解は判断が付きにくい。
また、なろう系の作品が書籍化されても、web連載からの短い起承転結から大きな起承転結へと再編集されず、そのままである。だから、アニメ化で30分という時間に起承転結をまとめる直す必要になってくる。これなら、5分ほどのアニメで1エピソードをしっかり描く方が適しているといえよう。
これは毎日連載を得意としたなろう系が、週間30分というアニメへと変換した時の弊害と言えるのかもしれない。こうなってくると、ファスト動画の様な作りはアニメ関係者のみの責任とは言えなくなる。
■冒頭でヒロインを出す理由とは
次に感じたのは原作での幼少期のカットである。
ただ、これに関しては2話から流れるオープニング、エンディングを見れば、答えはすぐに出た。3人のヒロインを早急に出す必要があったから。だから、アニメ1話から早々にヒロイン達が出てくることになった。
ここもなろう系の弊害であるだろうが、この理由はなろう系を理解していない人にはわかりづらいだろう。
なろう系を読む人にとって、その目的はヒロインのかわいさよりも主人公の活躍にあるといわれている。これは現実に満たされない要求を叶えているからとある。
それもあって、なろう系におけるヒロインで有名なキャラといわれると少なく、むしろ、主人公の方が名前が知られているケースが多い。
しかし、アニメの『失格紋の最強賢者』では主人公の活躍よりも、ヒロインとの関係を重視させた。これはアニメといえばヒロイン、美少女を売りにするのが定石だからなのだろう。それが結果としてヒロインが冒頭から出てくる展開となったと考えられる。
だが、その結果が「なろう系」のえぐみが出る結果になったのではないか。
本来、この作品はラブコメではない。主人公の冒険活劇がメインであり、ヒロインとのラブコメ要素はおまけ。それを逆転すれば、ヒロインへの好感度上げが目立つ結果となる。主人公の実力に対するイキりは本来読者のため、ヒロインに向けられればどうなるか。そうすれば異質となってしまうだろう。
他のなろう系アニメでも、ヒロインを重視する流れはある。ただ、その場合は恋愛要素、果てはハーレムだったりと原作時点でもあるから、ヒロイン主体をやっても違和感は薄い。
なろう系で嫌われる要素にハーレムもあるが、昔からハーレムモノは多くアニメ化をされている。それだけにアニメ関係者からしてもハーレム要素は親しみやすく、取り扱いやすい要素でもあるだろう。
このことも踏まえて考えると、ヒロイン登場のため、展開を加速させファスト動画となったとも考えられる。また、幼少期で描かれるはずだった主人公の実力、性格形成を飛ばされ、いきなりの実力披露が変に映る結果になったのではないだろうか。
■なろう系、メディア展開の難しさ
ヒロインを重視する従来のコンテンツ制作から、なろう系の様な主人公の強さを軸とする話の展開はそもそもがマッチしていない。むしろ、この展開が通用するのは時代劇などである。
別のなろう系作品では、ヒロインが主人公が行動を共にするまで小説本1巻分の文章を使ったモノもある。一応はそれまでにヒロインは顔出しこそしているが、それでも冒頭からでもない。
ここは各作者どう思っているのかは分からないが、なろう系はヒロイン登場まで長い作品がある。これは先から述べているように強い主人公が軸だから出来る芸当だ。ルパン三世然り、ジェームズ・ボンド然り、ヒロインこそがサブキャラ、その場限りの扱いである。
しかし、今はまだ強いヒロインが出てくるコンテンツを求めている。先の作品にしても、ほぼ毎回ゲストヒロインが登場する。
ここもなろう系のマルチメディア展開の難しさの一つだと思う。
また、なろう系のアニメ化が難題なのは『無職転生 ~異世界行ったら本気だす』の製作体制からも見る事ができる。それは長期的かつ計画的に継続する体制でアニメ製作が必要となってくると判断されアニメ製作会社が作られたほどだ。
それは原作の長さからだけではなく、商業としての継続も考慮されているのは明白。これは『空の境界』の様な劇場版アニメとして、商業的な成功を収めたモノを目指していると見ていいだろう。
だからこそ、「無職転生」のアニメはあの作画クオリティやアニメ視聴者向けの原作の一部改変を大胆に行っている。それらをしっかりと描いた「無職転生」はアニメとしても成功を得ているのではないだろうか。
ただ、こうなってくるとアニメ化の目的が宣伝目的ではなく、コンテンツ拡大が目的となるのではないか。
そして、『空の境界』や『鬼滅の刃』を製作した、ufotableを見ていても感じることであるが、よく出来たアニメ作品は半ばオリジナルと同等としてみられる。
少し方向性は違うが、『ルパン三世 カリオストロの城』や『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』などは原作者も内容は満足しつつも、原作を改変されたことには怒りが消えることはなかったという。
そして、「宮崎駿版ルパン三世」、「押井守版うる星やつら」といった例えからも今日ではされている。もはや、原作から手を離れた別作品との位置づけである。
今後の展開では「無職転生」もそれがあり得てしまうかも知れない。特にこの作品を長期的かつ計画的に継続させるには、原作の持ち味を市場に変えていく必要が出てくるだろうから。
また、「無職転生」は海外展開の難しさも孕んでいて、問題となっていた。ここに置いては多少の改善が必要となってくるだろう。
その反面、『失格紋の最強賢者』は「無職転生」のアニメ化と比べると作品の宣伝目的としている気がする。これも商業展開と考えれば、良いも悪いもない。原作の宣伝目的と考えると、ファスト動画であっても正解な気がする。
■スタイルとしてのファスト動画
ただ、ファスト動画の違法性はあるにせよ、それ以上に時代的には求められている部分もある。これは2時間映画を数十分で消化できる時短であるからだ。
なろう系も本来は日々消化することで毎日連載を楽しむことを、時短させるには概要だけで聞くことが得策である。そもそも、なろう系はアニメ化された作品だけでもそこそこあり、書籍化でも評価された作品も多くある。そして、まだ書籍化に至らないまでも有名な作品も結構多い。更には無名であつても面白い作品など数え切れないほどだ。
有限である時間の中で、時間と比べ無限とも思える作品をどう消化させるか。そうなるとファスト動画は最適である。ファスト動画が多くの人に受け入れられた背景も、今となっては数多くの名作映画を消化する目的は多分にあっただろう。
先にも語った様に違法性は抜きにしても、コンテンツ消費の時短という考えは今にとっては重要なのだ。大体、アプリゲームの課金にしても、時短という側面もある。
また、クオリティを上げていくことは結果としてアニメオリジナルとなってしまう場合もある。それと原作第一で原作をなぞるだけと比べた場合、どちらが正解かは難しい。
また、とある漫画作品のアニメ化でも、アニメ関係の評価、売り上げが良くても、原作である漫画本の売り上げに貢献できなかったことから、アニメ続編を作られることは難しいといった話がされていた。
アニメ化とは原作とアニメは切り分け考えられない部分である。
そして、昨今ではアニメの販売も、記録媒体から配信へとシフトしている。さらにはオリジナル作品、アニメ製作会社ブランドでのアニメ化など、作り方の面でも様々となっている。
今回のファスト動画のような展開も実際、主流となり得るかも知れない。
そんな中で原作のアニメ化というのは過去とは比べものにならないほど、計画段階で多くの選択が必要となっているのかもしれない。
しかし、『失格紋の最強賢者』を見ての感想で、ここまで考えることになるとは自分でも思っても見なかった。他の人同様、ネガティブ点を怒り、嘆くだけにしておけば楽だっただろうに…