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イギリス田舎町での色褪せない思い出
ロンドンから電車で1時間半くらいの所に、ソールズベリーという街がある。
世界遺産であるストーンヘンジを観る為に、立ち寄る場所である。
ここからストーンヘンジまではバスで移動するが、今回はこのソールズベリーでの、未だに色あせる事なく記憶に残っている出来事を書いていく。
バスの出発時間まで2時間くらいあったので、街を散策する。
その日は確か、土日のどちらかだったと思うので、街には子供が川で遊んでいたり、大人が広場でクリケットをしていた。
天気も良く、教会の近くの広場では芝生に寝そべり各々時間を過ごしている。
土日の為か、商店街らしき場所は閑散としていたが、バザールみたいな市場や大道芸人もいた。
ロンドンに比べると田舎町だが、活気にあふれている。
僕もカメラを持ち、時折写真を撮るも、特に目的も無く街を歩いている。
歩いていると、川にかかった橋の向こうから白髪の老夫婦が橋の頂上に向かって歩いて、頂上付近で立ち止まる。
なぜかその姿を僕はずっと見ている。
老夫婦がおもむろにパンを出し、千切っては川に投げ込み、千切っては川に投げ込みを繰り返している。
どうやら橋の上から川の魚たちに餌をあげている様子である。
声などは聞こえないが、老夫婦が笑い合っている様子が伝わってくる。
特に印象的だったのが、男性の方がパンを千切り、餌を投げ込み、身振り手振りで魚に手を振っている。
それを横から女性が川を覗き込むようにして、橋の塀に手をかけ、笑顔を見せている。
男性の方が終始活動的な様子。
なぜかその姿を僕はずっと見ている。
カメラでその素敵な風景を収めることもできたが、なぜか僕はずっと見ている。
なので、写真としては残っていない。
心残りはあるが、あの時カメラを構える事を忘れていた。
見惚れていたのかもしれない。
おこがましい話だが、老夫婦の事を自分なりに咀嚼していたと思う。
老夫婦も今まで人生において、良い事もあれば、そうじゃ無い事もあったと思う。
多分喧嘩もしただろうし、その度に自分たちなりの解決方法を見つけて乗り越えてきたと思う。
「思い通りの人生ではなかったかもしれないが、良かったとなら言える人生を歩んできたのかな」
なんていう事を副音声風に付け足してみる。
その夫婦を見ていると、自分が理想とする夫婦像にどこか近いのかなと思う部分がある。
『女性が楽しく生きている』
多分これが僕が理想とする夫婦のあり方なんだが、この夫婦を見ているとその形が連想される。
男性が餌やりやその場を楽しませる様に動いており、それを女性が横で楽しそうに見ている。
僕には多分そう映っていた。
さらに、
パンを千切って川に投げるという、この様な小さな幸せで笑い合えているというのも素敵。
幸せの閾値が高く無く、ちょっとの事でも幸せと感じるその心のあり様に、多分僕は見惚れてしまったのかなと思う。
ソールズベリーの街で出会った、老夫婦の何気ない風景から、当時25歳の僕は身動きが取れなくなった。
そんなイギリス田舎町での、5年たった今でも色褪せない思い出の話
タロ