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【短編連作】神木町

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#短編連作

【短編小説】再会

【短編小説】再会

 アパートのドアを開けると、駅前の駐在さんが立っていた。
「ああ、ヨッちゃん。朝早うからすまんの」
「なんですか」
 昨日も出歩かず、家で飯を作って食った。酒は飲まない。だから、喧嘩も随分ご無沙汰だ。
「実はの、ちょっと確かめたいことがあっての。この人、知っちょるか」
と、住所と人名の書かれた紙を渡される。
「・・・」
「いや、県警から問い合わせがあっての」
「親父ですが」
紙を突き返そうとしたが

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【短編小説】相良

【短編小説】相良

 結局、氏神様にお詣りできたのは、大学4年の夏休みだった。地方の高校からまぐれで入れた医学部は、講義全てで自分の学力のなさが痛感させられた。1年は、授業準備とその理解、テストやレポートに明け暮れた。
 長い石段を登りなら、左手を見る。遠く見渡せていた景色は、今ではマンションの壁に遮られている。登り切ると、狭い境内に出る。正面に本殿。右に回り込むと、小さいながら舞殿があって、その奥が社務所だ。
 社

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