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【短編連作】神木町

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#この街がすき

【短編小説】町田さん

【短編小説】町田さん

 駅のトイレで化粧を直して、帰りの電車に乗った。結婚相談所のある駅から四つ目が私の駅だった。
「入会ご希望の際は、いつでもお電話くださいね」
係の女性はニッコリ笑って言った。
私は心が疲れていた。
34で、前の恋愛が不倫で、そんなことを真面目に洗いざらい喋ってしまったからだ。
嘘でもよかったんだ。
適当な嘘を言って、その質問をやり過ごせばよかったんだ。
それさえ思いつかない、自分の融通のなさが、機

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【短編小説】ヨッちゃん

【短編小説】ヨッちゃん

 僕らは敬意と愛情と恐怖を込めて、その人のことをヨッちゃんと呼んでいた。
 歳は三十過ぎ。背は1M75くらいでガッチリ体型。角刈りで、この時期は、下はニッカーボッカに上は茶色のジャンバー。いつも酔っ払っているかのような赤ら顔だった。大通りの駐車場で仁王立ちして、雄叫びを上げているときがある。相手はいない。道路の真ん中に立って、その先を睨みつけているときがある。前には誰もいない。僕らはその姿を見つけ

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【短編小説】三婆

【短編小説】三婆

 八百青のハルさんがまだらボケになったのを、うちの婆さんと、仲良しの清子さんは大変心配している。三人とも八十超えているので、次は我が身と思うのか、二人はハルさんの病状にとても関心があるのだ。
「ハルさん。なんぼボケたいうても、ずっと家におったら、ようなかろう」
「ハルさんには皆んな世話になった癖に、ボケてしもうたら知らん顔じゃあ、あんまり酷かろう」
「じゃの」
と二人で僕の顔を見る。無事医大に合格

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