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母から贈られた「13歳のハローワーク」
中学生のある日、母から突然「13歳のハローワーク」という本を渡されました。
今まで私に本なんて買ったことなかった母が、私に唯一贈ってくれた本でした。
そして、この本がきっかけで公認会計士を目指すことになりました。この本がなければ起業していなかったし、FormXという会社は存在していなかったと思います。
私は少し複雑な家庭環境で育ち、父がいなかったわけではないのですが、母が女手一つで私を育ててくれました。裕福な家庭ではなかったものの、母の支えがあったお陰で周りと変わらない生活を送ることができました。
中学生まで、割と学校の勉強もちゃんとしてました。小学5年生からはバスケットボールをずっと続けてきました。中学に入ってもバスケを続け、スポーツに明け暮れる毎日を送っていました。
そんな中、母から「13歳のハローワーク」を渡され、「あれ、そんなに将来のこと心配させていたかな?」とか思いながら本を読みました。
私は、小学生の頃からそろばんを習っていました。そろばんを習うと計算が早くなり、算数や数学が得意になります。
「13歳のハローワーク」は、好きなことから様々な職業を探すことができます。「算数・数学が好き」という項目があり、その時に知った職業が「公認会計士」でした。
当時、何に惹かれたのかは覚えていませんが、それから「公認会計士になるには」という本を自分で買い、公認会計士の仕事について調べ、いつしか公認会計士になることが私の夢になっていました。
2度の前十字靭帯断裂、バスケ人生の挫折
当時は公認会計士という夢を持ちながらも、バスケットボールに全力で打ち込んでいました。
高校は、バスケが強い私立の高校に入学しました。
高校3年生がいる間、1年生は体育館での練習ができず、外ランや基礎練習が中心となります。中学生の頃から長距離走が得意だった私は、外ラン外周の練習でいつもトップを走っていました。
悲劇が訪れたのは、高校3年生が引退して初めての室内練習の日です。
私たち1年生にとっての最初の室内練習は、なんと1年生対2年生の練習試合でした。私は外周でいつもトップになっていたことからスターティングメンバーに選ばれました。
その試合の中、空中でパスをキャッチして着地した時に、私の右足は向いてはいけない方向を向き、右膝の前十字靭帯を断裂しました。
全治まで約8ヶ月程かかる怪我で、学業もある中だったためすぐに手術もできず、怪我をしてから復帰まで約1年間の月日がかかりました。
ようやく復帰をしたものの、Bチーム(補欠のメンバー中心のチーム)から再出発をし、ようやくAチームに上がりました。
そんな矢先、今度はチームメイトの足が左膝に接触し、今度は左膝の前十字靭帯を断裂してしまいました。
バスケで選んだ高校だったにも関わらず、一度も公式戦に出場することなく、私のバスケ人生は幕を閉じました。
大学受験失敗、専門学校で公認会計士を目指す日々
バスケが強い私立に進学させてもらったものの、学費の負担もあって大学受験は塾に通わず独学で挑戦しましたが、結果は芳しくありませんでした。
明確に公認会計士という夢があったこともあり、早く公認会計士の資格を取るほうがいいと判断しました。そのため、浪人ではなく、専門学校に進学します。
朝から晩まで勉強漬けの日々で、電車の中でもテキストを開いて勉強をしていました。勉強のしすぎで久々に親友に会った時には、何を喋っていいかわからなくなるほど勉強に没頭していました。
専門学校には3年間通うものの、在学中に公認会計士試験には合格できませんでした。
もしかしたら、牛タン屋を継いでいたかもしれない人生
専門学校を卒業してからは社会人コースで公認会計士試験の勉強を続けました。学費や生活費の足しにするため、地元で有名な牛タン屋でアルバイトをしました。
接客業は声が大きい自分には向いていたこともあり、牛タン屋の社長もとても良くしてくださいました。社長には本当にお世話になり、休みの日には車で温泉に連れて行ってもらったり、賄いのご飯のおかげで晩ごはん代を浮かせることもできました。
そんな牛タン屋という「居場所」は、専門学校を卒業して一人で試験勉強を続ける自分にとって、心の支えでした。
当時、まわりは大学4年生の代でしたが、母からも就職をして欲しいと言われ、次の公認会計士試験を最後にしようと決めていました。
そんな時、社長から「会計士受からなかったら、うちの牛タン屋を継がないか?」と声をかけてもらいました。
結果としては、この時の公認会計士試験に合格しましたが、ここで合格をしていなかったら今ごろ牛タン屋を経営していたかもしれません。
公認会計士としてのキャリアのはじまり
公認会計士試験に合格したものの、就職活動は難航しました。
当時、公認会計士の就職氷河期と呼ばれ、試験合格者が監査法人に就職できない状況が続いていました。大学卒がほとんどの合格者の中、専門学校卒ということもあり、どこの監査法人にも入ることができませんでした。
面接では「途中で大学に変更しようとは思わなかったの?」と聞かれることもありました。
公認会計士に合格したものの、監査法人に入社することはできず、CFOが公認会計士の不動産会社に採用していただくことになりました。
この会社では上場会社の経理パーソンとして、単体決算、連結決算、開示業務など、経理業務を一通り経験しました。
公認会計士試験に合格後、3年間補習所に通うのですが、補習所の担当講師がKPMG(有限責任あずさ監査法人)の方でした。
監査法人ではちょっと前まで就職氷河期だったものの、今度は人手不足の時代になっていました。
そんな中、担当講師から「KPMGに転職しない?」と声をかけられました。公認会計士に合格したからには、一度は監査法人での経験を積みたかったため、KPMGへの転職を決めました。
今では、KPMGで同期入社した2人が、FormXのプロダクト開発を手伝ってくれています。
監査法人では、エネルギー業界を中心として監査業務に従事し、会計のプロフェッショナルとしての道を歩みます。
最初のキャリアで経理業務を経験してからの入社ということもあり、経理側の立場を理解しながら監査を行うことができたのが強みになっていたと思います。
初めてのスタートアップへのチャレンジ
KPMG時代の先輩がスタートアップに転職していたのですが、その先輩から「VCにチャレンジしようと考えていて、後任を探しているけどスタートアップに興味ない?」と声をかけていただきました。
私は、監査法人でもIPOをサポートする業務に携わりたいとずっと考えていました。しかし、自分が担当しているクライアントチームは常に人手不足で、IPO関連の業務にはアサインしてもらえない状況が続いていました。
そこで、外部から支援する立場ではなく、自らスタートアップに飛び込み、IPOを主導しようと考えました。
KPMG時代の先輩からお声がけいただいた会社は、広告・メディア・アパレルECを手掛ける会社で、これからIPOを目指すのではなく、大手ゲーム会社にM&Aされたばかりの会社でした。
この会社でスタートアップで必要な基礎を学びたいと考え、生まれて初めてスタートアップの世界に飛び込むことにしました。
ここでは経営企画として入社し、組織全体のKPI管理、親会社に対するレポーティング業務、事業計画・予算の作成、取締役会や経営会議等の運営など、被買収サイドからのPMIの推進を行いました。
VCに転職した先輩に、いつかは自分でIPOを経験したいと相談していたこともあり、「投資先の1社でコーポレートの責任者を探しているので興味ないか?」と声をかけていただき、動画系メディアのスタートアップに転職します。
この会社では、コーポレート担当の執行役員として、管理部門の立ち上げやデットやエクイティでのファイナンスを経験しました。
管理体制に関しては、請求書のチェックもされていないところから、原価計算の仕組みを導入し、案件別や事業別の利益を見える化するところからの始まりでした。
SmartHRとの出会い
SmartHRへの転職のきっかけは2020年のStartup Aquarium(VCが開催するスタートアップ向け転職イベント)に参加したことです。
会場ではSmartHRの取締役CFOだった玉木さんにばったりお会いしました。玉木さんとは、イベントで一緒に登壇をさせていただいたこともあり、それから公認会計士の先輩の方々と年に1度ぐらいの頻度でお会いしていました。
会場で、「今日は採用目的?それとも転職活動?」と声をかけていただき、キャリアに悩んでいることを相談させていただきました。
SmartHRとNstockの創業者である宮田さんともお話する機会があり、宮田さんの人柄やコーポレートに対して積極的に投資をしている話を聞き、SmartHRへの興味が高まりました。
その後、六本木一丁目のオフィスに伺い、今後の戦略やIPO準備の専任者を探している話を伺い、SmartHRで経験できることが非常に魅力に映り、転職を決心しました。
SmartHRでは、IPO準備担当としてプロジェクトマネジメントを行い、IPOに関する一通りの業務を経験し、内部監査責任者も兼任、内部監査組織の立ち上げなど幅広い経験を積むことができました。
(※念の為、SmartHRはIPO準備していることを公開記事の中でも触れております。具体的にいつIPOをする想定なのか、私は知る立場にありません。)
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起業
公認会計士でありながら、ビジネスサイドやプロダクトサイドに対する憧れが強く、自分の役割を完遂したらいつかチャレンジしたいと考えていました。
SmartHRに入社するまで、公認会計士としていつか独立開業する可能性はあるかもしれないと考えていましたが、自身でスタートアップを起業することは全く考えていませんでした。
というのも、自分が見てきた起業家は、コンサルティング会社出身者や高学歴で頭キレキレの人がなっていたイメージだったからです。
SmartHRで時を過ごし、宮田さんと何度も話す(飲む?)機会があり、今までの経営者とのイメージが良い意味で崩れました。
次第に自分で起業することを考えるようになりました。
ある程度自分の役割にも一区切りがつくタイミングを相談し、2023年2月末にSmartHRを退職し同年5月にFormXを設立しました。
起業してからも何度も失敗を経験してきましたが、2024年にはエンジェルラウンドで5,700万の調達を行うことができました。
最後に
長文にも関わらず、最後まで読んでいただきありがとうございました。
失敗続きの人生でしたが、母からの一冊の本がきっかけで公認会計士を目指し、結果的に起業をすることになりました。
FormXは「ディスクロージャーに、新たなギアを。」というミッションを掲げています。
私がこの領域でチャレンジしようと考えたのは、2022年にChatGPT3.5を触ったことがきっかけです。SaaSプロダクトはステルスで進めていることもあり、このあたりの話はもう少しフェーズが進んだ頃に改めて記事を書きたいと考えています。
個別にはお話しているので、FormXに少しでも興味を持った方は是非ご連絡ください!
まだまだ始まったばかりのFormXですが、世の中を少しでも前に進めるため、これからもプロダクト開発に取り組んでいきます。
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IPO準備支援をやっています
FormXではSaaS事業とは別にプロフェッショナル・サービス事業として様々な支援を行っています。
IPO準備の支援だけではなく、英文開示支援、管理体制構築支援、ファイナンス、J-SOX、内部監査、ガバナンス設計などの支援も行っています。
お困りのことがあれば、ぜひお気軽にご連絡ください!