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「佐伯の殿様 浦で持つ」を体感した|佐伯訪問記①

ようやくこの日が来た。当初2月に予定していた大分県佐伯市への旅。1泊2日の出張。大分県最南端の街を初めて訪ねる。

以前から佐伯には興味があっていずれ訪れたかったが,今回の旅に至るまでの経緯はこちらの2つの記事まとめているのでご覧頂きたい。

佐伯まで3時間半の列車の旅

朝7:30。博多発大分経由宮崎空港行きの「にちりんシーガイア」に乗車して一路佐伯へ。指定席はまん防が明けたこともあってほぼ満席。卒業旅行っぽい大学生らしきグループもチラホラ。

朝7:30の特急に乗って,到着は11時過ぎ。

列車で大分駅より南に行くのは初めて。これまで地図で何度も見てきた地名がある。臼杵,津久見,そして佐伯。途中別府でポイント故障のため10分ほど停車をして,15分遅れで佐伯に到着した。

佐伯のSポーズで記念写真

ここで今回のツアーをアレンジしてくださった平井佐季さんと合流。佐伯の旅がスタートした。佐伯の街を車で走りながら,簡単なブリーフィング。10分ほど走ると繁華街に着く。ゲストハウス「さんかくワサビ」に集合。

そこには,今回同行することになったゼミ2年生8名と市役所ブランド推進課の皆さんが。簡単な自己紹介とゼミの取り組みを説明した後,学生たちにと市役所職員さんによる簡単なコミュニケーションが行われる。浅利善然さんによるファシリテーションのもと,佐伯という街の第1印象であり,学生が取り組む意義があることはどのようなことかを議論する。何となく課題感が見えてきた。

ひとしきり話を終えてランチタイム。ここから佐伯の攻撃が激しくなる(笑)

あまりのうまさにおかわり連発

ランチはこのゲストハウスのオーナーでもある中村香純さんによるもの。10数名のランチを作ってくださった。ご飯はじゃこ飯。鶏肉,りゅうきゅう(刺身のごまだし合え),野菜サラダ,ほうれん草と豆腐の味噌汁。ほとんど佐伯で取れた食材に加えて,佐伯の名物とも言える糀屋本店の塩麹を使った味付けは最高にうまい。学生の心だけでなく,胃袋もガッツリ掴んで,学生の佐伯に対する印象がグッと高まる。

優しくもしっかり味付けされた食事が旅の疲れを癒やす。しばし歓談のあと,いよいよ佐伯市の視察に入ることにした。

真珠業界の事業構造の特徴を学ぶ|オーハタパールを訪問

最初の視察地はオーハタパール。リアス海岸を活かした真珠の養殖と加工された真珠アクセサリーを販売する企業だ。

本社入口の看板

この日は柔らかな日差しであったこと、ここで初めて海を見れたこともあって、少しの待ち時間の間、こんな感じで談笑。

「若い子がわちゃわちゃしてるだけで絵になるわぁ」だそうです(笑)

透明な海水の中では自生した牡蠣が一面にびっしり。魚も泳ぐのが見える。リアス海岸で水面は静か。佐伯の人には当たり前かもしれないが、何気ない景色を見るだけでもテンションが上がる。

女性陣は目がキラキラ

時間になったので社内へ。大畠美津子社長にお出迎え頂き、お話を伺うことに。佐伯における真珠養殖の歴史に始まり、会社の歴史、真珠業界の現状、市場分析にターゲットの選定、新型コロナウィルスの影響、そして真珠の見分け方まで。

正直、真珠は少しお年を召した方が冠婚葬祭でつけるものというイメージがあったが、実際に手に取り、あれやこれやと見ているだけで気分が高揚する。

養殖場に面した会議室にて

そもそも日本における真珠養殖は明治期に三重県の志摩を中心に御木本幸吉が定着させた。戦後,製造業が壊滅的な打撃を受けている中で,主力輸出産業として綿織物と真珠があり,日本国内各地でその技術が転用されることになった。その1つの代表的な土地としてリアス海岸を有する佐伯が選ばれたそうだ。戦後,オーハタパールの元となる会社が設立されることになる。

美しい海とアコヤ貝の養殖場

オーハタパールの大きな特徴は「6次産業化」だそうだ。製造者として丹念に養殖し、高品質な真珠を提供することのみならず、それを卸売やメーカーへ販売すること、百貨店やオンラインを通じて顧客へ販売をすること、そしてかつては自社でも加工をしていたが、今ではアクセサリーなどの製造は外注加工にと、養殖から販売までを一気通貫で行っている。しかし,アクセサリーの製造や真珠の売買が行われる香港への輸出も行っているが,かつてほどマーケットが安定的ではなく,なかなか厳しい環境にあるという。

また,小売で見ても,今や私たちの多くがそう感じているように,アクセサリーとしての真珠は魅力が低下。年齢層が高くなり,若い人たちがつけるイメージがあまりない。そういう状況下の中で,どのように切り替えしていくか。学生たちにとっては良い学びの場になったように思う。

今回の訪問で最も印象に残ったのは,真珠に鮮度があるということだ。真珠は生体鉱物=無機化合物として生成されるものであり,時が経てばやがて劣化していく。

真珠と聞けば,祖母から母へ,母から娘へと引き継がれていくイメージがあるように思う。しかし,素人から同じように見えているそれは少しずつ劣化しているのであり,プロから見れば一目瞭然だそうだ。確かに,短い時間ではあるが社長からレクチャーを受けたことで目利きができるようになっていった。価格が高いものと低いものとの見分けがつくようになる。が,そうしたことは一般には流布していない。わたしたちが当たり前だと思っていることであっても,実は違うということはいくらでもある。

そうしたトリビア的な話も含めて,佐伯を代表する産業の1つである真珠をいかに守り,再び育てていくかを考える貴重な時間になった。

400年続くまち船頭町を歩く|公務員が民間的に動くまちづくり

続いて夕方からは佐伯市内中心部に戻り,船頭町を訪ねた。船頭町は関ケ原の戦いののち,武将の配置換えが行われて新たな領主が入府して作られた街。最近,佐伯市によって施設が作られたり,街並みが整備されたりと装いが新たになったが,町割りの基本は変わらない。昔ながらの城下町の雰囲気を残している。

その船頭町を代表するお店の1つが糀屋本店だ。言わずと知れた近年の糀ブームの火付け役となった浅利妙峰さんのお店だ。さまざまな番組で取り上げられた日本伝統の食材を現代的に再解釈した「イノベーター」。短い時間ではあったけれども,お店でお出迎え頂き,お店のこと,糀のことについてお話頂いた。とてもパワフルで,こちらが圧倒されれるほど。

今回の参加メンバーで記念写真

その後,浅利善然さんのガイドによる船頭町のまちづくりについてツアーがスタート。街の歴史,成り立ちと現在までをお話頂きながら,現在のこの街を代表する物件3つを見て回る。

もともとは築100年を超える旅館だった物件

そして,善然さんの自宅であり,オリーブオイルの販売店へ。昔ながらの商家をリノベーションした店先で佐伯市役所職員でありながら,DOCRE(どーくり)というまちづくりユニットで活躍をされている後藤好信さんと河野功寛さん,そしてこの近くの物件で回転焼き屋「いちや」のオーナーのとみーさんの3人のお話を伺った。

なぜリノベーションをしようと思ったのか。その行き着く未来はどこか?

後藤さんと河野さんの掛け合いは漫才のようで,話を聞いていても楽しく拝聴した。公務員であることを(良い意味で)うまく活用しつつ,それぞれのバックグラウンドである建築,設計のスキルを生かし,物件に残された物品の片付け,床や壁の補修をワークショップにして多くの人を引き寄せながら仕上げていく。そうした中でとみーさんや平井佐季さんたちが参加し,移住者も関わりやすいコミュニティができあがっていったそうだ。

そればかりではない。自分たちの関与が進んでいく中で,若者を中心にいかに佐伯という街に愛着を持ってもらえるようにするかが問題意識として生まれ,次のリノベーション物件では地元高校生を中心とする若者世代との関わりを作る場作りをしようとされているとのこと。

佐伯(SAIKI)を作り変えるという意味を込めて,逆さにしたKIISAプロジェクト。元歯科医院の物件をリノベーションして街のさまざまな立場の人々が参画する場所を作る。

KIISAプロジェクトの基本構想
街と若者世代がどのような関わりを創っていきたいのか。イメージ。

まるでゼミで進めているBESIDEプロジェクトのようでもある。DOCREは建築を中心に,ゼミではカフェを中心に進めている。つまり,前者はハード,ソフト双方を兼ね備えている。しかし,ゼミは(残念ながらリソースの問題もあって)ソフト面でしか進められていないという問題がある。話を聞きながら,向いている方向性は近しいものがあるけれども,ゼミで進めているプロジェクトの課題を改めて感じていた。が,できることから一歩,一歩です。

DOCREが目指してきた道

夜の部は熱い語りの時間に

こうした話を聞きながら,元歯科医院のリノベ物件に移動。そこで行われたイベントがこちら!

まちなかで焚き火!

佐伯出身のキャンプインストラクターをされている工藤克史さんが始めた「テントテントツアーズ」というサービスの1つ,焚き火体験をできるようにご準備頂いた。

ほんとにガチ焚き火

日が沈んでだんだん寒くなっていく中,煌々と燃える焚き火を見ながら今日1日を振り返る。DOCREや佐伯の皆さんの話に圧倒されながら,同行した学生たちはきっと頭の中でいろいろと考えていたに違いない。いや,朝が早すぎて眠かったのか(笑)

また,平井佐季さんがリノベーションを進めているみどり荘も訪問。

カウンター越しの平井さん

こちらも元産婦人科の病院からさまざまな用途に使われていた物件をリノベしている。やがてシャアハウスとして部屋の一部を貸し出すことにもなっていて,絶賛工事が進められていた。

夜は今回の佐伯視察で関わってくださっている皆さんとの食事会。佐伯と言えば「二八」ということで,独特の空気感あるお店で今日1日で感じたこと,普段の生活の様子などをざっくばらんに語り合う。が,食事をしていても,同級生や職場の人に会ってしまうのはコンパクトな街ならでは。

最後はみんなで記念写真

佐伯の居酒屋文化に触れたあとは,繁華街へ移動してスナック街へ。

佐伯の夜

2次会ではしっぽりと語り,3次会では佐伯名物「ごまだしうどん」に舌鼓を打ちながら,1時過ぎにホテルへ。長い1日はこうして更けて行くのでした。

さて,その帰り際,3次会のお店を出るとどこかで見たことがある人がいた。こちらの写真の右側の方。

マスクしていてはよくわからない。

実はこの方,佐伯のポイントを紹介するYoutuberであり,カメラマンの内田さん。佐伯の名物の1つに「佐伯ラーメン」があるのだが,ここ最近佐伯へ行く予習として内田さんの動画をよく見ていた。番組が始まる冒頭には必ず

カメラ,筋肉,けいこ!

と謎の言葉を発する。内田さんの姿を見るや,私もずっとこれを連呼していた(笑)佐伯ラーメン,とても美味しそうなので,ぜひ動画で下見をしてください。

まとめ:佐伯は豊かな街であることを体感できた

さて,ダラダラと書き記してきたが,佐伯訪問記1日目がようやく終わる。

福岡市内から特急で3時間半。正直言えば陸の孤島である。福岡からであれば,札幌,東京は余裕で着く。陸路で移動しても,新幹線であれば大阪,京都を過ぎて名古屋に届く距離。海外であれば上海,台湾はもちろん,あと少しで香港にたどり着くような距離感だ。

コンビニはチラホラあるけれども,物質的豊かさの象徴である憧れのスターバックスがあるわけではない。

でも,佐伯は豊かだ。現代的な物質的豊かさでは測ることのできない豊かさを感じられる。

昔から,「佐伯の殿様 浦で持つ」と言われるように,佐伯の貴重な資源であり、豊かさの源泉は海にある。リアス海岸は栄養豊かであり,近海では豊富な海産物が採れる。シャッター商店街があったり,建物が古ぼけていたりはするけれども,悲壮感がない。寂れているという言葉が当てはまらない不思議な街に感じられた。それもこの海に面して育った400年の伝統なのか,何なのか。

時が緩やかに流れるだけでなく,人々のくらしも豊かであるように感じられた。

が,話をしていると若者が戻ってこないことによる危機感,主要都市へのアクセスが不便であるからこその経済的つながりの構築,豊かな海や山から産物は採れるにしても,それにいかにして価値を足していくのか。豊かであるがゆえに、平成のまま時が止まっていることもあるのかもしれない。それでも、今回お会いした皆さんはそれぞれがそれぞれのあり方で、悲壮感なく今の状況に向き合っているように見えた。

21世紀が20年以上経過しているのにも関わらず,地方都市の若者たちが求めているのは依然として物質的な豊かさであるように見える。20世紀型消費スタイルが依然として好まれる(ように見える)。わかりやすさが大事。

が、大企業の論理で地方都市から商店が消えて,買い物をするために都市へ出かけなければならない。スマホやテレビを見ながらコンテンツを消費し,そこで流れる物質に目が行く。まだまだ都会が憧れの対象。若いから仕方がないのだろうか。

一方で,Uターンをしたから,外から見ているからこそ,見えてくるおらが街の良さみたいなものにも気付かされる。年長者はそういう価値観を押し付けようとしているのではないか。恐らく,問題設定,議論の起点が良くないのかもしれない。

少なくとも,これまで観念上にしかなかった佐伯という街を今回始めて訪れて,明らかにわかったことはこの街の豊かさだ。いや、余裕と言うべきか。これまでたくさんの街を訪れたし,それぞれの街の良さ,長所,素晴らしい点はたくさんあるのだけれども,それを明らかに凌駕する圧倒的な豊かさが佐伯にはある。

が,それは彼らにとって当たり前にあるもの当たり前にあるものが豊かさの象徴であると理解できるには,一旦外の世界を見てみる必要はありそうだ。

実は若者にモノを一生懸命に売ろうとしている旧世代が全くアップデートできていないのか。モノを買っているように見えて、何を買っているのか。どうビジネスを成立させていくのか。

佐伯で言えば、真珠、造船のようなモノづくりもあれば、海産物を中心とした食もある。特に食に関わるものを付加価値をつけて売るためにストーリーを乗っけるなんて話はよくある話だが、佐伯で生まれ育った若者たちには当たり前すぎる。だから、わかりにくい。これを何らかの方法で切り返す必要があるのか。

こうした印象を持ちつつ、疲れた身体をベッドに沈めた。翌日の視察はどうなるのでしょうか。

それは次回の投稿をのお楽しみ。

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