多様な経験が言葉を作る?|2023スプラウト&kAIware 飯塚高校①
一昨日,学生主導で壱岐商業高校のマルシェをやりつつ,にちなん起業体験プログラムの授業を提供するという取り組みを行ったあと,昨日は学生の様子を見に行きつつ,関係各位へのお礼をお伝えするために私も壱岐へ行ってきました。
いつもはバタバタと壱岐で仕事をして戻るのですが,昨日は多少余裕があったので島内各地を巡りながら,少しだけ休息と気分転換をすることができました。
そして,今日は飯塚高校での授業第1回。昨年は資格取得を目指す総合学科トータルライセンスコースにおいて高大連携アントレプレナーシップ教育プログラム「スプラウト」を2学年に提供しましたが,今年は昨年受講した1年生が2年生になるので「スプラウト応用」を,トータルライセンスコースの1年生には「スプラウト」を提供することになりました。
さらに,昨年の取り組みを学校側から高く評価頂いたこともあり,今年度は新設された特進探究実践コースに対して対話型AIを用いてビジネスプランを作るプログラム「kAIware」を提供することになりました。都合3クラスに3つのプログラムを提供。機会を頂き、感謝です。
本来であれば今日が第2回となる予定でしたが,第1回の予定日に大雨で休校となったため,今日から2023年度授業がスタートすることになりました。昨年の取り組みはこちらのマガジンをご参照ください。
では、今日の授業の様子をご一読ください。
kAIwareの授業提供は2校目(特進探究実践コース)
今日の午前中は今年度新設の特進探究実践コースでの「kAIware」の授業。今年度から共同研究としてスタートした対話型AIを用いた授業であり,すでに7月に福岡女子商業高校(女子商)で実施した。しかし,授業としては改善点が多々出てきたため,改めて授業内容を確認して今日を迎えた。
「探究授業」は現在の学校教育における重要なキーワードの1つだが,飯塚高校では今年度から本格的にコースとして設置した。この授業に入るまでに教員間でコミュニケーションを取り,生徒の特徴(部活動,特に全国レベルのサッカー部と吹奏楽部に所属している生徒が多い)を聞きつつ,探究授業担当の先生ともお話してきた。
この授業でも「アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス」を柱にしたカリキュラムが作られているが,それを学習するための道具立ては「対話型AIを用いたビジネスプランの作成」である。いわゆる「社会課題」をベースにそれを解決するビジネス案を4回の授業をかけて作成し,最終回(第5回)でプレゼンテーションを行うことになっている。
50分2コマの授業のうち,冒頭20分ほどを使ってみっちりアイスブレイク。高校生がどんな生徒なのか,それぞれがどんなことに興味関心があるのかを引き出しながら,高校生の不安を取り除こうとしている。
そうして授業がスタート。事前学習動画の内容確認,アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスの定義確認,なぜ対話型AIを用いた授業を行うのか,どんなことに使えるのかなど,説明が進む。このクラスは40名ほどの人数がいるが,ChatGPTという言葉を聞いたことがあるのは2-3人程度だった。学校教育現場や日常生活に対話型AIの話はまだ十分に浸透していないようだ。
だから,この授業を行う意味があるとコース長や担任の先生はご理解してくださったようだ。担任の先生からは「ほんと失礼な話だけど,お遊び程度の授業かと思ったら,よく考えられているし,高校生の聞く態度もいつもと違う印象がある。いやびっくりした」(意訳)というような主旨の発言も頂いた。私から見ていても,さまざまな高校で繰り返し授業をしてきたからか,どんどん担当する学生のスキルが上がっていることがわかる。
このあと授業は,事業機会の探索,課題をいかに発見し,深掘りするかという話に。新たな事業案を作るということは「あなただけが知っている真実」をベースに具現化していくプロセスを構築するということ。与えられた問題に対して解答を出すというよりも,自分で問題を設定し,自分で解答を構築する作業を大学生と一緒に進めていくのだという説明に続いていく。
そして,そのために対話型AIを活用する。つまり,自分たちで作ったおぼろげな疑問に対して,適切な質問をすることができれば対話型AIからは適切な答えが出てくる。あるいは,その適切な質問を作るためのプロセスを繰り返し対話型AIに問い合わせることができるようになれば,高校生にとって意味のある問いが構築できるだろう。ここにこの授業のポイントがある。
ビジネスプランを作る過程の中で,良質な問いを立て,その問いに対する暫定的な答えを提示し,それを周りの意見を取り入れながら修正をかけ「自分だけが知っている真実」を見出していこうというものだ。これをざっと説明してもすぐに高校生が理解できるわけではない。だから,ワークを仕掛けながら学ぶカリキュラムを作っている。
それに対して,今日は高校生たちの反応が鋭く,2コマ100分の中で課題が抽出され,彼・彼女たちの中で今どんなことに関心があるのかがよく見えた。
進学を考えている生徒から構成されているクラスということもあり,多くの生徒が時間管理が課題だと述べていた。いかに学業と部活動を両立させるかということに関心があることがわかった。今や文武両道が当たり前になりつつあるし、サッカーで大卒プロが増えてきていることからわかるように、ある程度学業ができなければその先は開けない。真面目だ。えらい。
次回はこれをベースに対話型AIを用いて課題を深掘りしていく。果たしてどんな授業になるか。
午後からはスプラウト(販売実習を伴うビジネス教育)の授業に
40分の休憩後,午後からは「スプラウト」の授業に移る。4年生3人が新たに合流し,トータルライセンスコースの2学年2クラスを担当する。昨年度は初めての授業だったということもあり,学年ごとにほとんど同じカリキュラムが提供され,2年生は販売体験を2回,1年生は文化祭での販売体験を1回実施した。
この1年生が2年生となり,新たに1年生が加わることで,授業内容も複線的に構成することになった。なお,複数年授業を提供する女子商では発展段階的にカリキュラムの内容を構築してきたが,今年度から「kAIware」を提供することになったので,「スプラウト」の応用コース(以下,スプラウト応用)を提供するのは現時点でこのクラスだけである。
そんな内部事情はさておき,それぞれの授業の様子を見ていく。
スプラウト応用(トータルライセンスコース2年生)
「スプラウト応用」は,上で述べたように昨年文化祭での販売体験を行ったトータルライセンスコース2年生向けの授業。4回の授業,1回の販売体験,1回のふりかえりから構成される「スプラウト」で学んだことをベースに,積み上げを目指すカリキュラムだ。今回はその1回目なので,昨年度学習した内容のふりかえりからスタートしようという狙い。
しかし,ここで授業が躓く。昨年の出店チームごとに生徒をまとめた瞬間に空気が澱み始める。大学生の呼びかけに反応を示さない。シャットダウン。
が,中には進学を希望している生徒もいるので,一生懸命授業を聞こうとしている。となると,授業をするにしてもどこにバランスを持っていけば良いのか,授業を行う側も困惑しただろう。
昨年のふりかえりでどんなことを覚えているかと聞いても,無反応な生徒はいる。それはそれで仕方がない。どこかでスイッチが入るように,こちらが授業で導いていかねばならない。私ならきっとイライラしてしまうようなことでも,大学生は我慢強く授業を進めていく。今回は第1回であり,生徒の状況を知る回であり,今後の授業の方針を決めていくための回だからだ。
そうこうしてあっという間に100分の授業が終わった。正直書けば,「ゼロに戻った?」という感覚。昨年学んだことが果たしてどこまで彼・彼女たちに残っていたのだろうか。もちろんここには反省点がある。そもそも,なぜこの授業をやっているのか,高校生が十分に理解していなかったからだ。
いや,授業の中では説明しているのだが,自分たちが自分たちの力で協力を得ながら店を出す(商店街で商売をする)ということを理解できていなかったようだ。
このボタンの掛け違いが今回の結果の一端だとは言えそうだ。が,改めて自分の言葉を持たず,それを表現できず,周りで起きていることを他人事として受け止める人たちに何を働きかければ良いのかという疑問が出てきた。こうしてモヤモヤして授業が終了した。
スプラウト(トータルライセンスコース1年生)
同じ時刻に隣の教室ではトータルライセンスコース1年生向けの「スプラウト」の授業が始まった。今年度入学した1年生向けの授業。他の高校・地域でも提供している販売実習を伴うアントレプレナーシップ教育のカリキュラムだ。この授業は繰り返し大学生が実施していることもあり,担当した3年生もだいぶ落ち着いているように見えた。
ただ,少しだけ印象が違った。昨年はどこか落ち着かない印象があったが,今年度は担当の先生がかなりキッチリとされているようで,その空気感が生徒にも伝わっているかのよう。とりあえず正対して授業に向き合うことからスタートし,レジュメに必要事項を記入しながら授業を聞いている。
しかも,今年の1年生は紙ベースのレジュメ配布なし。すべてオンラインで書き込んでいる。アプリケーションを利用して,担任の先生が必要事項をサポートしながら授業が進んでいく。調べ学習に必要なURLを先生がパッと配布し,生徒がそれを見ながら課題を進める。
が,ここでも課題が出てくる。このアントレプレナーシップを学ぶ課題は,地域に根ざした商材をベースに地域外で付加価値を高めて製造・販売を行うスタートアップ企業が作ったとある動画と,それに関連した記事をベースに事実をまとめ(調べ学習),自分の見解を記述する内容になっている。しかし,授業の進め方にも影響されたか,感想だけを記述して要点をまとめることができない。文章を与えられた瞬間にそれを読み取ることを止め,思考停止になっている生徒が一定数見られたことだ。
これは高校だけでなく,大学でも見られる現象に成りつつある。文章を書けないのではなく,文章が読めないようだ。一部の生徒はコピペをして貼り付けをしていたが,この授業で伝えたかったメッセージ=「事業機会の探索」の重要性と「あなたがだけが知っている真実」が事業を作る大きな基礎になることはおおよそ伝わっていない可能性があるし,そもそも「アントレプレナーシップ」と「コレクティブ・ジーニアス」も伝わっていない可能性がある。
もちろん,ここで完全に理解できるはずもないし,理解できることを求めているわけではない。また,全5回の授業の中で,今日の授業が一番難しいし,抽象度が高いので簡単に理解できない内容になっている。ただ,ここで伏線を張り,世の中には自分が思いつかないような方法で事業を構築している人がいるのだということを知って欲しいし,そうやって私たちの生活が豊かになっているということを知って欲しいのだ。さらに,君たちはその一員になるのだということを。
私たちにできることはこのモヤっとした感覚を持ちつつも,この先どうしていくことで彼・彼女たちの興味を惹きつけるか。経験値が少ない高校生に無理やり言葉にしろと言っても言葉にはならない。そうした強要をすればするほど,彼・彼女たちは自分の思いを口にすることを拒んでしまうかもしれない。
どうしても探究コースや他の高校1年生との比較をしてしまうのだが,これはこれでまた大きな課題が出てきたなという実感を得て第1回授業を終えた。
ふりかえり:どこで火が点くか,その仕掛けを考える必要性
その後,1時間ほど高校の先生を交えながらふりかえりを行った。その内容のほとんどは上記で記したようなモヤモヤとそれに対する改善策を検討することだった。
多少のエクスキューズをすれば,このプログラムは,教える側が十分に成熟しているから,その立場から未成熟な高校生に何かを教えるというスタンスを取っているのではない。特徴は,大学生が先生役となることで,彼・彼女たち自身も成長することを期待しているということだ。だから,授業内容もだんだんブラッシュアップされるし,使用される事例や例え話もどんどん洗練されてくる。
また,高校生側も時が経つにつれて知識が身につき,できることが少しずつ増えていくことで,視野が広がり,考えることにも幅が出るようになるはずだ。しかし,ここに部活動や学校の成績,人間関係や恋愛など,この年齢だからこその悩ましい問題が横たわる。それを少し前に経験した大学生とともに学ぶことで,ちょっと先の未来を見せようという意図もある。
だから,ふりかえりでは私たちが目指す方向は動かさずに,高校生の成長を促しながら,今日伝えたかったメッセージを繰り返し伝えていくことで理解が徐々に促されるのだろうという話になった。
よくよく思い返せば,今のトータルライセンスコース3年生が2年生だった昨年もこんな感じのスタートだった。それが出店が決まり,先生の引率で地元の商店主さんの店舗を訪ね,直接話を伺うことによって,グンと目に見えて意識が変わって,ジブンゴトとして取り組むようになったそうだ。そして,そうした生徒の中には推薦を得て大学に進学しようと資格取得に取り組み,その希望の進路を手にしようとしているそうだ。
だから,目線は下げずに上げていくけれども,高校生の成長を待ちつつも促し,機会を創り出すことで徐々に自分で価値を創り出すことの楽しさを高校生と大学生がともに学んでいく。ここが帰るべきポイントなのだろうし,スプラウトが進学校ではないレベルの高校で実施している意味なのだと改めて感じる。
今年度もこうしてお話を頂き,この秋には高大連携協定を結ぶことになっている。それもこれも,昨年一生懸命に取り組んでくれた(卒業してそれぞれ社会人として活躍している)学生たちのおかげであるし,サポートしてくださる高校から評価して頂いている証でもあろう。そして,第1回の授業でも改めてこちらが真剣に取り組んでいるからこそ,本当に良くしてくださっている。
目先の課題に取り組みつつ,未来を創る仕事をしている。学生にも段々そうした意欲みたいなものが見えてきていることが嬉しい。
また,ポエムになってしまった…。
ということで,今日はここまで。次は壱岐商業高校の最終回の授業。
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