自分たちの製品を買うのは誰?|2022博多工業高校×とびゼミコラボ授業④
10月も終盤戦。あっという間に時間が過ぎ去っていきますね。各地の高校も文化祭、体育祭と行事がたくさんあると同時に、高校生はそろそろ進路決定の時期にもなっていて肉体的にも精神的にもタフな状況が続く時期。
8月から関わるようになった博多工業高校インテリア科ビジュアルデザインパートの皆さんとの授業も3回目。前回は競合他社がどんな顧客を対象に事業を営んでいるのかを知るために、マーケティングや経営の用語をなるべく使わずにSTP分析を行いました(イメージ)。
それに対して今回は「自分たちのブランド(メメント森)の製品を購入する顧客は誰か?」を考える時間に。目の前にあるモノや共有できているイメージをもとに、何を誰がどのように購入したり、使ったりしていることはイメージできるけれども、(ある種無意識的に作り出せてしまう)自分たちの製品はいったいどんな人が買ってくれて、どういう状況で使って欲しいかを形に表現するには言葉でそれを表現せざるを得ない。
場当たり的に「なんとなく」で、それぞれが思い思いの製品を作ってしまうのではなくて、「メメント森」に乗せた想いをどう製品に乗せて伝えていくか。今回はとても難しく悩ましいお題に向き合うことになりました。そこでの高校生の奮闘。ぜひご一読ください。
なお、博多工業高校でのこれまでの授業の様子はこちらから。
1コマ目:セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング?価値の創造???
こうして始まった1コマ目。この時間はマーケティングを学ぶ時間。ここに基本的な内容だけでなく,サービスデザインという難しい話も入れている。
まず、顧客に対してどのような製品・サービスを提供するかの裏側には、顧客はどのような・製品サービスを望んでいるのかという問題がある。しかも、今回作るような製品はインテリア雑貨に相当するモノで、大手メーカーだけでなく、さまざまな場所で大小、個人あらゆる人が作って売っているけど好みが明確に分かれるもの。
なので、基礎的な内容としてセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング(STP)という考え方を提示して,それをもとに「自分たちの顧客は誰か?」を考えましょうというところからスタート。
その理解を促す補助線としての役割を果たしていたのが前回授業のワーク。ニトリや無印良品,フランフラン,北欧暮らしの道具店(クラシコム)の4社を題材にWebにある情報や自分たちの知識や感覚を言語化して違いを認識する(分ける)ワークを実施したが,いきなりSTPと言われると抽象的で難しい話も,今回ばかりはイメージを照らし合わせながら「STPってこういうことかな?」という理解ができていたようだ。
その上で,モノの特徴を際立たせるために,近年は「価値のデザイン」という考え方が重要だよという話に。いよいよ今回のポイントとなる話。
この夏,ゼミ3年生には課題図書として,由井真波さんの『動機のデザイン 現場の人とデザイナーがいっしょに歩む共創のプロセス』を出しており,彼・彼女らはこれを読んで学生が取り組んでいるプロジェクトの課題を抽出しなさいというレポートを書いている。今や多くのビジネスにおいて「価値」は何か,顧客に対して「どのような体験・経験を提供できるか」,どうすれば顧客の持つ「価値観とフィットできる製品・サービスを提供できるか」が重要になっている。
そうした中で「メメント森」プロジェクトも,モノを買ってもらって何を感じ取ってもらいたいのか,どんな人に買って欲しいのかを考えることが重要だろう。なぜなら,高校生たちは自らの口で林業や森林破壊の問題,森を維持することの意味を伝えているからだ。だから,モノにはそうした想いが何かしらの形で反映されていることが求められる。
こうした話は高校生は何となく理解できたようだが,いざ自分たちがそれをやるとするとどうすれば良いのだろうかと明らかに困惑した顔だった。
そこで,この時間は具体的な顧客像(いわゆるペルソナ)を作り,その顧客が求めていることをいくつかの言葉(単語)=概念に切り分けていくことで,「メメント森」というブランドを通じてどのようなモノづくりを行っていくかという方針を決めることにした。
が,いざ話し合うと…。これがなかなか進まない。イメージは浮かぶけど,言葉にならない。自分たちが好んで買っていたり,普段目にするものもそうやって設計されているのだとは理解できたけれども,いざそれがどういう意味を持っているのかを言葉にしてみてと言われると言葉にならない。サポートに入っている大学生もあの手この手で投げかけてみるけれども,前に進まない。微妙な空気が流れて1コマ目が終了した。
2-3コマ目:自分たちの製品を一言で表すと?
休み時間中に先生と少しばかり議論。きっとモノを作ることに長けているから,そのモノについて話をしてもらうことで取っ掛かりをつけていきましょうと,この間高校生が作ってきた製品を持ってきて頂いた。
それがこちらの写真。カッティングボードは夏休みの時点から作られていたが,その後にいくつかの試作品ができあがっていた。左上の上部に穴が空いているものは試験管を差し込んで使う一輪挿し。あるいは木の質感をうまく使った箸置きとお箸。その他にもいくつかの製品ができあがっていた。さすが,モノづくりを学んできた高校生たち。実際に手にすると木の質感、軽さ(軽やかさ)、温かみ感じることができる。直感的に「欲しい」って単純な気持ちに。
そこで,このモノを手がかりに「なんでこれを作ったのかを話してみようか」と投げかけてみた。すると,一輪挿しを作った高校生からは「木は長く使える素材だし,家の片隅にでもあると温かみが出ると思うんです」と。私が「なんでその形状なの?」と聞くと,「これは基本的に家の中で使うものだし,家のような形にしてみたら面白いんじゃないかと思って」とその意図をしっかりと語ってくれる。しかも,「メメント森」のプロジェクトが森林を守る,木を大切にすることを伝えることを目的にしていることを踏まえてのコメントが出てきた。
また,カッティングボードについて,別の高校生は「このカッティングボードはありきたりのものに見えるけれども,一枚の板から切り出して作っているもので,木の素材そのままに外を丸めたりするだけしか手を加えていない。だから,木の持つ質感が失われていないし,素材の良さを活かそうとしている。わかる人にはわかります。」というこだわりを話してくれた。何も知らない人からすれば,そのようなことには気づかない。けれども,見る人が見ればその良さが正しく理解できるモノづくりをしていることがよく分かった。あとはそれをどう伝えて手に取ってもらえるかだ。
そうした議論の末に,最後にこのような問いを投げかけた。
また,言葉との格闘が始まる。高校生はここでぐったりしてしまっていた(笑)そこで少し長めの休憩をとって、残り時間でキーワードの抽出をすることに。
そうして出てきたキーワードがこちら。
が、これではあらゆる雑貨がそういう狙いを定めているだろうし、ドメインとしても曖昧なので前回授業で取り上げた4社の中でどこあたりが狙いかも聞いた。そこで出てきたのが無印良品と北欧暮らしの道具店(クラシコム)の間という言葉。ついでにイメージカラーはと尋ねると、画像右上のようなカラーパターンが出てきた。
ここまで話してチャイムが鳴った。終了。前回に比して今回は高校生の声も小さく、自信なさげになんとか声を振り絞って言葉にしていた印象。ここ最近、さまざまな高校で見てきた景色(そういうふうに見ているからそう見えているという話もある)。でも、なんとかここまで辿り着けたのでOK。
最後に課題として、次回(11/10)までにこういうイメージを反映させたモノを作る、あるいはデッサンしてくるように伝えた。「メメント森」で伝えたいこと、当たり前にそこにあるけれども、長く使えて、家族の温かみを感じられて、親しみある木工製品を作る。ここから先はむしろ彼・彼女たちの強みが活かされるフェーズになるから、方向性がブレずにモノが出てくることを期待。
次回授業は、そのできあがったあるいはプロトタイプをもとに製造プロセスの構築・シミュレーションと価格決定のお話。
自分たちが作ったモノはいったいいくらで売れるの?
これを考える時間に。ぜひ読者の皆さんからもコメント頂きたいところです。いくらだったら買いますか?
ふりかえりと余談:福岡女子商業高校での研修会での話
そんなこんなで、博多工業第3回の授業が終了。今回の授業は全5回のヤマで、一番要素還元的に自分の考えを言葉にするという難しい内容だと言えるだろう。マーケティングは売り方を考えること、売れる方法やTipsを学ぶことではなく、顧客との関係性をいかに構築するかを学ぶこと。これを工業高校の生徒に教えようというのだから、相当な無茶をしている。
博多工業高校での授業終了後、その足で福岡女子商業高校(女子商)に伺った。この春から月1回ペースで教員研修で話題提供をしている。
ここで話題になったのも、ここ最近さまざまな高校での授業で話題になっている「概念化」や「言葉で伝えることの意義」について。プログラムを提供している高校で最近出てきている課題に、概念を、伝えたいことを言葉に乗せて伝えることの難しさがある。
調査によればPBLの教育効果として自己効力感、特に不確実性への対応や創造性を高めることや、自己決定感だったり、非認知的スキルだけでなく認知的スキル(の重要性への理解)も上がることが示唆されている。確かに実践を積み重ねることで高校生は確かに何かを獲得しているのだけれども、それが目に見て分かる資格や検定、知識の獲得に「直接的に」繋がっているかがわからない。ここがPBLの教育効果に対する疑問になっていることは痛いほどよくわかる。
そこで先生方と議論になったのは、いくら自己効力感が上がっても基礎的な学力がなければ、自分の伝えたいことを曖昧な言葉で誤魔化さずに正しく伝える力は身につかないということ。いくら共感できても、知恵が働いても、最後は周りは学力や検定というわかりやすい尺度で判断してくる。その時に「今のやり方で良い」と言い切れるかどうか。どうやって底上げを図っていくかは大きな課題ですねという話に。
アントレプレナーシップ教育研究で明らかになっているような成果は得られているが、次の課題がだんだん形を帯びて見えてくる。その仕組みの構築を図ることができれば良いのだが、その先は学校がどうしたいのかという問題にもなっていく。さすがにそこには踏み込めないので、違うアプローチを考えないといかんですね。これは実業系高校共通の課題としてありそうで、その後のキャリアとセットで考えていくべき問題なのかもしれない。
そうか、なんか自分が進むべき道が見えてきたような気がする。が、これで飯食えるかな?
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