「一歩踏み出す勇気」をカタチにする生徒を目の前にして|2022女子商×とびゼミコラボ授業④
11月も気付けば3分の2が過ぎようとしています。18日は福岡女子商業高校(女子商)でのコラボ授業4回目。
12月3-4日に行われる女子商マルシェと、3年生は推薦入試による選抜が佳境を迎えていることから、校内はなんとなく落ち着かない印象。それもこれもこの日が〆切のクラウドファンディングの目標額にはまだ及ばず、高校生の頑張りを見ていても立ってもいられなくなった先生方が必死に告知をされていた影響もあったかもしれません。
記憶は定かではないですが、この日朝が目標の60%をようやく超えたところ。13時の集合時間で80%まで来ていたものの、まだまだ足りず。そこで大学生に寄附またはSNSでの告知を依頼しに、打ち合わせ会場にまで高校生が来てくれました。
果たしてクラウドファンディングの結果はいかに!
それはさておき、今回の授業はこれまでの授業を回収しつつ、何のために組織のマネジメントを行い、いかに成果を測定するかという意味での「会計」の授業。稲盛和夫氏が著書で述べていたように、利益を生み出すには「収益最大、費用最小」を実現すれば良いとは皆知っているけれども、それがこれまでの授業とどう結びついているのか、具体的に何をどうすれば良いのかを考えることが今日のテーマです。
果たしてどんな授業になったのでしょうか。これまでの授業の様子はこちらのマガジンからどうぞ。
1コマ目:生み出した付加価値を貨幣的価値で測ることの意味
今回の授業は会計。と言っても,簿記や会計制度の話をするわけでない。経営に役立つ会計,私が「会計思考」と呼んでいる経営を会計数値に落とし込んで理解しようというお話。
経営そのものは誤解を恐れず言えばそれほど難しいものではない。できるだけ安く仕入れ,それを高く売ることをすれば良い。そして,そこから生まれた利益を再投資して,さらに事業を大きくしていけば良い。「会社経営」の成果を会計指標(ここでは収益〔売上〕,費用,利益に限定しておく)で測ろうとすれば,なされるべきことはシンプル。
しかし,今回の授業はそれだけでは終わらない。ここまで学習してきた経営理念,戦略,計画,マネジメント・コントロール・システム(MCS)といった諸々の議論も回収するように授業を進めることを求めている。また,女子商マルシェを終えた最終回の授業では,本プログラムの大テーマである「アントレプレナーシップやコレクティブ・ジーニアス」という話ともどうつながるかを多少意識しておかねばならないので,ロードマップ的なことをイメージして授業を進めておくことが求められる。
そうした中で,各クラスではそれぞれのクラスの特徴をリーダー中心に授業内容に反映させつつ,生徒同士のコミュニケーションの中で学習が進むように工夫を凝らしていた。
例えば,利益を最大化するのに収益を伸ばそうと思えば,売価を上げるか,販売個数を伸ばすかが具体的な方策となる。このとき,売価を上げるにはブランドや機能で競合と明らかに異なるという差別化戦略が出てくるし,販売個数を伸ばす具体的な方策として薄利多売=コスト・リーダーシップ戦略が出てくる。しかし,後者を選択するには販売できるマーケットの大きさ,それに対応する生産数量(キャパシティ)の確保,少しでも能率を上げる工夫が求められ,費用低減を図る方策も同時に遂行していかねばならない。
経営はこれが渾然一体に行われていて、機能分化をしているわけではない。分けているのは組織マネジメント上管理をしやすくするために細分化しているに過ぎず、多数の人間が介在するので難しさが増す。
では,こうした一連の流れ=事業プロセスを構築するにはどうすれば良いのか。
実際に企業であったり,学生が先日経験した模擬店出店ではどんな取り組みをしてきたのか。学生にとっても(ジブンゴトとして)話をしやすく,高校生がリアリティを持って考えられるような事例をピックアップして授業を構成している。
例えば,あるクラスではサイゼリヤを例にして,低価格で販売活動ができる理由を説明したり,とあるクラスでは女子高生が興味を持ちそうな化粧品を題材に低価格である理由,高校生が「高いな」と思う商品群がある理由を説明していく。身近な事例に学びがあるのが経営学であり、会計学。そうやって自分の身の回りにあることがどのような仕組みになっているのかを学ぶことによって、関心の幅を広げていくことも意識している。
ただ,その前提として今回の授業では「利益=収益 − 費用」という計算式が前提として出てくるので,当初は高校生も抵抗感があった模様。それまではイメージ,概念を捉える授業内容であったのに対し,今回はいきなり数式(といっても,高校生にとってはすでに学んでいる内容なんだけども)を使って理屈を1つ1つ理解していく必要があったから、構えてしまっていたのかもしれない。
いずれにせよ,企業活動の目的は課題解決の先にあるあるべき姿としての経営理念の実現と,利害関係者に富を分配しつつ,自社の存続と拡大を図る源泉となる付加価値の創造にあり,それをいかに成果として測定するか,その成果を得るためにどのような仕組みを作れば良いのかが伝われば授業としては成果を得たということになるだろう。
2コマ目:収益・費用/損益分岐点分析を使って戦略を構築するワーク
続いて,2コマ目。ここではもう少し具体的にどのようなワークが行われてきたのかを見ていくことにしよう。
これまでのコラボ授業で会計の話を扱う時にはすべての学年で損益分岐点分析を取り上げてきた。それは,中学数学で1次関数を学んでいるという前提があるからだ。しかし,大学生でも覚束ない話を高校生にするのもなぁと,今年度からは積み上げ式で理解が進むようにと,1年生と3年生の進学クラス以外,すなわちコラボ授業1回目の生徒には「利益=収益 − 費用」だけを,2年生と3年生の進学クラスでは損益分岐点分析を教えるカリキュラムにした。
これは高校の授業科目である「原価計算」を履修するタイミング,中には日商簿記検定2級を学んでいる生徒がいるであろうことを考えてのこと。ただ,費用には固定費と変動費がある,1次関数で示すとこうなる,だから販売個数が何個と求められているよねでは説明したことにはならない。しかも,高校生は検定に受かるための勉強として無理やり「こう計算する!」で覚える勉強をしてしまっている可能性があり,現実社会で学んだことを適用して課題を解決するということができるわけではないという現実もある。
そこで少しでも高校生がイメージをしやすいお題を考え、授業でやってみて修正としてきた。それが今年は7つの中学・高校で授業をするものだから、ブラッシュアップが進んでいく。
あるいは学生には「背伸びしたことは教えられない。自分たちが勉強したこと以上は教えられないのだから、わかっていることを伝えて一緒に考えながら授業を進めよう。そうした中で分かっていなかったことは分かっていく」というような話もしている。だから、題材も七隈祭だったり、自分の経験に基づいたものが多くなる。
それは学生が自分自身の理解を深めることにも繋がっている。大学生への授業でも損益分岐点分析は苦手としている学生は多い。数字、計算というだけで「数学嫌いだから」と避けられる傾向にはある。
が、構造はそんなに難しい話ではない。1つ当たりの粗利と販売個数の合計(事業として生まれる粗利)が固定費を上回れば良いのだ。それを一目で理解して採るべき方策が何かを知るために会計情報を利用する。そして、組織的に目的を実現する。そのための方法知であり、内容知に相当するのが「会計思考」。企業経営を数量的に把握して適切な行動を導くための考え方だ。
が、こうやって大学生が高校生に授業をするなら勉強し、理解せざるを得なくなるし、そのために大学生同士でも教えることにもなる。あるいはそうした過程で創業体験プログラムで行った出店を通じて得られた経験を腑に落としていく作業にも繋がっていく。授業を行う私からすれば一石二鳥だとも言える。
今年の女子商の授業は7つのクラスで授業を実施しているが、おかげさまで授業もさまざまなバリエーションに富んでいる。基本的なカリキュラムを設計しながらも、それをどう教えるかは学生次第。少しでも理解が進むように、楽しかったと思ってもらえるようにと学生の工夫が成されている。
こうして授業を作る、話す、ふりかえるという作業を通じて大学生は学んできたことを言語化、概念化することができるようになるし、高校生が大学生から学ぶことができるようになる。学習指導要領で示されている「主体的・対話的で深い学び」を意識しつつ、高校生と大学生の共創関係を構築し、ともに学び合う関係を作ろうとしている。
ふりかえり:学んだ知識を現実に適用できるようになることに意味がある
こうして第4回の授業が終了した。
その授業が終わる頃、校長先生からコソッとお話があった。
「クラウドファンディング、100万円達成しました!」
そう、この2時間でたくさんの方からのご支援があり、100万円を集めることができました!おめでとう!
そして、そのお礼に高校生の代表が挨拶に。訥々と挨拶をしていると喜びのあまり涙が。挑戦を始めてみたものの、なかなか広がらない支援。最終日になっても先が見えないという状況に絶望的な気持ちになっていたでしょう。
が、「挑戦を楽しめ!」がスローガンの女子商では先生たちが率先的にSNSで告知。たくさんの応援団を得て見事達成したとのこと。
そうした高揚感を引き受けてのふりかえり。もう4回目ということもあり、技術的に何か教えることはあまりない。マルシェとマルシェ後のふりかえりで何をどう伝えるかにフォーカスしましょうという話をした。
特に、ここで学んだことと現実にはズレがあるからと言って、今学んでいることが無駄になるわけではない。学問というのはそういうズレを認識して、ギャップを埋めながら進化してきた歴史がある。でも、優れた理論は普遍的だし、いつの時代でも使うことができる。限界と適用範囲を意識しながら、自分たちが教えていることをよく理解して欲しいし、高校生に求めているように大学生自身が現実を見るメガネとして、目の前にある課題を解決するための補助線として、大学で学んでいることを活かそうというようなことを伝えた。
この前日、大阪に出張へ行き、その車内でこの本を読んでいた。
その解説を述べている熊谷晋一郎先生はこのようなことを述べておられる。
ここまで理知的に格好良く述べることはできないが、経営学、会計学を学ぶことは常に実験であり、不確実性に直面し、失敗も成功もある。結果だけでも、プロセスだけでも判断できず、目の前の状況の中で内容知と方法知をいかに使い分けていくかを教える側はよく考えていかねばならないのかもしれない。
この筆者が述べているように、「学習」を社会科学的に分析するとすればどうすれば良いのか。「組織学習」のような組織論としてではなく、学校における「学習」がどのようにして行われていくのか。これが社会科学的なテーマになるかは皆目検討つかないが、ちょっと考えてみたいことではある。
次は12/3-4の女子商マルシェ。その前に11/26-27は飯塚高校の文化祭。実りの秋になりますように。
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