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組織設計とモチベーション管理の難しさ|2024ひとよし球磨起業体験プログラム③

昨日から日本は3連休。私は5年ぶりに釜山に来ています。

西南学院大学の先生による報告

というのも、毎年この時期に開催されている「文化と会計研究会」という韓国、中国の研究者との研究会に参加するため。前任校で大変お世話になったボスのお誘いで、私も時間が合う限りは参加しています。この研究会で初めて釜山に来たし、英語で報告したし、ウズベキスタンにも連れて行ってもらったし、韓国人の友人ができました。

そのことがあらかじめわかっていたとは言え、ここにひとよし球磨起業体験プログラムの授業が入ったのは痛恨。ただし、世界中どこからでもインターネットは繋がるわけで、今回は研究会の途中から授業の様子を覗いてました。

講義内容としては通常のスプラウトとちょっとスケジュールを変えて、今日は会計の話。戦略をどう価格に反映させるかを考える授業に。

ここまでのプログラムの様子はこちらにまとめていますので,ご一読ください。

付加価値の創造。意義をどう伝えるか。

今日の講義内容についてはたびたび記しているので詳細は取り上げないが、簡単に言えば理念を形にする戦略を決めたところで、どう金勘定に結びつけるか、計画を策定することが未来を形づくり、それを実行することで自らの手で未来を引き寄せるという感覚をビジネスの実践を通じて身につけるというものだ。

なので、教えていることは次の4つのスライドに集約される。

毎度お馴染みポーターの競争戦略論

まずはポーターの競争戦略論として、企業戦略は差別化か、コストリーダーシップのいずれかに分けられるというもの。

差別化戦略のポイント

そして、差別化戦略は(一般名詞としての)付加価値を作り込んでマークアップを大きくし、(会計学的な)付加価値を最大化すること。

コストリーダーシップ戦略のポイント

一方で、コストリーダーシップ戦略では薄利多売で事業が成立するように、利益は薄くとも多数に販売する仕組みが重要だと教えている。

まとめ

特に模擬店を出すことが多い『スプラウト』のプログラムでは、売価の設定が関心事になるため、ここを強調した構成になっている。プログラム冒頭で付加価値の最大化と分配、その循環が地域経済を支える鍵となると伝え、さらに学生からの授業で良質なものをそれに見合う価値=価格で販売するように導こうとしている。マーケットの規模が限られている地域では、回転率で商売するのは難しく、その価値がわかる顧客を作ってファンを作っていくこと、それは地域内だけでなく、地域外からも成り立つ話でもあるので、それを実践することで勘所を掴んで欲しいのもある。

しかし、講師役の学生も、授業を聞く高校生も自分のお財布事情から「できるだけ安い方が良い」と刷り込まれてしまっており、今年は私も意図的に「大好きな韓国アイドルが来たら高くても金を払うよね」とイメージしやすい例を出しながら「付加価値」の概念を伝えようとしている。

今回授業を担当している学生もそのあたりは十分に理解していたようで、いかにして付加価値を生み出す意義を伝えるかに腐心していたように見える。

ただ、これからよく考えていく必要がありそうなのは、「人吉球磨に根差した価値創造をいかに行うか」かもしれない。中で生み出して中で消費する、外で生み出して中で消費する、中で生み出して外で消費する、外で生み出して外で消費すると4パターンある中で、果たしてどういう方法で何を為していくのか。ここを高校生と考えて、自分なりの解を見出していくのは大学生の役割。

その一方で、大きな課題も表面化

その一方で、大きな課題も表面化している。

このひとよし球磨起業体験プログラムでは、ゼミOBの尽力で地域内にある各高校に在籍する高校生の意思によって参加者を募っているが、どうやらここに来てモチベーションのバラツキやマルシェに向けた実行プロセスの齟齬といった問題が見えて来たようだ。

さまざまな事情があったのだろうが、今回の授業は登録者の半数。参加してくれている生徒のモチベーションは高いことは言うまでもない。2時間半の授業を受けるのは大変だろうが、グループワークを含め懸命に授業に取り組んでいる。高校生と大学生のコミュニケーションツールとしてLINEオープンチャットを使っているが、私は参加していないので様子が見えない。ただ、大学生側もどうコミュニケーションを取れば良いのか、どう高校生を動機づけるかに苦心しているようだ。

加えて、今回のプログラムでは地元に関わる社会人が投資家として参加してくださるとして、その出資に対する事業構成が少々微妙な形になってしまっている。グループを2つに分け、イベント運営と店舗運営に分けたのは良いとして、前者をいかに出資→運営→収益化というモデルに落とし込み、出資を募るかという話が詰めきれていない。

これは運営側にも問題はあって、マルシェイベントをやるんだから運営専従で広告や出し物の企画を考えて、そこから参加料や手数料を稼げば良いという考えなのだろうが、そこの詰めが甘い。

まるで『スプラウト』の難しさが一気に噴き出した印象。というのも、このプログラムのミソは、高校生だけでなく、大学生もプログラム運営という一連のプロジェクトを行う中で学ぶ機会にしていることにあるからだ。ビジネスプランを作る、アイデアをブラッシュアップするだけなら他者の介在に限界はあるが、このプログラムは受講生に直接的な影響が及ぶ。学生が授業をやることだけでなく、マルシェの運営も含めてどこまで想像力を働かせてコミットできるかに大きな鍵がある。

この点、前回、今回と私自身も出張先で講義を見なければならず、学生に大きな負担をかけていることは理解している。しかし、言った言わないではなく、プログラムを運営する以上、学生自身も1つ1つの意思決定を的確に行い、何がどのように進むのかを自ら把握することも求められる。授業だけでも、マルシェ当日だけでもない。一連のプロセスの中で今何がなされるべきかを判断し、実行に起こせるか

『スプラウト』で学生が授業する意味はこれを鍛えようとしているとも言える。

ふりかえり

ここまで述べて来たことはやってみなければわからない部分もあって、当然ミスも起きるし、想定外のことも起きる。が、情報を集めて準備をすることはできる。狭い自分だけの了見で判断せず、過去の事例、他の事例を踏まえて的確な判断をいかに下すか。直接的な答えは出せなくても、最もらしい答えをいくつか用意できるか

こうした思考を持って、常に最適な選択をできるようにしておく。そのために知識をインプットし、それに基づいて行動を分析し、次に来る未来を形作っていく

実は経営計画同様、プログラムの運営計画をどこまで詰めて考えられるか、実行できるかがこの授業で大学生が学ぶべきことなのかもしれない。

いずれにせよ、多くの課題、取り組むべきことが見えて来たことは評価したい。あとは定期試験直前という限られた時間の中でいかにパフォーマンスを最大化できるか。ここの成否は高校生のそれに大きく影響するし、同様のフェーズに入っている壱岐のプログラムでも同じことが言える。

この記事を読んで理解できると良いのだけれども。読んで形に結びつけてくれ!

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