高校生が普段と異なる場所でビジネスをしたら何が学べたのか?|2022上智福岡高校/博多工業高校×とびゼミコラボ授業@女子商マルシェ合併号
早いもので12月になりました。師走。
今回は12月3-4日に福岡女子商業高校で開催された女子商マルシェでのお話。福岡女子商業高校(女子商)とは2019年以来4年目となる高大連携アントレ教育プログラムでの関わりの他に、一昨年はコロナ禍で七隈祭が中止になった一方で、女子商マルシェは開催されたことから出店機会を頂くなど、多くの関わりを頂いております。
これに今年度は福岡県が主催する「高校生チャレンジ応援プロジェクト2022」に関連して支援に入っている上智福岡高校と博多工業高校がそれぞれ実践機会を得るために女子商マルシェに出店してくださいました。他校のイベントに参加するというのはかなりハードルが高いと考えられますが、ご参加頂くことができ本当に感謝しています。
今回はそこで起きた事柄がどのようなものだったのか。高校生の様子を見ながら私が感じたことを述べることにします。
これまでの各校で行われてきた高大連携プログラムの様子はこちらからどうぞ。
女子商マルシェ1日目:涙が出るほどの苦戦
いよいよ女子商マルシェ1日目。
大学生からすれば七隈祭から1ヶ月が経過し,その興奮もそろそろ忘れた頃。七隈祭は学生メインの市場であったのに対し,女子商マルシェは果たして。今回は資金制約的にも余裕があるし,来店客も周辺にお住まいの一般の方や高校生の保護者が多くなることが予想されていることもあり,ゼミ生が出店した2店舗は七隈祭とは異なる店舗の作りに。特に,のれんやのぼりを作って(!:この1回きりのために)臨む力の入れよう。このプログラムも10年以上やっているけれども,学生のこうしたアイデアにはいつも驚かされる。
一方で,チャレンジプロジェクトで支援している2校のうち,12月3日に出店したのは上智福岡高校「フルーレット」のみ。このチームはコロナ禍で増加してしまった(とされる)ロスフラワーを使ったフラワーアレンジメントを行うことを通じて,モノを大切にする心や花のある潤いのある生活を皆さんに送って頂こうということを目的に作られたもの。高校2年生の有志数名で始めて,先生はプロジェクトに応募したことを知らなかったという。
採択後,9月から複数回にわたって上智福岡高校にお伺いし,半ばコンサルテーションのようなことをしてきた。10月中旬には文化祭でフラワーアレンジメントイベントを実施し,大成功を収めたこともあり,意気揚々と女子商マルシェでの出店に臨んだ。
今回の出店計画では学園祭で好評だったフラワーアレンジメントと花を多くの人に買ってもらうために入口に生花店を設けることに。フラワーアレンジメントは1,000円にしながら,生花は価格を顧客が自由に決められるという。そもそも花の仕入れ価格もよく見えない中で,その他の資材の原価はわかっていたのでそれをベースに体験価格を設定。一方で,生花の販売は花をご提供頂いたJAからの要望を聞き入れる形で実施した。
しかし,これが思惑どおりにいかない。顧客はフラワーアレンジメントには目もくれず,生花店ばかりに集まる。フラワーアレンジメント用に用意していた花は在庫になるばかりで一向に減らない。
それはそうだ。花はただでさえ売価が高いモノというイメージがついているのに価格はほぼ自分たちで決められる。花を選ぶ過程でフラワーアレンジメントのような行為を行っている。そもそもフラワーアレンジメントをするのが恥ずかしいという層もいるだろう。こうやって店を出してみて初めてわかることもたくさんあるということだ。
それでも上智福岡高校の生徒の皆さんが素晴らしいのは,そういう状況の中でもめげずに目の前のお客様に喜んで頂こうと接していたこと。見えていないところでフラストレーションを溜め込んでいたのかもしれないけれども,それでも顔色一つ変えずにプロフェッショナルに接客していたことには感銘を受けた。
そうして1日目営業後のふりかえりが始まる。それぞれがそれぞれの認識を語り合い,意見を出し合う。結局売れないために投げ売りのようになってしまったことで価値を毀損してしまっているのではないか。この1日で顕在化した山のような課題を1つ1つ潰していく。
お客様は何を望んでいるのか,どうすれば自分たちのこのプロジェクトの意図を伝えられるのか,花を少しでも売っていかないと大量の在庫はなくならない。どのようなセールスミックスをすれば良いのか。
現金実査を得て計算された売上は高校生にとっては少なくない金額だけれども,ビジネスが思い通りにいかなかったことだけが悔やまれる。そういう思いを持ちつつも,長い議論の末に1つの結論が出た。
女子商マルシェ2日目:改善策が当たり売上は伸びる/自分たちのモノが売れる喜び
そうして2日目。この日から博多工業高校インテリア科の営業も行われる。私用により到着が午後になった。営業開始から2時間ほど経過したが,校内は来場客でごった返している。そうした中で真っ先に向かったのが上智福岡高校のお店だった。
昨日のミーティングで共有された課題を潰して店舗運営を変更。生花は1本ずつ単価を決める方式と花束で売る方式を併用。手伝いに来てくれていた1年生は花束を作る要員として専従してもらい,プロジェクトの主要メンバーである2年生が営業や店舗運営全体のマネジメントに。フラワーアレンジメント体験は花を選んだあと追加料金で体験できるようにし,体験のハードルを下げることで呼び込みができるようにした。
また,主催の女子商のファインプレイも。折から雨予報だったこともあり,イートインコーナーをフラワーアレンジメント会場にしていた食堂にも開設。昨日はほとんど人が入っていなかったスペースに人が入るようになり,生花コーナーにも多くのお客様が足を止めてくださるようになった。それもあり,前日よりも売上は伸びて花もほぼ完売に近い状態になった。
続いて,もう1つのプロジェクト校である博多工業高校インテリア科。こちらは福岡市南部にそびえる市民の憩いの森でもある油山の間伐材を用いた雑貨を販売。
先日行った授業から3週間が経過。その間も忙しかったにもかかわらず,プロジェクトメンバー6人の生徒がカッティングボード,一輪挿し,コースターと当初は予定に入っていなかった椿油を販売。特に椿油は油山の椿から高校生自身もお手伝いして精製した特製品で,椿100%のオイルだ。女子商マルシェの中でも価格帯は高めなこともあり,生徒も先生も果たして売れるのかどうかを心配していたが,いざ蓋を開けると用意していた商品のほとんどを売り切ってしまう勢い。
私も調子に乗って全ての商品を購入したが,同行した妻も興味を持って手にとって商品を見てくれていた。お客様からはさまざまな意見が寄せられたそうだが,概ね好意的だったよう。何より彼・彼女たちにとって大事だったのは,お客様の声を直接聞くことで自分たちの作ったものがどの程度受け入れられるのかを理解できたということ。いかに価値があると自分たちが思っていても,それにお金を払ってくださるのはお客様。レモネードスタンドよろしく,その経験を高校生でできること,自分たちが作った製品や企画したサービスでできることは本当に羨ましいことでもある。
こうして終えた2日間。高校生が何を感じたのか,どう思ったのかはこれからの授業や打ち合わせの中で聞いていくことに。果たしてどんなコメントが得られるのか,今からドキドキしている。
今回は女子商の先生方にかなりの無理を言って出店をお願いしたのだが,女子商の先生方も好意的に受け止めてくださったようだ。普段はなかなか他の高校の生徒と何かをする機会があるわけでもない。こうした機会ができたことで高校生同士もちょっとした会話するようになり,少し恥ずかしそうに互いのことを聞いたりしているのが可愛らしくも,微笑ましくもあった。普段は全く異なる環境で学ぶ高校生同士がビジネスを実践する場で交流するというのもなかなか面白い。
来年度以降これが続くかはわからないけれども,互いの高校が持っているリソースをやり取りしながら地域で学ぶ環境を作るってのは面白いのかもと思ってみたり。
娘氏も商売の魅力に取り憑かれる
さて,今回のマルシェでもうひとつ見どころだったのは,娘氏が商売デビューをする機会を得たことだ(親バカ)。100万円達成を目標に行っていたクラウドファンディングのリワードとして,子ども向けマルシェ=プチマルシェの体験チケットというものがあったので娘氏に体験してもらった。
しっかりとした研修からスタートして,販売練習。そして会場に行っての店舗販売実習。(親に似て)大きな声で「いらっしゃいませ!」「お菓子いかがですか!」と売り込みに徹する。
体験終了後はお給料を頂いたのだそう。が,実際に現金ではなく,マルシェ内で使える商品券として。源泉徴収で所得税が引かれるようになっていて,それぞれの言葉を説明する辞書付きの力の入れよう。家に帰って「今日は何が楽しかった?」と聞くと「お店やさんやったのが一番楽しかった。次はフラワーアレンジメント!」と言うほど。
こちらはまさにレモネードスタンド的体験。疑似体験でなく,本物に極めて近い体験だったのだから,なお彼女の心に残る体験になったに違いない。
おわりに:高校生のビジネス体験はどんなことをもたらすのだろうか
こうして女子商マルシェを舞台にした2つの高校の販売実践は終了。もちろん高大連携アントレ教育プログラムで入っている女子商の生徒たちにとっても,2年ぶりのイベントを終えたことになる。上智福岡と博多工業は福岡県のプログラムであるのでアントレ教育の文脈とは異なるが,それでも直接お客様の反応を聞くことができたという意味では成功したとは言えそうだ。
中には「ビジネスってメチャクチャ面白いと思いました」というコメントをしてくれる生徒がいて,彼はともにいたゼミ生に「商学部ってどんなこと勉強するんですか?」と聞いていたりもした。あるいは,ある女子生徒は「将来花屋さんでバイトしてみたい」とも言っていたりも。
しかし,こうした経験は高校生にネガティブな影響をもたらす可能性もある。ある高校生がこんなことを言っていたそうだ。「文化祭のときはチラシを配っても,声をかけてもすごく前向きな反応だったのに,今日は露骨に嫌な顔をされたり,チラシを貰って頂けなかったり。結構メンタル来るかも」と。それは確かにそうだ。そこで「それは自分たちがお客の立場で来たときに全く同じことをしているんだよ」と話すと,高校生たちはハッとしていた。
良くも悪くも恐らく高校生活において今回の経験は大きく印象に残るものになるだろう。それに対してどんな補助線を引いて,どんな学びの機会を提供できるか。この2つの高校での授業ではジェネレーターであることを意識しながら関わってきたつもりだが,この先のふりかえりでもそのスタンスで望めるように自分を律していきたいと思う機会であった。
実は,このあと大学生の創業体験プログラムのふりかえりもあったので,今日の高校生との取り組みを簡単に紹介させてもらった。
高校生と大学生と教員と地域と企業が渾然一体となって学ぶ装置を作る。
この取り組みにまた少し自信を持てるような気がした2日間でした。今回のこの機会にお力添えを頂いた関係者の皆様,改めて御礼申し上げます。また,このような機会を創りましょう!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?