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実践の意味を考えられるように導くには何をどうすれば良かったのだろうか|2022日田三隈高校×とびゼミコラボ授業⑤

カレンダーを見て後から気づいた。9/13は壱岐,9/14は日田,9/15は福岡と3日続けて学生とともにアントレプレナーシップ授業を教えに行く。

3連戦の今回は中日。朝から日田に移動し,オンラインミーティング(創業体験プログラムのプレ事業計画発表会)に参加,お昼は地元のハンバーガー店OJで頂き(表紙の写真),午後から50分間の授業に取り組んだ。

日田は日本有数の暑さで有名な街。この日も台風の影響からか蒸し暑く,車に乗ったときの車中の気温は夏のそれのような暑さ。「体育館は今日も暑いのかなぁ」なんて話ながら,4名の学生とともに日田三隈高校に向かった。

これまでも書いてきたように,日田三隈高校でのアントレプレナーシップ教育は,当地で高校生を中心にキャリア教育に取り組んでおられる一般社団法人NINAUの代表、岡野涼子さんからの依頼に基づき、同校の実践的授業の1つである「みんなが社長プロジェクト」の一環として行っている。

7月にアントレプレナーシップを学ぶ意義を伝え,生徒から参加希望を募り,8月6-7日に日田駅前で出店をして,この日に最終報告(ふりかえり)を行うスケジュール。少々日程がタイトなことと,大学生の定期試験も重なり,加えて販売結果も芳しくなかったことが影響しているのだろうか,夏休みでふりかえりのために(オンラインであっても)生徒を集めにくい状況下でいかに教育効果を高めるかが課題になりつつあった。

そんな心配もしつつ,授業は授業として進むので,今回は期待と不安が入り交じる回になった。果たしてどんなプレゼンテーションが行われたのでしょうか。いかで見ていくことにしましょう。

これまでの日田三隈高校での活動のようすはこちらのマガジンをご覧ください。

ふりかえり内容をプレゼンテーションする

出店からもう1ヶ月半。そして,実践コース(カフェチーム)のふりかえりに参加してから1ヶ月。あっという間に時間が過ぎた。

今回の授業を迎えるにあたり,ふりかえり報告の資料作成については高校生の自主性に委ねられたとともに,高校の授業として行っている以上,個人的にLINE等で連絡を取るのはいかがなものかという配慮もあり,なかなか連絡をスムーズに取れなかったということもある。そのようなことから,オンラインで高校生とふりかえりができた場合もあれば、ギリギリになってプレゼン資料が上がってくるなどして、伴走者たる学生もヤキモキしながらの対応。そんな中でのふりかえりは結構不安要素強め。行きの車内でも,「どうなるんでしょうかねぇ?」「大丈夫ですかねぇ?」と不安が口からついて出てくる。

大学生からのプレゼン:授業を通じて伝えたかったことは?

岡野さんによる司会のあと,今回高校生のメンター役を務めてくれた学生(3年生)からのプレゼンが始まる。

最初はの実践コース(アパレル)を担当したあやみから。今回もTANEMAKI by SPINNSの協力を得ての出店。さすがに高校生に訴求力があるアパレルだけに,参加希望者も多かった。しかし,店舗のキャパシティと生徒数の釣り合いが取れていなかったこともあり,対策は打つには打つにしても(営業成績的には)望ましい結果は得られなかった。

このことは,当時の彼女のnoteにも記されていて,以下のようなことが述べられている。

SPINNSチームのメンター,あやみんごによる活動報告

しかし実際にOPENしてみると、全然お客さんが集まらず、落胆している高校生の心情がひしひしと伝わってきて、運営側としても焦りました。

集客に関しては情報収集不足や告知不足など、原因は明らかでした。コロナや気候の影響も考えられますが、告知不足がかなり痛手となった気がします。

告知に関しては、特にSNSマーケティングの実効性について高校生に伝えた上で、生徒自身のInstagramなどに自分で組んだコーディネートや商品を載せたりして、繋がりのある人に来てもらえるように宣伝してもらいました。

あやみのnote(https://note.com/__sknaym0924/n/na60c796ac81c
)より抜粋

ここでの経験は後に壱岐での告知戦略につながっていくことになるけれども,壱岐市に比して人口が3倍,高校も5校もあるにも関わらず,来店客数,売上等々見ても下回ってしまう結果になったのには明らかな原因がありそうだ。

特に,今回の場合はいくつかの出店・催事関係のイベントに参加することが決められていて,生徒はその中からの選択でいずれかを選ばねばならなかったそうだ(それは当日まで知らなかった)。となれば,参加している生徒全員が必ずしもポジティブな気持ちではなかったと想像される。そうであっても少しでもポジティブに,前向きにと頑張ってくれたのだが,お客様あっての,売上あっての学びの場だけに,高校生の主体性を促すようにもっと関与することを考えるべきであった。

そうしたことを踏まえた上で,大人な彼女は,山口県の小さな海沿いの街出身である個人的な体験をもとに,地方都市で何をしていくのか、事業を行っていくことの意味を話してくれた。それはジブンゴトに溢れた等身大の言葉で語られた話で,一旦街を離れることで自分が生まれ育った街の今を知る,未来を考えることができるのだというメッセージだった。

次に,実践コース(カフェ部門)を担当したともきとのぶからの話。今回,カフェは2つのチームに分かれてそれぞれ異なる品目を販売した。1つはかき氷やフロート,もう1つはコーヒーフロートという暑い日田に合わせた商品を販売した。しかし,前者はかき氷機のレンタル代やそもそもの価格設定が低すぎたこともあって赤字を,後者は大学生のアドバイスもあって始めから高付加価値を目指した単価を上げる戦略を選択して,販売個数自体は大きく伸びなかったものの,どうにか黒字で着地した。

カフェチーム(BESIDE)からはメンターのともきがまずプレゼン

そもそも私の専門領域は管理会計や財務管理だということもあり,日頃から実践を行う上では少なくとも損益分岐点分析,できるだけ小さな固定費で付加価値商品を販売できるような戦略を考えることを教えようとしている。それに加えて,高校生に対してはそれを組織的に実現するために,共通した目標を設定し,その達成を目指すことを強調するような指導を行うように大学生に依頼している。つまり,目標を言語化した経営理念であったり,目標を貨幣的価値で表現した目標売上高や目標利益を設定することだ。

これを高校生に要求するのは酷かもしれないが,事業を継続させるためには利益を生み出せるようなビジネスにしなければならない。大学生も日頃さまざまな場所で出店をしているからこそ,その意味がよくわかっている。彼らの試行錯誤をもとに,高校生にはこれでもかというほど,目標設定,計画策定の重要性を伝えてきた。

のぶからもコメントが

その上で改めて今回のプレゼンでは事前目標を立てることの重要性を語るとともに,初回授業の内容を受けて限られた資源を集めてチームで何かを成し遂げるために,個人が兼ね備えるべきアントレプレナーシップを学ぶことが重要だということを話してくれた。そして,それは今回のような販売実践を行うことだけでなく,学校生活のあらゆる場面で学ぶことができるものであり,日頃から意識的に活動に取り組んで欲しいというメッセージを残してプレゼンを終えた。

高校生からのプレゼン:今回の授業から何を学んだのか?

続いて高校生からはそれぞれプレゼン。今回はカフェチームから2つ,アパレルチームから1つの報告が行われた。

続いて高校生からのプレゼン。10分程度の時間でしっかりと自分の言葉で話をしてくれました。

総じて言えば,1つ1つの細かな経験についてはしっかりと語ることはできたし,授業を通じて学んだこと,出店を通じて工夫したことや挑戦したことについては話すことができる。しかし,それを今回の大テーマであるアントレプレナーシップであったり,チームとして組織的に目標を設定し,共有し,その達成のために自分たちにできることは何かというところまでは十分に落としきれていない。個人的な体験にとどまってしまっていることが惜しい。

カフェのもう1チームからもプレゼン

だから、さながら中学校で行うような「職業体験」で語られる「◯◯して良かった」「××ができなかった」的な話になってしまう。こうした話も高校生が何を見ていたのかを知るという意味では重要なのだが,私たち側としてももう少し深く,自分たちの活動の意味を考える時間が取れれば良かったなとふりかえることになった。高校生たちはできることをしっかりやってくれてはいるけど,もっとできたのではないか,そんなモヤモヤが残った感じ。

ただ,あとから学生から聞いた話では,最初の打ち合わせ時にはやる気なさそうにしていた高校生が,今回はプレゼンテーションを行い,自分の言葉で語ろうとしていたということもあって,少しばかりでも何かしらの影響を与えることができたのかもしれない。この点,思春期特有の難しさもあるので評価が難しいところ。もう少し深堀りしたら違うコメントが出てきたのかもなと。

最後に一言

最後は私からの講評ということで,高校生に対してこのプログラムが何を目的としていたのかについて改めて話すことにした。

まず,冒頭では壱岐での結果を視覚的に捉えられるように,地元ケーブルテレビで取り上げてくださった番組を放映した。その意図としては,同じような活動をしてきた他地域の高校生がどんな活動をしているのか,その成果がいかなるものだったのか,なぜそのような結果をもたらすことができたのかを考えてもらうためだ。比較をするのは好ましくないのだろうが,日頃友人さえいなければ他の高校生が何をしているのか,ましてや他地域に住む高校生が何をしているのかを知ることができない(興味関心がない)。知恵を絞って、周りを巻き込んで、自分が他者への信頼をするからこそ、他者が興味を持って関わってくれるのではないか。自信がないから何もしないのではなくて、小さな自信を雪だるまを作るように大きくしていくことをこうした学びの場から学んで欲しいのだと伝えた。

結構強めの言葉を投げかけてしまいました

そして,なぜこの授業をやっているのか,このまちをどうしたいのかを考えるのは高校生自身であること,そもそも同級生のやっている取り組みにどれだけ関心を示せたのか,自分たちがやる商売に自分たちがどれだけジブンゴトとして取り組めてたのか,組織的に目標を共有して何かをすることの意味について,限られた時間の中で伝えられることを伝えようとした。

さまざまな地域を回っていて感じること,いわゆる地域一番手の高校ではない高校で授業をしていて感じることは,無関心がはびこっていることだ。周りで何が行われているのかを知らない,知っていたとしても関心があることを意志として表明しない,何か目立つことを好まないというようなことだ。これは地域そのものにも感じることでもある。

そうした価値観が当たり前だと思うのではなく,アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスという言葉を体現する機会を作らねばならないし,それが自分たちで未来を作る,まちを作る,生活を営むということにつながっていくのだということを改めて伝えたかった。わたしたちは生きている以上、他者との関わることが求められる。そうした中で自分を支える自信=自己効力感を養う教育のあり方として、商学部だからできるアントレプレナーシップやビジネスの実践で教えられることを教えていきたい。

果たして伝わっていたのかどうかはわからない。答えは10年,20年後,もしかしたら私が死んだ後に出るかもしれない。

全体を通しての気づきとこれからの課題

こうして日田三隈高校での2022年度アントレプレナーシップ教育のカリキュラムがすべて終了した。とにかく無事に終えたことはホッとしているが,繰り返し書いているように,課題もたくさん残された。

特に,昨年度得られた確かな手応えをもとに,今年度はさらに一歩先を目指そうと意気込んでいたのもあるとともに,募集段階で多くの生徒が集まったこともあって浮足立っていたような気もする。もっと精緻に生徒に寄り添ったカリキュラムを設計できていたら,多くの生徒を集めようとせずにこのプログラムでやろうとしていることを理解できる一部の生徒(イノベーション普及理論に基づけば2.5%程度が集まればOK)に絞り込むことができれば,また異なる結果になったかもしれない。学校という場において教育機会を絞り込むのではなく,できるだけ多くの人に提供することを目指したいけれども,今あるわたしたちのリソースではできることに限りがある。

今回,高校生のサポートにご協力頂いた皆さんからは次のような言葉をもらいました。

給与も見返りもない環境で学生が「自分ごと」に成るために必要なのは、「応援されている」という意識を自覚してもらうこと。自分たちから生み出された企画でない場合、友達や先生、地域住民から応援されて初めてその気持ちは生まれてくるのではないか。

ある人のふりかえりから

個人的には高校生ともっと密にコミュニケーションを取る機会が欲しかったです。今回は高校生のことをあまり知れないまま終わってしまいました。一方的だったり、温度差が生じないよう、高校生との関係性を構築し、高校生が率直に考えていることや思っていることを大学生が理解した上で進めていくことが必要だと感じました。

別の人のふりかえりから

せめてあと1-2時間、高校生と何ができたのか、何が課題として残ったか,何かをしたという行為を認識するのだけでなく、そこからどう世界の見え方が変わったのかを知りたかったなと。先月オンラインで行ったカフェチームでのふりかえりに同席した際には,高校生から素晴らしいコメントが出てきて感動した。が、改めてそれを次につなげる機会の設計ができていないに気付かされた。これはカリキュラム上の大きなミスだったなと。

今,わたしたちが取り組もうとしているのは,①大学がない街に大学生が訪問することで高校生のロールモデルになること②地域で新たなビジネスを立ち上げることで街で生活基盤を整えられること=仕事は自分で創るものという考え方を育てていくことにあった。そして,学生が立ち上げたポップアップカフェBESIDE COFFEE STANDを起点とし,大学生と高校生がコラボレーションをして教室だけでなく,実践の現場で何かを教えるというプログラムが立ち上がった。そして,掲げた目標を達成するために,高校生には自己効力感を育むような機会を作り出そうとしている。

日田三隈高校での2回目のアントレプレナーシップを学ぶ授業を通じて果たして何を残すことができたんだろうか。

高校生の自発的な行動を促す,他者と互いを信頼しあい,尊重し,その中で自己効力を育む。失敗に寛容になり,チャレンジするマインドを養う。

こうしたマインドセットを植え付けていくには長い時間がかかる。だから,たかだか2回で諦めてはいけない。次どうするか,また知恵を振り絞らねばならない。

そう,わたしたちもたくさんの経験から学び,挑戦を続けていかねばならない。挑戦は続く。

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