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終わり良ければ総て良し その11 母の意思
母の通院介助。
なぜか毎回僕が行く。
本来は長男か長男の嫁の役目だろうと思う。
少なくとも我が家はそういう方針で育てられたから。
だが母は、当たり前のように僕に頼む。
末っ子の方が頼みやすいらしい。
何だか損した気分だが、僕の方が医療や介護はプロである。
素人よりはまし。
さて、今回は大きな山場だった。
とうとう、病院内で、母は自力で移動ができなくて、僕が車いすで介助した。
その上、主治医は聴打診だけで、いつもなら翌月の予約をするだけなのに「何か変だなと思ったらすぐに来てください」と言った。
僕も入院させられた病院なのでよく知っているが銭ゲバのようなところ。
にもかかわらず、心電図もとらない。
ということは・・・。
看護婦だった母も、医療機関のクライアントをたくさん抱えていた僕もピンときた。
「それほど余命は長くないな」
聴診器だけで、心臓の性能の悪化が安易にわかるレベルになっているということだと。
さて、これから先は、僕の役目ではないな。
父からは、「我が家は長男が親の面倒を見ること」と厳格に言われて育った。それは3男だったのに祖母の面倒を押し付けられ、祖母と母の板挟みになって苦労した父の意思だったのだ。
だから、母に、きちんと自分の意思を長男に伝えるように話した。
家で死にたい。
死んだら、救急車で病院へ行き死亡宣告を受け、そのまま病院から直接火葬場へ行き、お骨になって戻ってきて父の仏壇に置かれる。
そして父と同じ墓に入りたいと。
これが母の意思。
戒名はいらないというから、父の菩提寺には申し訳ないがスルーさせていただく。たぶんケチな長男は喜ぶ。
戒名だけで50万円位はかかるから。
母の意思をきちんと守るかはわからないが、僕は父の死に目にも会っていないから、平等を期すためにも、母の死に目にも会わないよ、と言った。
末っ子は冷たい。
でも、そう育てたのは、あなたたちなのだから。