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加速する胃袋の奪い合い、業際化を追う
人口減少や少子高齢化に加え、消費者の購買行動も大きく変容する中で、食を取り巻くマーケットには新たな課題とチャンスが生まれています。今回は“人口が減少する=胃袋の数が減る”という視点で、食マーケットを中心とした業際化の進展について、「販売革新」編集部さんに2回にわたりレポートしていただきます。
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(その1) 食のマーケットを取り巻く環境 胃袋争奪の背景
コロナ禍において、ライフラインとして生活者を支えたスーパーマーケットやコンビニ。この2年で、人々の働き方やライフスタイルが変化し、価値観にも影響を与えました。新型コロナウイルス感染拡大が高止まりしている状況ですが、徐々に経済活動は再開し始めています。しかし、果たして全てがコロナ禍前の状況に戻るでしょうか。環境は大きく変わり、新たな課題も見えてきました。
今回は、2022年、そしてその先を考える上で、押さえておきたい環境の変化の影響要因と課題について、まとめることにします。
●止まらない人口減少と都市部集中
地方の商業事業者に課題を尋ねると、自社のことはさて置き、「深刻なのは人口減少」との声が上がります。今に始まったことではありませんが、高齢化とともに深刻な事態になりつつあります。
実際、地方の街を歩くと、かつて栄えた商店街は相変わらずシャッター通りのままで、驚くほど疲弊しています。商業集積が郊外に移っているだけではといった声もありますが、その郊外のショッピングセンターですら来街者が減り、賑わいが見られないところも出てきているのです。
とある街で乗ったタクシーのベテラン運転手は、商店街を通りかかった際、「昔は人が道路まであふれてくるほどの賑わいで、車で通るのが怖いくらいの道でした」と、様変わりした街の様子を嘆いていました。
2020年に実施された国勢調査の「人口・世帯数(速報値)」によれば、2020 年10 月1日時点で日本の人口は1億 2,614 万6,000人、15 年に引き続き人口は減少。
都道府県別の人口を見ると、前回集計から人口が増加したのは8都府県だけで、他の39 道府県は全て人口が減少しています。
都市部への人口集中も進み、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県の東京圏だけで全人口の約3割を占めているのです。
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●社会問題化する高齢化で小さくなる胃袋
人口減少とともに高齢化も深刻な問題です。2020年の国勢調査(2021年9月15日現在推計)では、65歳以上の高齢者人口は約3,600万人となり、総人口に占める割合は15年調査の 26.6%から29.1%と過去最高となりました。
年齢別の人口分布を見ると、ピラミッドからひょうたん型、そして逆ピラミッド型へと、はっきりした構造的変化が見えます。
日本経済の牽引役といわれ、人口の最も多い「団塊の世代」(1947年~49年生まれ)は70歳を超え、総人口の22.8%になりました。25年には団塊の世代全てが75歳以上の後期高齢者になります。
これがいわゆる「2025年問題」ですが、あらゆる消費経済活動に大きな影響を及ぼすと危惧されています。
中でも食料品については、人口の減少で胃袋の数が減る上、高齢化で胃袋の大きさも小さくなるため、その影響は計り知れません。
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出典:国立社会保障・人口問題研究所ホームページ(https://www.ipss.go.jp/)
●進む単独化と女性の社会参加で中食が拡大
2015年の国勢調査では、一般世帯に占める単独世帯の割合は34.6%でした。2020年の国勢調査ではそれが38.0%(総務省e-Stat統計データより集計)と予想を上回るペースで単独化が進んでいます。学生や単身赴任者など、国勢調査に参加する人が少ないことを考慮すると、都心では2世帯に1世帯は単独世帯との見方もあります。
また、国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」によれば、「単独世帯」は一般世帯総数が減少した後も増加し、2032 年以後ようやく減少に転じると予測しています。
核家族化どころか単独化が進んでいる中、さらにライフスタイルの多様化で家庭内での“バラバラ食”も増えるなど個食化も進んでいます。
また、女性の社会参加が進んでいることも食生活の変化に大きく影響しているでしょう。総務省統計局によれば、共働き世帯の割合は15年には約65%になり、家事や食事の支度にかかる時間を節約したいという時短ニーズが高まっています。
コンビニの弁当やスーパーの惣菜など、調理済み加工食品、すなわち中食の需要が拡大しているということです。
Meal Solution(食卓革命)という言葉をご存じの方も多いのではないでしょうか。米国のFMI(The Food Industry Association/食品産業協会)が1995年に提唱したスローガンです。当時、米国では女性の社会参加が進み、子供を持つ母親の約70%が何らかの仕事を持ち、そのうちの約70%はフルタイムで働いていました。つまり、子供を持つ母親の約49%は、父親と同じような働き方をしていたわけです。
そこで、食事を作る時間を節約したいというニーズが高まり、HMR(Home Meal Replacement)、家庭での食事にとって代わる商品が注目を集めます。すなわち買ってきてすぐ食べられる、日本で言うところの中食商品です。スーパーはこうした消費者の変化をとらえ、時間短縮を意識した商品を取りそろえるなど、Meal Solutionを展開していったのです。
日本でも女性の社会参加が進み、当時の米国と同じようなニーズが高まっており、中食市場の拡大は続いています。一般社団法人日本惣菜協会の調査によれば、コロナ禍で市場規模はやや減少したものの、中食市場規模は約9兆8,195億円と、コンビニの市場規模約10兆6,600億円に並びそうな勢いです。
コロナ禍で自宅時間が増え、内食回帰が進み、料理を楽しむ傾向がある一方、食の簡便化、時短消費の傾向は今後も続くものと考えられますが、前述の通り、人口減、高齢化によって食全体の市場は間違いなく縮小しており、今後さらなる競争激化が予想されるでしょう。
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出典:「令和2年国勢調査結果」(総務省統計局)
●買物行動の変化と食で来店頻度アップを狙う
さて、新型コロナウイルス新規感染者数が、高止まりしているが、経済活動再開を望む声が高まっており、日本は徐々に日常を取り戻しつつあります。
しかし、コロナ禍で変わった購買行動は、全て元通りになるとは考えにくいでしょう。
まず、店での買い物の仕方が変わってきました。人との接触機会を少なくするため、ショートタイムショッピングが顕著になり、短時間で買い物を済ませるために、必要なものをメモした計画購買が増えています。
また、冷凍食品や加工食品など、家庭でストックできる商品が人気で、来店頻度の減少につながると心配する声もあります。
そして、食品宅配市場は右肩上がりで成長を続け(既出の記事「成長続ける食品宅配市場」参照)、コロナ禍で日常生活に確実に組み込まれました。
ネット通販やデリバリー、テイクアウトの便利さを享受した消費者が、コロナが終息しても店に戻るという保証はありません。
一方、衣料品、ファッション小物、日用品やホームファニシングなどのノンフード系では、食品以上にネット通販売上が急伸。高い家賃を支払って大きな店を構え、在庫を保持する売り方から、ショールーミング化を進め、OMO(Online Merges with Offline)というネット連携した販売方法の模索が急ピッチで進行しており、店の存在意義を考え、店へ客を呼び戻すための取り組みが行われています。
特に、食品を扱うことで来店頻度を上げようとする動きが顕著です。
これまでのように、食品はスーパー、弁当ならコンビニ、日用品はホームセンター、薬はドラッグストアといった、業種による縦割りの棲み分けができなくなり、食を中心に垣根を越えた業際化が一層進んでいるのです
次回は、食品を中心にした各業態の取り組みを紹介します。
(文:「販売革新」編集部)
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人口減少と高齢化で胃袋の“数”だけでなく“大きさ”も減るという前提のもと、中食市場の競争激化やニューノーマル時代の購買行動の変化に伴い、多種多様なプレイヤーによる食品市場への参入が進んでいることが分かりました。
既存の食品小売事業者としても、なかなか1社単独で新しい顧客体験を創出することは難しく、他業種・他分野との連携を模索していることがうかがえます。こうしたニーズに対して、スタートアップならではの技術やアイデア、俊敏性が価値提供できる部分は今後も増えてくるでしょう。
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