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バーチャルファッションの可能性 ライフスタイルに合わせて多様な楽しみ方が広がる!

アパレルブランドでは、新たな収益確保やファンのロイヤルティ向上、サステナビリティの観点などから、3DCG技術やNFT技術を活用したバーチャルファッションを展開する企業が出てきています。北米を中心に市場が拡大する中、日本にも少しずつその流れが来ているようですが、そこにはどのようなポテンシャルがあるのでしょうか?
今回は国内初のバーチャルファッションレーベルの動向を中心に、バーチャルファッションの可能性について「ファッション販売」編集部さんにレポート頂きました。

新型コロナウイルス感染が広がった3年間。外出制限、商業施設の休館などで、ファッション業界はこれまでにない大打撃を受けました。リアル店舗からEC強化に舵を切り始めた頃、日本初のバーチャルファッションレーベルが生まれました。それが、宮地洋州氏がCEOを務める1SECの「1BLOCK(1ブロック)」です。
2023年2月には、累計取引高約5億円(1BLOCKが開発、運営する全NFTコレクションの一次、二次流通含む)を突破して話題となりました。

バーチャルファッションとは、ゲームやSNSなどのバーチャル空間で着用できる服、バック、靴などのことを指します。オンライン上のアバターに着用させたり、コレクションして楽しむデジタルファッションアイテムの総称です。
2018年1月にオランダで「The Fabricant(ザ・ファブリカント)」という世界初のデジタルファッションハウスが設立され、今では日本でもさまざまなアパレル企業が参入し始めています。

新たなファッション分野でよりクリエイティブに

1SECは2021年4月、NFT技術を活用した日本初のバーチャルスニーカー「AIR SMOKE 1(エアスモーク1)」を発売し一躍脚光を浴びました。北米の通販モールに出品し、わずか9分後、約150万円(当時の暗号資産レート)で落札され、ネットニュースなどでも話題となりました。
NFTとは、「非代替性トークン」という意味を持つ言葉で、データが複製・偽造されたものでなく、不正なしに所有されていることを表す証明書のようなものです。
AIの発達でウェブ上ではフェイク画像や動画が問題になっていますが、NFTによって唯一無二のバーチャル商品であることが証明されることで、一気に信頼度が上がりました。
また、バーチャル商品が転売(二次流通)されると作者やメーカーに報酬が入る仕組みも設計することができ、クリエイターやブランド側の長期的な利益につなげることが可能になるという、今までにない特徴があります。

NFTによる流通時のクリエイターへの還元イメージ

ブランド/デザイナーが制作した物理的なユニークピース(一点物)に加え、メタバース空間上で使用できる3DCGデータやプロフィール用合成写真データを販売し、ブロックチェーンでNFTを発行。一次流通のみならず、二次流通された際も元の制作者であるブランド/デザイナーに還元金が支払われる。

報酬面だけでなく、誰がどれくらいの期間バーチャル商品を所有していたかなども把握できるため、ブランドへのロイヤルティを測ることができ、そうしたファンへの特別なアプローチを可能にするなど、ファン化の促進というマーケティングの面でもリアル商品にはない可能性を持っているといえるでしょう。
骨董品の収集家が、真贋を見極めるために専門家に鑑定を依頼しお墨付きをもらったりしますが、それよりも信憑性が高いのがNFTだといえるかもしれません。

広がりつつあるバーチャルファッション

宮地氏は、「当社では3DCGの技術を用い、デジタルで作られている服、バック、靴などのプロダクトをバーチャルファッションと定義しています。バーチャルならリアルでは難しい表現も可能で、現物制作上でぶつかる機能性や素材、重量などの制約を受けず、クリエイティブの幅が格段に広がります」と語っています。

このバーチャルファッションを一躍有名にしたブランドはいくつかありますが、最も衝撃的だったのは、RTFKT(アーティファクト)のバーチャルスニーカーではないでしょうか。
発売開始からわずか7分で310万ドルを売り上げ大きな話題となりました。
前述の「AIR SMOKE 1」は、3Dアニメーションを用いて、刻々と変化するレインボーの配色やソールから噴出するスモークが目を引くデザインとなっており、世界で一足という希少性は、美術品としての価値に通じるものがあるといえるでしょう。

1SECが日本で初めて販売したバーチャルスニーカー「AIR SMOKE 1」

宮地氏は、「確かにアートの側面もあります。スニーカーには投機目的でのコレクターが存在しており、二次流通プレミアがつき、10倍の値段で取り引きされることもあります。既に二次流通のバーチャルスニーカー市場も存在し、アートコレクター、スニーカーコレクターなど多様な属性のユーザーが利用しています。1BLOCKのメインターゲットはNFTコレクターやトレーダーと呼ばれる人たちで、スニーカーだけでなく、ハイブランドの『コーチ』や有名アニメの『ルパン三世』とコラボした3DデジタルフィギュアをETH(イーサリアム)という仮想通貨で販売しています」といいます。

世界では北米を中心にバーチャルファッション市場が出来上がりつつありますが、日本では既存アパレル市場と比較するとまだまだ小規模で、これから拡張していく分野だと期待されています。そんな中、先陣を切ってレーベルを立ち上げた理由について宮地氏は、「まず、ファッションクリエイターたちのアイデンティティを拡張できるツールとして、バーチャルプロダクトは非常にサステナブルでいいなと思いました。制約がなく、よりクリエイティブになれる場所をレーベルとして提供できれば、ファッションの楽しみ方が倍増するのではないでしょうか。日本には、世界的に有名なアーティストも生まれていますし、アニメやゲームのIP(知的財産)大国でクリエイティブなことが得意です。日本の素晴らしさを世界に届けるきっかけになりたいと考えました」と述べています。

廃棄ロスゼロのバーチャル市場

日本では年間で約29億着の衣服が供給されていますが、そのうち約15億着が売れ残り、その多くがブランドの価値を下げないために、新品のまま焼却または埋め立てゴミとして処分されているといわれています。廃棄ロスの問題は、持続可能な社会を目指すSDGsの観点からも、世界的に解決しなくてはならない課題となっています。
アパレル業界の過剰供給による大量廃棄や環境汚染の問題もバーチャルならそもそも発生しません。サンプルを3DCADで作成できるソフトが開発されるなど、物理的な割合をデジタルに変えることで環境への負荷を少しでも減らそうとする動きも出ています。

10〜20年後、現実での普段着はシンプルなものを着用しているのに、バーチャルスペースのアバターでは多様なファッションを楽しむ。また、高価な服を着せていたり、派手なスニーカーを履かせたり。さらにバーチャルファッションを話題にコミュニケーションを深めるなど、新しいファッションの楽しみ方や業界の姿が見られるかもしれません。

(取材・文:「ファッション販売」編集部)

1SECの事例を中心にバーチャルファッションの可能性をレポートしていただきました。国内ではまだ発展途上ではあるものの、アニメやゲームなどのIPに強みを持つ日本には、アパレル業界に限らずバーチャルファッションに参入するチャンスがあることが、宮地氏のコメントからうかがえます。以前、noteでも「顧客ロイヤルティの可能性が広がる、Web3.0のポテンシャル」の中でラグジュアリーブランドやRTFKTのNFT活用について取り上げたことがありますが、ただデジタル技術を用いてNFTを販売するだけでなく、どのような顧客体験を設計し、ファン化する仕掛けを作れるのか、アイデアの広がりにも注目したいところです。メタバースなどデジタル空間におけるバーチャルファッションが今後どのように発展・浸透していくのかも含めて、引き続き動向をウォッチしていきたいと思います。