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彼方への旅 香港編

前提

普段、仕事柄と性質上でひきこもり傾向の生活を送る自分が、久しぶりに思い立って海外旅行に出かけた際の、ポンコツ感あふれるあれこれを備忘録としてとりとめなく綴った。長いのでお時間があればどうぞ。

往路

LCCかレガシーキャリアか、悩んだ末、やはり安心のキャセイ便を選ぶ。
予算よりちょっと高くついたが、安心には代えがたいと自己弁護し納得。

席についてしばらくして、横で窓の方向を無言で指さしてくる人がいた。
自分の席は通路側。つまり窓側の席に座ろうとしている人だった。
立ち上がって通路を譲る。連れもいたようで2人の男性が席を埋める。
2人とも北京語で会話をしているので、大陸の人?
離陸して時間がたち、CAさんが飲み物のカートを押してやってきた。自分はアップルジュースを頼む。横の男性2人組にもCAさんが声をかけた。
窓側の一人が「ぴーじぅ! ぴーじぅ!」と頼んでいる。
ぴーじぅ、って北京語で何だろう。アップルジュースを飲みながら考える。
しかし、北京語の語彙がないのでわからない。するとミラクルが起こる。
CAさん(ここまで3人ともに英語対応)「Uh…, Milk? Do you want milk?」
窓側北京語男性うなづく。

いや違う。絶対違う。ぴーじぅは一音たりともミルクにはならん。
そう思いつつ聞いていたのだけど、CAさんは英語で
「いまカートにミルク積んでいないので、後で持ってきますね」
と言いつつメモを書く。これは一波乱あるぞ、と勝手にドキドキしていた。

しばし時は過ぎ、CAさんが紙コップに白い液体を満たして持ってきた。
渡された男性、苦笑いしながら何か隣のお仲間に話している。やっぱりね。

その後、別のCAさんが他の乗客のビールの空き缶を運んでいるのを指さしながら、真ん中席の男性が再度「ぴーじぅ」と言いつつ頼んでいた。後に調べたら、北京語の「ぴーじぅ」は啤酒=ビールのことだった。
そら苦笑いの一つも出るわな。
今後のために「びあ」の一言を覚えてみてはいかがでしょう、と2人の北京語男性に向かって心の中で呟いてみた。

お目当てのビールがやっと来て満足だったのかどうかわからないが、
ほどなくして北京語男性2人の姿が見えなくなった。
機内食の時間になっても戻ってこなかったので、どこかの空席に移動したのかなと思っていたら、トイレで席を立った際に、後方席で眠り込んでいる2人を発見した。おかげでフライトの半分以上、3席独り占めの状況で楽勝。
映画を見ながら快適に過ごす。見たのは、台湾映画『ミス・シャンプー』。
キュートで笑える作品で、久しぶりの海外旅行に緊張している自分にとってはそのハッピー加減がいい滑りだしとなった。

往路 機内食(白身魚のクリーム煮)

入国審査

そんなに混んではいないようだ。列に並んで待っていたら、係員の女性がパスポート読み取りの機械をガシガシゆさぶっている。どうも読み取りの機能がうまく作動しないらしい。その間列は進まない。それを発見した列整備の係員さんが、自分の並んでいた列を別の列にさばく。グッジョブ。
ガシガシしていた係官さん、その人の列に新たに並んでしまった若い白人男性に「You want to try?」と笑顔で語りかける。「試してみる?」ぐらいのカジュアルな感じ。入国審査なのにえらく軽いなと横目で見ながら、列が進むままに歩んでいく。
緊張のひとときが過ぎ、自分の番が終わって出口にさしかかると、先ほど見かけた若い白人男性とその連れの若い白人女性が出口と反対のコーナーで男性係官の隣に座っていた。彼らに何があったのだろう。
とりあえずこれで入国だ。日本人の場合は90日間ビザいらずである。

エアポートエキスプレス→地下鉄→チェックイン

空港から香港島へ、エアポートエキスプレスに乗る。
片道24分で、香港駅までは3駅。座席もきれいで快適な車内である。
その中で、事前購入していたeSIMを使ってLINEをやってみた。
移動中なのでちょっとのひっかかりはあったが、まずまずの通信速度。
何より物理SIMのように入れ替えをしなくていいのが簡単である。
今回はHolaflyのeSIMだったが、ほかにも数社同様なサービスあり。

ほどなくして香港駅につき、そこからは地下鉄でホテルに向かうことにした。香港駅からは乗り換えの中環駅まで歩く必要がある。
その道のりは、駅表示の矢印に沿って歩くだけ。途中、動く歩道に乗りながら、ほぼ15分ほどで中環駅にたどり着いた。
夜9時半ごろだったので、地下鉄も激混みということがなく乗り継げて、
目的の駅、尖沙咀に到着。そこで初めて、香港独特の湿気と香りのある空気に気づく。ホテルにたどり着くと、もう10時近くになっていた。チェックインを無事終了し、部屋に入る。
なかなかの古さだ。まあ、ここで暮らすのも数日間と思えば慣れるだろうと思い、シャワーを浴びる。このシャワーが曲者で、浴槽の蛇口からシャワーへの切り替えがうまくいかず、シャワーと蛇口の両方から温水がでるので、浴びるときは「半シャワー+足湯」の状態になってしまうのである。
とほほ、と思いつつも、ここから部屋変えても古さは他の部屋もおなじだろうし、フロントと交渉するエネルギーも枯渇していた。そんなこんなで一日目は終了。

香港文化博物館とヴィクトリア湾とカレー

今回の旅は、普段足りない「文化」の旅にしようと思い、目的地を美術館と博物館に絞った。その第一弾が「香港文化博物館」。
尖沙咀東駅から地下鉄で少し郊外へ赴く。
車公廟駅に降り立つと、ゆったりとした並木(ガジュマルの木?)と川があり、犬を連れて散歩する人たちがいたりで、ほっとできる空間があった。
橋を渡って川沿いに歩いていくと、香港文化博物館の入り口にたどり着く。おそろいのジャージを着た中学生らしき団体もいて、そこそこにぎやかである。事前調査が不十分だったため、館内に入ってから職員さんに
「ここの料金はいくらですか?」と英語で尋ねると、一瞬?という表情をうかべたもののすぐに「〇〇も▲も**も、全部無料ですよ」(香港なまりが強い英語で部分的に単語が聞き取れなかった)と親切かつ丁寧に教えてくれた。ということで4階建て(だったと思う)の建物をエスカレーターに従って順路を回ることにした。
博物館、という名前なので、古典の展示が多いものかと思えばそういうわけでもない。アニタ・ムイの死後20年を記念しての展示(舞台衣装や生前の映像、レコード盤など)、ブルース・リーの歴史的資料(映画の衣装や直筆書簡、家族のインタビュー映像など)、作家・金庸の生誕100年を記念した作中のヒーローたちの姿の彫塑、そしてHong Kong Pop 60+と題されたポップカルチャーの歴史展(粤劇(広東オペラ)の舞台装置や衣装、映画や芸能誌、ラジオ放送などの展示など。『インファナル・アフェア』のポスターには個人的に感激)と、幅広く親しみの持てる展示が多く、無料なのに盛沢山感たっぷりで、訪れた価値は存分にあり。件の中学生団体とほぼ一緒に回った格好になるのだが、そんな集団の中でも、グループでわいわいやっている子たちもいれば、ひとりでじーっと展示を見ている子もいたりで、これからの香港がその背中にかかっている彼らの学生生活に幸あれかし、と保護者の目で見ている自分もいた。

香港文化博物館 入口オブジェ

そんなこんなですっかり満足して帰路に就く。
地下鉄を降りた尖沙咀で、せっかくなのでヴィクトリア・ハーバー沿いを散策することにした。最初に涼みがてら入ったのは「K11 Musea」という商業施設。どこもかしこも高級ブランド店舗でおじけづくばかり。涼みに来たはずなのに、じんわり冷や汗である。
調子をとりもどすために外に出て、スタンドで買ったアイスコーヒー片手にヴィクトリア湾沿いへ向かう。何やらにぎやかだと思ったら、おそらく大陸からの団体旅行客であろう、胸にピンク色のバッジをつけた人々とすれ違った。こういう時、一人旅がちょっと寂しく感じたりもする。
各所でポーズをとりながら楽しそうに写真をとっている彼らを見つつ、アイスコーヒーをすする。それにしても3月末にして28-29℃という気温である。のども乾くというものだ。団体さんも水のペットボトルを携えている。ちょっと曇天だけれど、のどかで蒸し暑い午後だった。

ヴィクトリア・ハーバー沿い

気づけばもう午後3時ごろであった。
おなかすいたと改めて感じ、Google map で近くの食堂を探す。
値段が手ごろそうな候補がいくつか出てきた。その中でも、ワンタンメンが値段の割に高評価のついている食堂が気になったので赴いてみる。
空席がいくつかある。1人か、と聞かれたので1本指を立てて「1位(広東語で「やっわい」=一人、の意味)」と告げると、レジ横の4人掛けのところを準備してくれた。相席文化の香港だけど、この時間帯は4人掛け独り占めでもよいのか、としばしのラッキー感をおぼえていた。
さて注文、という段階で重要なことに気づく。メニューにワンタンメンがない。残念極まりなかったが、気を取り直してメニューを見る。英語表記がない。ましてや日本語表記などあるはずがない。ここは漢字の知識を総動員して内容を推察するしかない、と身構える。中に、「咖喱」の文字が。
これはチャンスだ。カレーである。あとは中身がわかるカレーだ。
「鶏」の文字が見つかった。よし、チキンカレーにしよう。
英語で「これください」と指さし注文すると、担当の人が「チキン!」といいつつメモを取ってくれた。やっとご飯にありつける。しかし何で香港でカレー、という疑問は置いておいてほしい。とりあえず空腹をみたせればよい。そして出てきたのは、マレー式のカレー。大きな塊の鶏肉と、赤パプリカとピーマンが入った、ココナツミルク入りの東南アジア風味のあれである。辛すぎることもなく、ちょうどいい味付けだった。ごはんは日本なら「大盛」の量。HK$65。1HK$=20円で計算すると1300円ぐらい。円安を感じた瞬間であった。

香港藝術館と点心と「不要」

香港文化ツアー第二弾は、「香港藝術館」(Hong Kong Museum of Arts)。総合美術館である。こちらも、特別展以外は無料。
今回の訪問時は、主に書を扱っている展示が多く、行書は何が書かれているかさっぱり読めないのに、なんとなく雰囲気をつかんだ気になっていた。
楷書は多少意味が分かり、ふむふむと部分的に知ったかぶりを決めてみた。
こちらは立地がヴィクトリア湾のすぐ横ということもあり、やはり北京語が多く聞こえる会場内だった。平日にゆっくり美術館めぐりしているような現地社会人は少ないだろうし、観光客でにぎわうのは当たり前か。
一つ不思議というか日本人としてはなじみのない光景があった。
館内、写真は禁止のサインがでていたのだが、もしかしたらあれは「カメラでの撮影」禁止、ということだったのだろうか。
多くの観覧客が携帯で作品をとりまくっていたことである。
自分が古いタイプの人間かもしれないのだが、どうも美術館で携帯撮影をすることに躊躇してしまうのだ。携帯撮影OKといわれている展示においても、必要最低限にしてしまう。なんとなく価値が薄れてしまうような気がして。
そんななか、展示物の隣でポーズをとる観客が少なからずいたのには面食らった。自分なら照れと畏れでたぶんできないと思う。文化の違いを感じた光景であった。

午後1時ぐらいに、とある点心の店にたどりつく。
人気と聞いてはいた。たしかに列ができていた。
とりあえず店の前に並んでいたら、前にいたおじさまが
「このチケットはもっているか?」
と尋ねてきたので持っていないというと、
「チケットを店の中でもらってから並ぶんだよ」
と教えてくれた。以外に香港人は親切である。
(広東語の響きとそっけない対応が多いせいで、初見とっつきづらいけど)
礼を告げて、店の中で番号札をもらってくる。
1人だったせいか、10分もせずに順番が来た。もちろん相席。
向かい側には3歳ぐらいの男の子とその母親らしき人が横に並んでいた。
その男の子、なにやら東洋人のおばちゃんだけど誰、というまっすぐな目でこちらを見てきたので、ここは友好親善とばかり、にっこりしてみせると
「まーまー、******しゃお******」と母親に問いかけている。北京語である。まーまー、はそのまま「ママ」。しゃお、は漢字の「笑」と推察。「ママ、このおばちゃん、笑ってるけど何?」とか怪しまれていたのだろう。母親がなにか答えていた。そつのない回答を願うのみ。
頼んだのはお茶(耐熱性ガラス容器の入れ物になみなみと入ってくる)と、エビ餃子とロブスター餃子。確か昔聞いたところによると、お茶ひとつと2件の注文で一人前、だったはず(不確か)。とりあえず軽くつなぎたかった。合計HK$58。およそ1160円。お値段手ごろで、お店も明るくおしゃれかつ清潔で、係の人もてきぱきとしていて良いお店だった。

店名:Log Ye Dim Sum (樂意點心)
地図:https://maps.app.goo.gl/p4DH7NmnN9Mj9duaA

ホテルに戻ったのは2時過ぎ。明らかにハウスキーピングサービスがはいっていない。そのころ、ちょっと疲れが出ていたので、しばし休憩としたかった。ミネラルウォーターの新しいのと、タオルも交換してほしかったので、電話で頼んでみた。電話先で「ハウスキーピングサービスは済んでいるか?」と尋ねられ、「済んでいないです」と答えたところ、「係に連絡します」と告げられた。その後待つこと小一時間。TVB(地元のテレビ局)のニュースチャンネルをぼーっと見ていたら、やっと係の人が現れた。
小柄な若い女性、北京語しか話さない。
こちらはコミュニケーション手段として英語しか話せない。
意思疎通の困難な中、作業は進む。係の人はてきぱきとごみを処理し、タオルを交換する。次にシーツを整えようとしたが、どのみち寝転んで乱れるし、なによりすぐ休みたいので「しなくていいです」と英語とジェスチャーで伝えると、「ぶーやう*********?」と質問らしき口調で尋ねてきた。えーと、ぷーやう、ぷーやう。あ、「不要」か。なぜかそこだけ分かり、「ぷーやう」と答えると理解してくれた。ほっとした。
諸々作業が終わり、バイバイと言いながら係の人が帰っていった。
飛行機での件、点心店での母子の会話に続き、なぜ自分は香港(広東語圏)に来て北京語で思考を試されているのだろう。不思議である。

『彼方のうた』@Hong Kong International Film Festival

実はこれが今回の旅行のメインイベントである。
午後5時半からの、杉田協士監督作『彼方のうた』の香港国際映画祭での初回上映に向かった。

当方は、英語字幕の担当としてこの作品にかかわらせてもらっていた。
今回、監督が事務局に連絡して下さり、スタッフの一員として上映に参加することができた。ありがたい話である。
場所は尖沙咀にあるシネコンの劇場。120席ほどの劇場内、9割がたの席が埋まっていた。上映が始まり、自分の英語字幕と、映画祭側でつけてくれた中国語字幕を同時にみながら、この劇場内で自分の訳を見直す照れくささと、一つのスクリーンを国や言葉を超えて観客がただ静かに見つめることへの感慨深さを同時に感じていた。
あるシーンで、主人公がお店の前で閉店のサインを見て「がーん」と言う部分が、中国語字幕では「アイヤー(艾尔)」となっていたのも新鮮だった。
隣に座っていた、年のころは自分と同じぐらいのいかにも映画好きという感じのご夫婦らしき方たちは、この作品をどう思っていたかしら。感想をきいてみたくもなった。
チケットの手配など映画祭スタッフのお取り計らいに感謝した夜だった。

彼方のうた 劇場内

M+と添好運とスターフェリー

今回の旅行のサブイベントは、M+。近年開発が進む西九龍地区にできた美術館である。事前にKlookというチケット販売サイトでウェブチケットを入手して、当日窓口で券に引き換える方式だった。知らずに入口のエスカレーターに行ったら、係の人に「あちらのカウンターで(紙の)チケットに交換してください」と教えてもらう。
広い会場の数室にわたる展示が、それぞれ工夫されている。大規模で多種にわたる現代美術が設置されており、区分が変わるごとにテーマも変わり、楽しみつつ、かつ考えさせられながら館内くまなく観覧して回った。中国本土の作家の作品はもちろん、特にデザインの展示部門では日本人作家の名前も多く見られた。中でも、デザイン部門で、過去のPARCOの広告がとりあげられているのが、なんとも懐かしかった昭和人間である。
一方、大規模な作品が堂々とした存在感を誇っている場面に、ふっと息をのみこんだ時もあった。複雑な背景がある中国と香港の歴史を考えると、この展示の意図は、と思わされてしまう配置に、個人的には暗喩としてしか感じられないところがあったからだ。
特別展の一つはマダム・ソンというファッション界の華という存在を取り上げていた。特にピエール・カルダンとの結びつきが強かったらしく、往年のオートクチュール作品が多々展示されており、眼福であった。
別の特別展では、モノクロの写真展が開催されており、好きな作家の作品もみられたので大満足。
小さなかそけき美しさから、膨大な量や高さでの大胆さに至るまで、さまざまな迫力を感じる展示がみられて良かった。
もしこれから香港を訪れる方は、旅程の中にM+を盛り込んでおくといいと思う。特別展デュアルパス(特別展2種と一般展示)で約4000円ぐらい。値段の価値は十分にある。

M+ 入口

地下鉄で香港駅にたどり着き、さてごはんと思い、Google mapで駅近くの添好運を探す。昨年はじめて東京の日比谷にある添好運に赴いた。その本店は九龍半島の深水埗店と聞いたことがあるが、支店が香港内にはいくつかある。香港駅近くの店があると事前に調べていた。ちょっと迷ってやっとたどり着いたお店は、ベテランそうな小姐さんたちが元気にさくさくと働いている「食堂」という趣だった。この店もチケットで並ぶ制度かと思い、「チケット必要ですか?」と尋ねたら、4人掛けのテーブルの一角に案内してもらった。もちろんここも相席で、片方の一角にはホンコンマダムが2人。にぎやかにおしゃべりしている。
プーアル茶と、エビ餃子、シューマイ、イカと慈姑(だと思う)を細かく切ってミンチにしたものをご飯にかけて蒸したもの、を頼む。合計HK$132。
暑い中迷ってたどり着いたので、汗をだらだらかいていたが、濃い目にはいった温かいプーアル茶を何杯も飲んだ。おいしかった。ここでのお茶は「やかん」的な大きさの容器で来るので、たくさん飲みたい人にはうってつけである。
蒸しご飯を運んできたベテラン小姐が、「ソース(かけるよ)?」と言ってきたので、かけてもらった。ちょっと甘辛いソースが美味。
餃子とシューマイは、安定のうまさである。美味しくておなかいっぱいでこの値段なら十分すぎると感じる。ただ円が安いだけなんだよ、このご時世。

添好運 香港店 レシート

ぽんぽこぽんのおなかを抱えて、尖沙咀への帰りはスターフェリーを使うことにした。中環のターミナルから尖沙咀まで、15分ぐらいの航路である。M+の近くにある香港故宮博物館を遠くに眺めつつ、ゆったりと進む船でまったり。客席には、大人から子供まで、ムスリムの人や自分のような東洋人や、白人やアフリカ系の人まで、本当にいろいろな人種がいた。さながら15分間のノアの箱舟か。
しばらくして尖沙咀にたどりつくと、そこではまた、到着した日に感じた香港の空気がただよっていた。翌日香港を離れるのが寂しくなっていた。

 Star Ferry 船内

帰路

朝9時過ぎの出発便なので、早起きをしてチェックアウトする。外はまだ夜明け前で、喧噪がない静かな尖沙咀。地下鉄に乗ると、そこそこ席は埋まっている。みんな働き者だなーと、のんきな観光客は感心してしまった。往路とは反対に中環から香港駅までの道を進むと、同じようにスーツケースを引いた人たちを多く見かけた。
キャセイでは、インタウンチェックインというシステムがあり、香港駅で荷物を預けて搭乗券を発行してもらえる。このシステムはもともと「セルフサービス」なのだが、駅についてみると係の人がたくさんいた。きっとこれ、一部の人たちにはわかりずらかったりして、改善策をとったんじゃないかなと推察した。係の人が「Koktai?」と尋ねてきて、一瞬「こくたい?」とひるんでいたら、すぐに「Cathay Pacific?」と言い直してくれたので(キャセイの漢字表記は「国泰」)、そうですと答えた。すると、その人の隣にいた男性の係員さんが、はいこちらといわんばかりに案内してくれて、「Japan?」というのでイエスと答えると、セルフチェックインの機械の操作から荷物のチェックイン作業まで全部進めてくれた。こちとら自分でやるつもりで予習もしており、大人ですから大丈夫ですよとも感じたが、なんともありがたいサービスぶりである。
インタウンチェックインを終えると、引きずる荷物がなくて身軽になれるのがいい。そのままエアポートエキスプレスに乗って空港へ。
車窓から見える香港郊外は、雨が降っていた。

往路と同じく通路側の席を取っていたら、やはり隣側2席の人たちがあとからやってきた。知り合いか兄弟かわからないが、2人連れの南アジア系男性だった。立ち上がり通路を譲ったあと、イヤホンのジャックを探して目前の画面の下の穴に差し込もうとしたところ、2個あるうちのどちらにもはまらない。どうしたものかと迷っていたら、南アジア男性の一人が、にこにこしながら座席手すりを指さしている。あー、ここか。照れ笑いしながら、ありがとうとお礼を伝えると、彼はまたにこにこしていた。わがポンコツ人生、人に助けられてこうやってつながっている。感謝しかない。
その彼らは、離陸以降、ずっと席で眠っている。機内食の時間になっても起きない。つまり飲まず食わずで5時間ちょっとのフライトをすごしていた。宗教上の理由で食べられなかったのだろうか。確かキャセイでは事前に申請すれば特別食を対応してくれるはずなんだけどな。おなかすいてない?と、ちょっと心配になっていた。
機内映画で、見逃していたビクトル・エリセ監督の『瞳をとじて』を見る。
よかったけど、やっぱり大きなスクリーンで見たかった。エコノミー席の小さな画面では伝えきれないものを見逃している気がした。

そういえば、である。
機内食を配られる際、広東語で話しかけられた。
いや、さっき英語でスクリーン設定の変更方法伺いましたし。
降機の際に、CAさんにサンキューと言ったら
「Have a nice stay!((日本での)滞在をお楽しみ下さい)」と笑顔で答えてくれた。
いや、いまから帰宅ですし。
税関前でVisit Japanのアプリから端末でチェック後ゲートに向かう途中、係員さんに「Check, please!」と英語で言われた。
いや、日本語でOKですし。
ゲートの列に並んでいるときも、自分の直前に並んでいた女性には
「(アプリ)チェック済まれましたか?」と日本語でたずねているのに、
自分には「Check, please.」と英語で言われた。
いや、チェック済みですし、なにより日本語でOKですし。
上下ユニクロの服、ほぼすっぴんに眼鏡の風体だと、自分は無印アジア人に見えてしまうのであろうか。たぶんそうなんだろう。

復路 機内食(点心とパン!)

結論

  • 香港はオワコンではない(確かに変化しているが)

  • 点心(飲茶)ははずれが少ない

  • 香港人は実は優しい

  • 自分の横に座る人たちはかなり疲れている

  • 自分は無印アジア人

以上、長編におつきあいいただき、お礼申し上げます。
みんなも行こうよ香港へ。


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