Perfect Win ~ EDMJ最終戦の舞台裏あれこれ ~
私は、過去のあらゆるシムドリフト大会の優勝者の中で最も追走が下手なドライバーかもしれない。
私は単走番長。単走だけで勝った。本当に運が良かったラウンドだった。
まえがき
先日行われた #EDMJ 2023 FINALのアーウィンデール戦で、初めて表彰台の頂点を射止めることができた。本当に、色々な方の協力があっての結果だと思う。
まずは運営の皆様に感謝申し上げたい。
お仕事で大変な日々の合間を縫って準備・開催に尽力されていることでしょうし、本当に頭が下がる。
今シーズンもお疲れ様でした。ありがとうございました。
それから、日頃から仲良くVCに付きあってくださっている皆様、サーバーで一緒に練習してくださる皆様にも感謝申し上げたい。
車の悩みを共有してはアドバイスを頂いたり、テキトーな戯言・うんちくに付き合って頂いたり、いつも楽しい毎日を過ごさせていただいております。本当にありがとうございます。
さて、ここからは余談タイム。
タイトル通り、一昨日の戦いの舞台裏を振り返ってみよう。
最高の予感 ~ まさかの単走1位 ~
練習の段階でかなり手応えはあった。本番前日の練習時間の後半あたりから自分の中にある「成功ライン」に乗せられる確率は80%を超えていて、マージンを取って走っても予選は通るという確信はあった。
あとはその走りで何点を取ることが出来るか。
単走予選が始まった。
個人的に注目していたのは第3グループのJYO_2選手とkorokoro選手の走り。
JYO_2選手は昨シーズンから参戦しているベテランドライバーだ。練習サーバーで何度も一緒に走らせていただいている。
力みが全くないスムーズなアプローチ、角度の安定感、綺麗なライン取りを兼ね備えた走りでコンスタントに80点オーバーを取ってくる超実力派のドライバーという認識だ。
自分の中で、JYO_2選手の走りに対する審査団のリアクションがその日の点数の傾向を知る大きな材料になっている。幸いにも今回はJYO_2選手が先に走る好都合な出走順だった。
korokoro選手は今回のラウンドが初参戦。他のドリフトイベントで何度か戦っている。
滑らせた後の姿勢制御の技術とトラクションの掛け方が天才的で、本番度胸もあるドライバーだ。まだ高校生だという。本当に末恐ろしい。
ただ、今回のラウンドは純粋に走りだけではなく、korokoro選手のS15の車両制作を私がサポートさせていただいたのも、注目選手としていた理由の一つにあった。
少しだけ、EDMJのマシンについて語ろうと思う。
EDMJマシンの挙動制作はいわばパズルのようなものだ。エンジンや足回り等のパーツを、数種類のプリセットデータから好みのものを選択して組み上げる。
2023シーズンで言うと、空力とブレーキ性能は全車固定で、エンジンとミッション、サスペンション、タイヤサイズが選択制だった。どのような組み合わせでも乗りこなすことさえできれば性能差はほとんどないが、コースや車のサイズとの相性によっては、悪癖のような特性と常に隣り合わせで走らなければならない場合もある。
korokoro選手から頂いたS15シルビアの寸法は全長4445mm×全幅1695mm×全高1285mmで、全体的にコンパクトで取り回しがしやすく、全長に対して幅が狭い所謂「長方形」型の形状なので、角度を付けた時に車体が安定しやすい。EDMJに多く参戦しているマシンの中で、運動性能でランキングを付けるならばFD3Sに次ぐ2位だと私は思っている。ただ、幅が狭いからかリアがスライドし始めてから安定するまでの過渡期のコントロール性には難がある。
EDMJのマシンづくりの最適解とは?これはあくまで自分の中の結論だが、絶対的な速さよりも、全体的な動きがマイルドで柔軟に姿勢とラインとトラクションを制御可能なコントロール性の高い車にしたほうが良い結果が生まれやすい。昨シーズンの途中でR32からFD3Sに乗り換えて痛い目を見た自分の経験から、そう思っていた。
では、S15でそれを実現するためには?
最終的に、足回りをstrut2とDWB3のどちらにするかで悩んだ。
sturt2は今シーズンの上位勢御用達の脚だ。重心高やトレッド幅を見る限り、恐らくシルビアサイズのマシンに最適化されるように設計されたのではないかと思う。実際に使ってみると、最大角度自体は並でDWB3に比べてドライバーのアクションに対して敏感故、動きは少しピーキーだが、角度を付けた時のトラクションに優れている。
DWB3はその逆で、最大角度が頭一つ抜けていて、動きはマイルドだがトラクションに難あり。どちらにするか迷ったが、シルビアの個性とポテンシャルが最大限発揮できそうなstrut2を選んだ。第一バンク後半で若干フロントがアンダーステアなのが懸念点だったが、korokoroさんの腕とセンスであればどうにかできるという確信もあったので、それだけ伝えてそのまま車を納めさせていただいた。
脱線したので話を戻そう。
単走がスタートした。
お二人が走るのは第3グループなので、それまではソロで練習しながら配信の音声を聞いていたのだが、途中で86点というビックリする数字が聞こえてきて思わず走るのを止めて配信を見直した。
高得点を叩き出したのはTeam zeN'sのmrさん。1本目にミスで点数が出なかったようで、安全マージンを残して走り切ることを第一に考えた走りに見受けられた。インフィールドバンクで若干ふらついたようにも見えたが、全体的に大きな角度が付いていたことが評価されての点数と推察。
そして、注目のJYO_2選手の走行。
まさに盤石。往年のD1ファンなら、2007~2009年くらいの確実に点数を取りに来た時の川畑正人選手のような走りと言ったらイメージが付くだろうか。簡単に83点を取ってみせた。
続いてkorokoro選手の走行。
第1バンク~第1クリップまでは完璧だったがインフィールドバンクへの振り返しで一発で目標角度が付かなかったように見えた。が、すぐに左足ブレーキで角度を修正して81点を獲得したが、あれがなければ80点台中盤は狙えたように思う。
車を納めた当初、振り返しでスピンしやすいということを仰っていたので少し心配していたが、恐らく普段はやらないステアリングを投げるような振り返しをしたんじゃないだろうか。とりあえず走り切ったのを見てとても安心したが、あれをステアリングを投げなくても出来るセッティングにする必要があったと反省した。
セッティングは難しい。自分の乗り方や環境では出ない症状が、渡した人に出る。それを想定しないといけない。
そして、自分の走行する第4グループの順番が回ってきた。
同じグループにいるのがMONCHAN選手とKaname選手。MONCHAN選手は昨シーズンから圧倒的な単走力を見せているし、今シーズンのKaname選手は単走も追走も1、2位を争うハイクオリティで安定した走りを見せている。勝手にライバル視をしている存在のお二人の走りは否が応にも目に入った。
MONCHAN選手は第1クリップへの振り返しで若干迷いがあったように見えたが、それ以外は文句のつけようがない82点。
Kaname選手は持ち味の圧巻のスピードを見せつけた。最終のウォールランで狙いすぎで壁にヒットしたものの、アクセルを入れ続けて走り切り85点。
特にランキング2位のKaname選手の走りからは、このラウンドでチャンピオンを取るんだという気迫が感じられた。本人がどう思っていたかは分からないが、これまでよりも気持ちが前に前に行っていたように思えた。
良い最終戦だと思った。
諦めない心が緊張感のある空間を作り出して、鬼気迫るテンションに心が盛り立てられた。同じグループだったからかもしれない。
自分の出番がやってきた。
1本目だからとりあえず点数を残そうと、気持ち的には十分に安全マージンを取って走った。走りきった後にほんの少しため息が漏れて、少しだけ肩に入っていた力が抜けた。
点数は94点。
「おお、マジか」
素直に感想が漏れ出た気がする。
ある程度の点数は出ると思っていたけど、そこまで頂けるとは…という感じ。ラインは少し残していたつもりだが、今思うと左足ブレーキをほとんど使わないように意識して走ったことが良かったのかもしれない。
この時点で結構ノリノリ。安全マージンを取った走りでこれなので。
2本目は振り返しをよりアグレッシブに、1本目では使わなかった左足ブレーキを使って数センチ奥のラインを攻めた。多少速度は犠牲になるし、左足ブレーキを使うことがどこまで審査員の心象に響くか分からなかったが、その分アクセルを踏み込むようにした。
結果は96点。本当に気持ちが良かった。
それも、EDMJ史上最高点というおまけ付きだった。
これまで最高得点を保持していたのは昨シーズンシリーズチャンピオンのSNworks選手で、その点数は昨シーズンのRd.2のSturup戦で叩き出した95点だった。
ちなみに、このラウンドで自分が出した点数は78点で、予選はギリギリ16位通過。その後追走1回戦でSNworks選手とぶつかり、しょうもない自滅で敗北。自分の中でも印象深いラウンドだった。
今シーズンからSNworks選手はEDMJの運営側に回り、アングル審査を担当されていた。そのSNworks審査員が自分のセカンドランに付けてくださった点数は、アングル部門で与えられる満点の30点だった。VDCやESDAでご活躍されている、雲の上のようなドライバーに認められたような気分になって一人で感動した。
この男、ノリノリである ~ 気が付いたら決勝戦 ~
追走ベスト16のお相手はTeam zeN'sのOJOMOさん。マシンはS15。
一緒に走ったことは何度もあるのだが、とても緊張した。
OJOMO選手はとにかく速い。どんなに引き離そうとしても後ろにぴったりと付いてくるし、スタートの加速もぶっちぎりで速い。
ただ、そこが狙い目でもある気がした。深い角度を維持したまま安定して旋回することに重きを置いてセッティングをした自分の車とはかなりの速度差があるんじゃないだろうか。
ひょっとしたら、多少安全マージンを取りつつ自分の走りをすれば、OJOMO選手は自分の車の速度に詰まってミスが出る可能性が高いと思った。
結果は予想通り、自分が先行の1本目でOJOMO選手が第1クリップで詰まり、自分の懐に入り過ぎてスペースが無くなって振り返せず。その後、第2クリップ後の振り返しでも接触。自分は第1クリップの出来事こそ見えていないが、それ以降のOJOMO選手の車の音の遠さと、第2クリップ後の接触があったのでアドバンテージを取ったと確信していた。
2本目は様子を見ながら付いていく予定でスタート。バンクに進入後離されていく一方だったので「あれ~?」と思っていたら、途中でOJOMO選手が第1バンクで壁に接触してドリフトが戻り、視界から消えてしまった。その後、突然OJOMO選手が後ろから現れたり空に飛んだりしたが、なんとか走り切り勝利。
難敵に見事勝利することができた。
追走ベスト8のお相手はVERSUSのKEI選手。マシンはFC3S。
新進気鋭の若手ドライバー(確か、まだ中学生)だ。
一緒に走った経験は数える程度しかなく、今ラウンドは練習サーバーが違うため事前に走りをチェックすることも出来ていなかった。
一番気になっていたのはKEI選手のスピードだったが、練習サーバーで同じマシン(この時はそう思っていたけど、大会後に確認してみたら結構違った)に乗るSho選手と走っていたため、速度のイメージは出来ていた(この時は仕様がかなり違うことに気付いていなかったので勘違いだけど…)。
先行の1本目。ストールしたのか、自分のスタートとタイミングが合わなかったのか、それともエンジン特性の差か?スタート後にミラーを見たらだいぶ距離が空いていた。安全マージンを取った走りでも確実にアドバンテージを取れると思ったので、とにかく無理せず走りきった。
2本目。スタートは上手く決まって同時振りで懐に飛び込んだまでは良かったのだが、距離調整のサイドの時間が長すぎて離されてしまった。後に追いついてインフィールドバンクへの振り返しでもばっちり懐に飛び込めたのだが、想像よりも自分の車が走ってしまって減速している隙にまた離され追いついて…という展開に。
1本目があったので2本目が例えイーブンとしても勝利だと思っていたので、勝ち上がりの判定に特に驚きはなかった。
ただ、すぐに配信で自分の後追いを見返して、走行中に感じていたよりも数段自分ヘタクソだということが分かり反省した。恐らく、これだと2本目はイーブンではなく、若干はKEI選手にアドバンテージがあったんじゃないかとさえ思う。
とはいえ、勝利したので気持ち的にはノリノリではあった。
同じくベスト8の3組目、この日一番の極上な追走ショーが見られた。
ベスト16の勝利でシリーズチャンピオンを決定したryoryo選手とRd.3の優勝者であるSho選手の対戦だ。
個人的には今シーズンのEDMJの中でもベストだと思っている。
是非見て頂きたい。
このお二人も若い。確か中高生だ。本当に末恐ろしい。
両者ともにスピードがトップクラスに速い上に、後追いでの距離感の詰め方と維持が抜群に上手い。先行でも後追いでもアドバンテージを取ることができる万能なドライバーだ。
ちなみに、自分は第3戦の決勝戦でSho選手と対戦しボコボコにやられている。実はこの日も単走1位を獲得していて追走トーナメントからはノリノリでこなしていたのだが、見事に伸びかけていた天狗の鼻を折られた。
新鮮な哀愁だ。
今年齢30になろうという大人が中学生にボコられる構図は、こういったバーチャル世界でなければ決して味わえない。
年齢関係なく全員が等しく実力が全ての世界。そこで結果を出そうともがくのは本当に楽しい。
毎回終わった後は緊張で頭痛くなる。笑
話を戻して、続いて追走ベスト4。
お相手はREVIVAL RACING TEAMのM.ITO選手。車はFD3S。
主に車載動画をあげていらっしゃるInstagramアカウントのフォロワー数はなんと3700人超を超えている。ご存知の方も多いのではないだろうか。
一緒に走ったことは何度もあり、別の大会ではあるものの対戦経験もある。
過去にも様々な大会で実績を残されている経験豊富なドライバーで、下手な小細工は通用しないのでとにかく全開で行くことにした。
1本目の第1バンクの途中でほんの少しだけ自分の角度が戻り、速度が落ちたタイミングでITO選手との距離が空いた。予期しない減速タイミングだったのかもしれない。
そこから先は後ろを確認する余裕がなかったが、ITO選手はその後追いつくも、インフィールドバンクでの振り返しで詰まり、またしても距離が空いてしまった。その後は距離を詰めるが、射程距離には捉えられないまま走り終えた。
2本目。自分の中で今日一番の追走を見せることができた。
バンクの進入からITO選手のインに入り込み、インフィールドバンクでまたも車が走り過ぎて少し遅れるが、すぐに追いつき終始食いついたまま走り終えることができた。
結果は僅差で勝利し、決勝進出を決めた。
また、この時点でシリーズランキングが1つ上昇し2位で終えることとなった。狙っていたわけではなかったが、色々な幸運が重なって獲得できたことは素直に嬉しい。
今回対戦してみて、ITO選手の車のセットアップが以前とはかなり違うと感じた。メカニカルグリップが高く全体的に動きがクイックで加減速に対する車のレスポンスが良いが、ピーキーで速度が遅い車に合わせるシチュエーションが苦手な、FD3S"らしい"セッティングをされている認識だったが、今回は意図的にリアのトラクションを抜いて、全体的に動きを緩慢にして大きい角度を無理なく維持できる仕様にしてきている気がした。
これまでのセッティングのITO選手にスピード勝負でこられたらついていける気はしなかった。EDMJがそこまでスピードに重きを置いた審査をしないとはいえ、追走の後追いで先行車に離されていては心象が悪すぎる。だから、今回のITO選手のセット変更は自分にとっては好都合だった。
自らの手で栄冠を ~ 予想だにしなかった結末 ~
決勝戦はここまで圧倒的な強さで勝ち上がってきた今シーズンのチャンピオンであるryoryo選手。
念願の対戦だった。これまで一度は戦ってみたいと思いつつ、一度も機会に恵まれなかった。
ベスト8での対戦を見ても、シリーズチャンピオンが決まり肩の荷が下りたのか、いつもよりイケイケな走りをしているように見えた。しかし、こちらも単走1位を獲得し、シリーズ2位も決めてノリノリである。負ける気はしなかった。
1本目、これまでよりも攻めた走りをしたいと思い事前にリアタイヤの空気圧を減らしてスタートした。セッティングを取る段階で試してはいて、そうしたほうが速いことは分かっていた。アンダーが強くなって成功率が下がるのを懸念して上げていたが、もうここまで来たらやっちゃうか、と。
壁に当たっても構わないと思ったが、本当に偶然にも車は耐えてくれた。単走2本目よりも高い速度でバンクを回れた。
そこから先のことはあまりよく覚えてない。多分ゾーンに入ってたんじゃないかと思う。
気が付いたら前を走るryoryoの車がインフィールドバンクで大きく戻って、視界から消えた。
というような週末だった。
あとがき
最後に、今回のラウンドは本当に、色々な方の協力があっての優勝だった。
ポジティブに関わってくださった皆様に感謝したい。
さて、これだけだとただの感想戦になってしまうので、次回はEDMJマシンについて語っていこうと思う。
ではまた。
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