アクアクララ
我輩は猫である…
と言っても、あの有名な猫とは全く違う。
野良猫ではないし、きちんと飼われている猫だ。
我輩を飼っているのは、どこにでもいる女の子だ。昨年から大学に通いだして、一人暮らしを始めたようだ。
実家から我輩も連れてこられたのだ。まったく。
女の子の名前をサキと言う。これは我輩とサキの話なのだ。
「そこに設置してください」
サキが二人の作業員に指示を出している。
二人の作業員が部屋の端に大きな白い箱を置いていた。
「これウォーターサーバーって言うのよ」 だそうだ。
「これで毎日新鮮で美味しい水が毎日飲めるよ」ふ〜ん。
あの上の透明なところに水がたまっているのだろう。
だけど、なんか変な光を放っっているような…気が…。
気のせいかな。
サキは全く気になっていないようだ。
鼻歌なんか歌いながら出かける用意をしてやがる。
赤いワンピースなんか着て、誰とどこに行くのやら。
サキは着替え終わると、お皿に水を入れて持ってくる。
もちろん、ウォーターサーバーからくんできたあの水だ。
やはり変な光を放っている。猫の目にしか見えないのか。
変な光が気になって、我輩は水の中に顔を突っ込んだ。
水の中で目を開けると、ぼんやりサキが見えた。
赤いワンピースを着たサキが、街中を歩いている。
黒くて高いパンプスを履いていて、とても歩きにくそうだ。
歩いていると案の定、道路の小さな溝にパンプスが挟まってしまう。
サキはその拍子に車道側に倒れてしまう。
倒れたタイミングを見計らうように、自動車が走ってくる。
倒れてきたサキが走ってくる自動車にぶつかる!そう思った瞬間に我輩は水から顔を上げる。
夢だったのか、いやそんなはずはない。
サキはまだ部屋にいる。
我輩は玄関まで走って行き、あの黒いパンプスを探す。
綺麗に揃えてあった黒いパンプスに噛み付いて、傷だらけにする。
それを見たサキがビックリした顔でこっちに近づいてくる。
「もう!それ今日のデートに履いていくつもりだったのに!何やってんの!」
サキは代わりに黒いアディダスのスニーカーを履いて出かけていく。
結局なんなんだ、あの水は。もう見たくない。寝よう!
我輩は丸くなって眠ってしまう。
目が覚めると、外は暗くなっていた。
横を見ると、サキが横で眠っていた。
サキが目を覚まして、我輩を抱き寄せる。
「彼、スニーカー好きだったみたいで、そのスニーカー素敵だねって褒めてくれた。ありがとう」
デートはうまくいったようだ。それよりもサキが無事でよかった。
ウォーターサーバーに目をやる。あの変な光は見えなくなっていた。
とても綺麗な水だった。
大切な命を守ってくれるウォーターサーバーは、今も我輩とサキの家にある。