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HappyHacking keyboard Professional
HappyHacking keyboard2の危機
Lite2を発売したこともあり、販売台数もコンスタントに上向いて、社内でもHappyHacking keyboardの認知度もあがり、商品として認められつつありました。
ところが、2001年~2002年ころ、HappyHacking keyboard2を製造してもらっていたメーカから部品調達の問題で生産を継続できないと連絡が来ました。さらに、そのメーカはキーボード製造から撤退するということでしたので、後継機を開発することもできないことが分かりました。
和田先生の目の黒いうちはHappyHacking keyboard配列のキーボードを絶やしてはいけないという思いがまず浮かびました。
後継機を開発するために他のキーボードメーカを探し始めました。
後継モデルの検討スタート
条件としては、HappyHacking keyboardの開発では常に悩まされてきたことですが、比較的小ロットで製造可能なことと、初期費用があまりかからないことです。
当時は今のようなクラフトキーボードなどありませんでしたので、海外メーカは大口のロット商談しか受け付けておらず、話をしても進まないだろうと考えました。そこで、国内でキーボードを製造しているメーカをあたることにしました。
また、メカニカルキーボードならば開発費は抑えらえれるだろうと考え、メカニカルキーが製造できるメーカを探すことにしました。
国内ではAlps,ミネベアなどがキーボードを製造していたはずですが、すでにどこも撤退してしまった後で、なかなか候補が見つかりません。
個人的にパイオニアが製造していたAlps製のApple互換機のキーボードが気に行っていたので、できれば採用したかったと思っています。
東プレとの出会い
そうこうしていると、PC雑誌などで東プレのキーボードがとても評判が良いことが分かりました。発売当初は品切れになるくらいの売れ行きだったようです。
東プレのキーボードは銀行ATMや航空券の発券端末に使われているので触ったことはありましたが、他とは違う不思議なキータッチだなと思っていました。
調べてみると東プレは業務用のキーボードを長く製造していて、キースイッチは無接点なので耐久性が高いという特徴あること分かりました。これは一生使い続けられる"馬の鞍"としてうってつけだと思いました。
さらに、Nキーロールオーバに対応できることもキーボードとしての完成度が高められると思いました。
ちなみに当時PFUは国道16号線沿いの南町田駅近くにオフィスがあり、同じ16号線沿いの橋本駅近くに工場がある東プレはなんとなく親しみを感じました。
さて、ダメもとで東プレにコンタクトを取ったところ、西貝さんという営業の方が対応してくれました。早速南町田から橋本まで、HappyHaking keyboardのコンセプトと新モデルを開発してもらえないか、説明に行きました。
コンセプトを理解いただけたのか、なんとか引き受けてもらえることにな りました。
東プレの静電容量キーを採用することになったのはある意味偶然なのですが、方向性は合っていたのだと思います。
さて、キーボードを作るには金型が必要になります。なるべき既存のキーを流用して開発費を抑えることを考えましたが、HappyHacking keyboardの配列を維持するためにはいくつか新規でキーキャップを作る必要がありました。ケースも新規になります。これから費用を捻出する必要があります。
PFU社内の対応
HappyHacking keyboardは当初はPFUの研究所という組織で開発からサポートまでを行っていました。その後研究所が解散になり筆者は受託開発を行う事業部門に異動していました。HappyHakcing KeyoardはPFUのビジネスの範疇には当てはまらず、正式なプロジェクトというよりほぼ筆者の個人プロジェクトでした。仕様検討やメーカとの交渉、技術サポートまでほぼ一人でやっていました。
そのような状況で、しかも受託部門のため、新製品開発のために自前の予算を申請することはできませんでした。
予算を確保しなければ製品を実現できません。
そこで、当時企画部にいた松本さん(現HHKBエバンジェリスト)に相談したところ、社内で新規ビジネスを立ち上げるためにグループごとに予算がもらえる制度があることがわかり、急遽メンバーを集めて申請しました。
これが無事承認され、東プレ版のキーボードの開発が一歩前進しました。
HappyHacking keyboard Elite
その時の社内状況を考えると次のモデルを作るのは難しいだろうと思い、それまでのHappyHacking keyboardの集大成としたいと考えました。
新モデルは個人的に勝手にELiteという名称を付けていました。Liteの対比としてゴロが良さそうな気がしましたので。
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| Happy Hacking Keboard Elite(仮称) |
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| 要求仕様 |
| 2002.11.24 |
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仕様
概要にはこのように書いています。
本キーボードは、Happy Hacking Keybord 2 (PD-KB02)をベースモデルとした、USB キーボードである。
なお、Happy Hacking Keyboard ファミリの最上位機種であり、外観、包装等にはふさわしい質感を追求する。
電気的仕様
インタフェース:USB1.0 HID クラスデバイスとする。
キースイッチ形式:静電容量検出方式
その他:・動作設定用DIP スイッチを有する。詳細は別途。
・USB HUB は内蔵しない。
機械的仕様
本体色 :グレー(東プレ標準色)
大きさ :PD-KB02 と同程度
重 量 :600 グラム程度
ケーブル:500mm 本体ケーブル + 1500mm 延長ケーブル
キーレイアウト:60 キー PD-KB02 互換配列
キーキャップ:東プレ標準キーキャップ
ただし、1.5 単位キーは新規開発のこと。
キートップ形状:ステップスカルプチャ構造
キースイッチ:東プレ標準 45g/40mm ストローク
※USB HUBを付けない、ケーブルをHappyHacking keyboard2と同様なケーブル直出しで検討していたのは、可能な限り高さを抑えるためでしたが、構造上難しく、製品版ではUSB miniコネクタが採用されました。
動作モード
KB01からKB02, Lite, Lite2などのモデルで動作モードを追加してきたので、EliteではDIPスイッチの切換えですべてのモードに対応するようにしました。
東プレのファームウェア開発者は開発が大変だったかもしれません。
1) KB02 モード
PD-KB02 互換モードである。このモードでは、◇キーは無変換/変換キーとして動作する。
PD-KB02 との相違点は以下の2 点である。
-左◇キーをFn キーに設定できる。
-◇キーとAlt キーをスワップすることができる。
2) Lite 拡張モード
PD-KB100(Lite)互換モードである。このモードでは、◇キーはWindows キーとして動作する。
また、Fn+TAB でCAP LOCK キーとなる。さらに以下の機能を追加する。
- テンキーパッドのEnter,+,-,*,/キー
3)Mac モード
Mac モードは、Mac 用キーボードしての以下のキーを追加する。
- Power,Volume Up, Volume Down, Eject
3) Sun モード
Sun モードでは、Sun キーボードの特殊キーを追加する。Stop キーがKB02 と異なる点に注意。
-Stop,Find,Open,Front,Props,Help, Undo,Cut,Copy,Paste,Again
まとめ
この仕様書をまとめたのち、筆者はPFUから離れて、パナソニックのベンチャー企業に出向になりました。出向先からも仕様検討には参加していましたが、東プレ版 HappyHaking Keyboardを商品としてまとめてくれたのは今でもHappyHacking keyboardをサポートしてくれているPFUの方々です。
仮称Eliteは、ほぼ当初の仕様書通りに完成して、製品としてはProfessionalいう名称になりました。
Professionalは長く売れてくれることを願って開発したものですが、PFUの担当者とユーザの皆さんのおかげで途絶えることなく生き続けています。和田先生をがっかりさせずに済んでいることにほっとしています。
HappyHacking keyboardのコンセプトは、"vi/emacsユーザ向けの"ミニマムキーボードです。和田先生はFnキーを付けること自体があまりお気に召されていなかったように思います。
しかし、このスタイルでキーボードだけで操作するユーザよりもVScodeなどの新しいUIに馴染んだユーザの方が増えているのでしょう。
今般発売されたHHKB StudioというモデルはモダンなUIを念頭に置いたアプローチなんだろうと思います。
カスタマイズができることを前面に出していますのでいろいろ楽しめるのではないでしょうか。
ずっとメカニカルスイッチのキーを使いたかったのですが、巡り巡ってメカキーになりました。
これらは歴代HappyHacking keyboardです。初代はMac用刻印がありません。 Professionalは黄ばんでしまいました。
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HHKB Professional HHKB Professional2
HHKB Studio
先日、和田先生と久しぶりにお会いすることができました。お元気そうでなによりでした。
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昔話はこれにて。
Happy Hacking!