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The Time Lag 0:01

事の訪れはたった一晩に見た夢だった。

明晰夢を見る技術なんか微塵もない。

それどころか明晰夢という言葉すら字引に載っていない。

今見ているのは夢なのか。

寝付いた筈なのになぜこんなに意識がはっきりとしているのか。

そんな気持ちとは裏腹に、夢の最中に引っかかった思いは、

結局意識の覚醒とともに少しずつ日常に沈む。

溶けて消えていくと思っていた。

なのに覚えている。ショックなほど鮮明にだ。

それは「あの娘と抱き合い、唇をあわせ続けた」という

欲望の権化という言葉以外にどう表現すればいいのか分からないものだった。

もちろん、そんな経験は今までにない。

あの娘以外にも、そんなことをしたことはない。

それでも見てしまった。

服を着たまま寝る体制で、白いシーツが目を引くベッドの上にいながら

お互い目を瞑っているのに、磁石で惹かれ合うように唇へ吸い込まれていく。

くっついては離れ、くっついては離れを三・四往復した辺りで

お互いに開いた目から視線が巡りあい、心中を悟られないように

はにかみ笑いをこぼす。

その行為から、二人の考えや気持ちがダラダラと漏れ出していたのは

分かっていたが、敢えて口にだすのは野暮だと飲み込んだ。

そんな所で不意に上体が飛び上がり、意識に輪郭と温度を与える。

夢という神さまのイタズラは、青年期の少年へ呪詛を紡ぎ、

そして、それは波紋として穏やかな水面に嵐を巻き起こした。

その日の朝から、あの娘の顔をまっすぐ見られなくなった。

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