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The Time Lag 0:02

あの娘は、刺激になっていた。

きっかけは学期末テストだった。

3ヶ月の学びの集大成を飾るこの場所で、今まで数年間負けなしだった事を

誇りに思っていた。

向かうところ敵なし、そんな誇りは鼻を伸ばすには十分だった。

クラスという狭いムラで先頭を走り続ける事は、屁とも思わなかった。

努力が成果になるから、簡単な理屈だ。

もっと言えば努力している間も楽しい。

出来ないことが出来るようになり、

少しずつ出来ることが増えるという快感に勝るものはなかったからだ。

レベルを上げ武装をし、ボスを倒す。それだけなのに

他では味わったことのない爽快感が心を満たしていく。

常に満たされていた心の盃はある日、穴を開けられ、粉々にされた。

漢字書き取り、25m水泳、絵画、小テスト、プレゼンテーション、

給食での余り物を賭けたじゃんけん、体育での競走、腕相撲……

僕のしてきたものに与えられた数字は、常に2だった。

座り慣れない場所。見慣れない景色。指定席かつ特等席に座る他人。

当然気分は悪い。

「最上位以外に自分が座るなんてありえない」という煮え滾る闘争心を

持っていた僕は、以降其れをおもむろにぶつけて行った。

売られた喧嘩は買う、相手もそんなタイプだったせいか、

「かかってこいよ」と言わんばかりの態度を見せる。

そして僕をいなしチャンピオンフラッグを振り回す。

そんなあの娘の姿を尻目に僕は歯を食いしばり、地団駄を踏んだ。

白熱した内容と売った喧嘩が買われるまでの一連の流れ、

知らないうちに僕とあの娘の聖戦は、学校内の名物企画と化した。

些細な事で出来上がる対立構造。

僕の後ろにいる見物客からは、まるで仲間が増えたような錯覚を齎した。

「争いを見世物にするなやめろ!」「女の子相手にムキになるなんて有り得ない!」

なんていう一部外野の声は歯牙にも掛けず、あの娘に挑み続けた。

結果的に1年間、苦杯をなめ続けさせられたが、不思議と涙は出なかった。

そして心が折れることも、不正をしてでも勝とうとも考えなかった。

今まで正面突破をしてきた以上、その方法以外を知らなかったから。

この道を抜ければ、絶景が広がっていると信じて止まなかったから。

新たなる武器と宝を求めて、常に挑戦者として頭と体を使った。

そうして挑み続けた1年間の集大成が、

あの娘から受け続けた刺激の末路が、

「ベッドの上でお互いが求め合うキス」。

神さまのイタズラにしては、意地が悪すぎる。

何をどうすればこんな夢の構造になるのか。

闘争心の種が、萌芽してこんなにも純粋な二葉を見せるのか。

こうして誰も説明できないまま、様相を変えてしまった自身の感情と

折り合いをつけなければならなくなった。




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