The Time Lag 0:05
地図に載っていない新境地は、ちっぽけな存在を迷わせた。
自己防衛のため他人から向けられた善意を無下にしたという結果は
益々、今後あの娘とどのようにして向き合えばいいのかという
問題の答えを黒く塗りつぶした。
元来空欄だった場所に色が入っただけで大差ないという考えを壁に投げては、
それは考えとして全く本質的ではないという論理と、
仮にも他人に誂えてもらったものに対する態度として
あまりに杜撰だったという事実の二つが跳ね返ってきた。
当然周りからは様々な憶測を飛び交わした。
「なんであいつ泣いたんだろうね。」
「そんなにあの娘より点数低かった事実がショッキングだったのかな。」
「実力差には薄々気づいてたみたいだからそれは無いんじゃない。」
「じゃあ純粋に答えられなかったことかな。」
「それはありそうだけど、僕は間違えない!っていう前提がちょっとね。」
「確かになぁ。」
「あの娘にかけられた言葉って言う線は?」
「励まして泣き出されたら、寧ろ泣きたいのはこっちの方ってなるでしょ。」
「もしかしてそもそも同情されたっていうのが引っかかったのか。」
「だとしたら思い上がりがすぎるだろ。自分がでかすぎる。」
「まぁ間違いを認められない気質だとそういうのも考えられるかもね。」
「つまり間違えた事と声をかけられたのがお得なセットになったって事か。」
「そりゃ得すぎて涙も出るわな。」
そんな事を言われている気がしたが、
正鵠を射た言葉は、口封じのごとく心を貫いた。
なかった事にできるなら、いっそこの身ごと消してしまいたいとすら思った。
しかし事実として味噌がついてしまった以上、自分からそうは出来ない。
そんな蟠りが思考回路を駆け巡った。
五里霧中に陥る中、結局「いつも通り接する」という結論を齎したのは
またあの娘からだった。
自分の考えに土足で踏み込まれることを恐れた結果、
敢えてごきげんな振る舞いをして、やり過ごす事に決めてすぐ、
あの娘から声がかかった。
「おはよ。元気そうだね?」
「まぁね。」
「そう。うち練習あるからまた教室で。」
「おう。いってら。」
彼女はその事について一切触れなかった。
そしていつも通り何食わぬ顔で会話を投げかけた。
何も触れられなかったから謝らなくていい。
そんな風に一瞬でも思った自分を呪った。
そして「自分より遙か先を行くあの娘への気持ち」が強まった事も
同時に悟った。
ただ、それは同時にどうしても「あの娘と比較した時の自分の不甲斐なさ」を
強く眼前に突き付ける瞬間でもあった。
こうして「この気持は何なのか。」なんていう
あまりにも抽象的な問題の解答は、隘路の奥深くへと追いやられていった。
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