Triumphal Return Of The Hero
夢に見た舞台。
その舞台で興奮と希望をもたらし、威信と誇りをかけて戦う集団がいた。
その中で異彩を放つ彼をテレビで目にしてから、ヒーローと崇拝した。
その日から彼が生まれ育った街で、彼と同じように聖地を目指した。
光輝くその勇姿を見る度に、飽きることなく何度も自分自身に投影した。
癖・服装・習慣・考え方に至るまで彼の真似をし、あの人みたいになるんだ、あの人の次は自分だと言って止まなかった。
ヒーローは、自分以外にその席を与える訳がない。強く信じ続けた。
現実はそう甘くなかった。自分以外の存在がこの世界にある以上、
邪魔や試練があるということは至極当然だ。
怪我をしてもすぐに治るように、
成功を邪魔する奴を正面突破するように、
手に入りかけたものが眼前で散っていく刹那に悲哀を滲ませないように、
我慢や忍耐を重ねに重ね、
息絶え絶えになりながら乗り越えてきたこともあった。
それでも幕引きは、自分自身だった。
なりたいものがヒーローではなく彼だという事実を鏡に突きつけられた時、
そうなった先に灯りがなかったからだ。
彼にはなれない。
同じようになったとして、どうしたいかは考えていない。
いや考えられない。
完成図とパーツの間で不意に浮かび上がったループシュートは、
あまりにあっさりと最終ラインを超えてネットに吸い込まれた。
そうして時間とお金をかけたヒーローごっこのフィールドに、
ホイッスルが鳴り響いた。
美しい得点とヒーローになることに全てを捧げた日々から幾許か時が過ぎた。
そんなある日だった。
ヒーローが凱旋移籍を表明した。彼が生まれ育った街への恩返しらしい。
彼が育った街は、自分の生まれ育った街でもある。
歓喜に震えた。今まで決めたどんなゴールよりも嬉しかった。
故郷に錦を飾るというにはまだ早い、そう信じて止まないこの心は、
かつてヒーロー養成プログラム実践の最中にいた時宛らに躍っている。
彼になるんじゃない。彼を支える立場になる。
それが自分の、一番のミッション。