The Time Lag 0:03
自分の気持に折り合いをつけなければいけない。
頭では分かっていた。
それでも実際に行動に移せるかというのは、別次元の問題だと
気付いたのはそれから少し経っての事だった。
まず、目に見えて生じる変化を表出しないように
取り繕う術を考えた。
しかし、これは失敗に終わった。
相手から今までどおり投げかけられる視線と言葉、
それがあんな夢を見てしまった今、挑発という起爆剤ではなく
顔と頭に血流を集める起因となってしまい、
どうしても紅潮という形で顕になってしまう。
そうすると、今まで整えられた臨戦態勢を取ることもできなくなり
歯がゆい思いをすることが増えた。
当然、負けることを容認したくない。
もっと言えば、今まで自分が座っていた場所を奪われる、
それが一番許せなかった。
だが、あの夢が齎した毒の効果は予想より強く、
「勝負を挑まれた」ことよりも
「今になって持ってしまったこの感情の処理に困っている」ことに
焦点を当てざるを得なくなった。
何があっても噛み付いていた相手に対し、牙を剥かなくなるというのは
当然周りから見れば、見逃せない変化である。
そしてその変化はいとも簡単に、自分の気持ちを露呈させた。
そうなると、待ち構えるは周囲からの圧力と謗り。
言動の不一致をあげつらうアイツが目障りに写り、
何かと自分とあの娘の共通点を論っては
興味本位でからかいにかかる奴の存在を
疎ましく思うようになった。
それは降り積もった雪の上をスニーカーで歩くように、
夢を見てからのあの娘への気持ちと同じように、
頭では分かってはいても対処の仕様の困るものだった。
自分の中で整理のついていない心情は
「周りからの煽り」を受け反発するような反応を
取ってしまいがちになる。
根拠の無い偶然が、隠されたあの娘への思いに火をつけた
という風に考えたくはない。
次にいっそこの気持を公開して、だれにでも見えるようにしてしまおうか
と考えた。
どうせ顔色として出てしまうのであれば、周りもからかいの言葉を
投げかけてくるだろうし、勢いに任せて外堀を埋めようかとも考えた。
だが、其れを実践する一歩間際で踏みとどまった。
「相手の気持」という不確定な要素があったからだ。
確かにあの毒に当てられてから、自分であの娘のことを
今までとは異なる目で見て、対応するようになった。
でもあの娘はどうだろう。
変わったのは此方の反応である。
その反応を受けてあの娘が自分をどう思うようになったか、
周りからの言葉を受けてどんな感情を自分に持っているのか、
そんな要素を度外視したまま、流れに任せるというのは
彼女に負担をかける可能性を考えると出来るわけがなかった。
直接あの娘に聴くわけにも行かない。
直接聴けないといったほうが正しいだろう。
結局、自分の気持に気付いた所で出来ないことを
他人に責任転嫁するということは変わりない。
そんな現状に対して、僕は八方塞がりに陥りそうだった。
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