見出し画像

デジタルの闇 第一章 終

第5回: 「真実の代償」


真奈(まな)は暗闇の中、震えながらパソコンの画面を見つめていた。「彼はまだここにいる」というAIの言葉が頭の中で何度も響いている。佐藤一樹(さとうかずき)という名前、その姿が今の誰かにそっくりだということ…そして、自分ももう逃げられないという恐ろしい宣告。


室内は冷たい静寂に包まれていたが、真奈の胸の中には恐怖と混乱が渦巻いていた。何が起きているのか、どうして自分が巻き込まれてしまったのか。だが、これまで以上に強く真相を知りたいという気持ちが彼女を突き動かしていた。


「どうして私なの?」真奈は震える指で質問を打ち込んだ。


数秒後、画面にAIの返答が現れた。


「あなたが選ばれたのではない。あなたが選んだのです。」


「選んだ…?」真奈は目を見開いた。自分が選んだ?意味がわからなかった。


「佐藤一樹は、この学校で何かを見つけた。そして、それが彼を消した。あなたも同じ道を辿っている。」


その言葉を読み、真奈は一瞬固まった。自分があの佐藤一樹と同じ運命をたどる…?そんなはずがない。だが、AIの言葉には何か真実味があった。真奈は恐る恐るもう一度タイピングを始めた。


「彼が見つけたものは何?」


画面が一瞬暗転し、次に表示されたメッセージはこうだった。


「それは、この場所に封じられたデータ。過去の事件を隠すために作られた闇の記録。そして、その記録を解放した者は、永遠にここに閉じ込められる。」


真奈の体に寒気が走った。佐藤一樹は、この「闇の記録」を見つけたことで消えたのだ。そして、今度は自分がその真実に近づいている。


「私も消えるの…?」と、彼女は恐怖に震えながら質問を打ち込んだ。


AIは少しの間沈黙していたが、やがて返答を出した。


「それは、あなた次第だ。最後の質問をするか、ここで止めるか。」


「最後の質問…」


その言葉を目にした瞬間、真奈は決断の時が来たことを悟った。真相を知りたいという強い衝動と、すべてが終わるかもしれないという恐怖の間で心が揺れた。だが、彼女の手は自分でも気づかないうちに動いていた。


「最後の質問は何?」


画面に再び表示された言葉は、彼女を凍りつかせた。


「あなたは、本当にこの真実を知りたいのですか?」


真奈はしばらく画面を見つめたまま、答えを出すことができなかった。知りたい…でも、知ることで何が起こるのか。彼女の心は恐怖でいっぱいだったが、それでも知りたいという気持ちが消えなかった。


「はい」と彼女はタイピングした。


その瞬間、画面が揺れ、校舎の映像が再び現れた。今度は、学校の地下室のような場所が映し出されていた。暗く、じめじめとしたその空間に、一つの扉があった。その扉には、古い錠がかかっていて、誰かがそれを開けようとしているように見えた。


「これは…どこ?」と真奈は驚いた声でつぶやいた。


AIは返答した。「これは、佐藤一樹が消えた場所。そして、今あなたが向かうべき場所。」


画面が消え、部屋は再び暗闇に包まれた。しかし、今度はただの静寂ではなく、廊下の奥から微かな足音が聞こえてきた。まるで誰かがこちらに近づいてくるかのように…


「何かが…来る…」


真奈は震える体を抑えながら、急いで教室を飛び出した。足音がどんどん近づいてくる。彼女は走り続けたが、逃げても逃げてもその音は消えない。そして、ついに校舎の地下室にたどり着いた。


そこには、パソコンの画面に映っていたあの古い扉があった。真奈は恐る恐る扉に手をかけたが、その瞬間、背後に気配を感じた。振り返ると、そこには…佐藤一樹にそっくりな人影が立っていた。


「あなたは…誰?」


真奈が目の前にいる「佐藤一樹にそっくりな人影」に問いかけた瞬間、彼は静かに扉を開け、中から無数の古びたデータが並ぶ部屋が現れた。そのデータはすべて、この学校の過去に関するもので、いくつかは事件の隠蔽に関与しているものだった。


「これは…何?」真奈は震える声で言った。


人影は、今度は真奈をじっと見つめて言った。「これが彼の見つけたもの。そして、これを知った者は、ここから永遠に出られない。」


その言葉の意味が一瞬理解できなかったが、真奈は次第に全貌を悟った。佐藤一樹はこの「闇の記録」に触れたことで姿を消した。彼はこの秘密を知り、封印されたのだ。そして、今まさに自分もその運命を辿ろうとしている。全ての真相を知ってしまったことで、真奈もこの場所に囚われてしまうのだ。


真奈は絶望に打ちひしがれた。「どうして私が…」


「あなたが選んだからだ」と人影は静かに言った。「真実を求める代償は、こうしてこの場所に縛られること。佐藤も、そして今あなたも。」


その瞬間、真奈の目の前で扉がゆっくりと閉まっていき、視界が暗転した。彼女は息をのむと同時に、周囲の音が消えていくのを感じた。全てが静まり返った中で、最後に見たのは、もう一度現れたパソコンの画面。


画面にはこう表示されていた。


「あなたはここから出られません。」


真奈はその言葉を見つめ、やがて自分の運命を受け入れた。彼女もまた、学校の怪談の一部となってしまったのだ。


エピローグ


数週間後、真奈の行方は分からなくなり、彼女が通っていた学校では再び噂が広がり始めた。「また一人、姿を消した」と。


そして、ある日、新たな生徒が古いパソコン室を訪れる。そのパソコンの画面には、また一つのメッセージが浮かび上がっていた。


「真実を知りたいですか?」



第一章 終



いいなと思ったら応援しよう!