催眠術は経験値

大学生の時、催眠術の授業を受けていました。

授業の中では、教授が受講生に対して催眠術をかけるデモンストレーションが行われました。

今回は、そのデモンストレーションでの出来事のお話です。

デモンストレーションの回の授業では、催眠術がどのようなものなのかを、教授が大勢の受講者に向かって催眠術をかける内容でした。

私は友人と受講しており、「催眠術か~。かかってみたら面白そうだよね~。」という気持ちで、教授の催眠術の話を聞いていました。

教授は受講生たちにリラックスするように言い、続いて目をつぶるよう言いました。

「手のひらを上にして、両手を前に伸ばしてください。その手のひらに今から物を置いていきます」

言われるままに、私たちは目をつぶり、両手を前に出します。

教授は物を手のひらに置いていきました。実際に置くのではなく、言葉で置いていきました。

「今、みなさんの手のひらにぺらぺらのティッシュを一枚置きました。薄いですね。軽いですね。みなさんの手のひらには重みを感じません。」

置いたものを具体的に形容することで、頭の中に置かれた物のイメージが浮かびます。

「次に、ボールペンをみなさんの手のひらに置きました。細いですね。軽いですね。でもティッシュよりは重いですね。」

「続いて、みなさんの手のひらにりんごをひとつ置きました。まるくて赤いりんごです。ずっしりとしたりんごの重さを感じますね。」

このように、徐々に身近にある重い物を教授は手のひらに置いていきました。

頭の中で、置かれた物をイメージすると、そのイメージの重さに手のひらが反応して、手のひらの位置が下がる、というのが今回の催眠術です。

そして、一番重い物を置かれました。

それは、なんでしょうか。

「それでは最後に、みなさんの手のひらに広辞苑を置きます。大きいですね。片手では持ちにくいですね。両手で持ってくださいね。両手で持ってみても重いですね。」

教授がこう言ったとき、後ろの席の女子学生が、

「広辞苑ってなに?」

と言いました。

今まで、手のひらに置かれてきたものは、ティッシュやボールペン、りんごなど、誰もが一度は手にしたことがあり、重量感を知っているものばかりでした。

しかし、最後に手のひらに置かれたものは広辞苑でした。

幸い、私は幼少期に家にあった広辞苑を持ったことあるので、その重量感を知っていました。

けれども、後ろの席の女学生は、今まで一度も広辞苑に触れたことがなかったどころか、広辞苑を知りませんでした。


情報は必要or不要で判断するのか?

今回は、広辞苑を知らないワカモノを嘆く記事ではないので、なぜ彼女が人生の中で広辞苑を触れるどころか知らなかったのかは省きます。

今回の主題は、知らないことを受け入れないことです。

教授は丁寧に、「大きい」「片手では持ちにくい」「両手で持って」「両手で持ってみても重い」と、広辞苑の重さや大きさを表現しています。

広辞苑がどのようなものなのか、書籍なのか食べ物なのか工具なのか、わからなくても、教授の言葉から「大きくて、両手で持っても重い」という情報は伝わるはずです。

しかし女学生は、その情報を受け取らず、冒頭の「広辞苑」という部分で情報の受け入れをストップしてしまいました。

つまり、「コージエン」を知らないし、知らないことは私にとっては不要な情報なので、その後に続く「コージエン」の情報はいらない、という判断があったのではないかと推測します。

知らないままでいいのか?

今まで教室の中の話でしたが、話を教室の外に出してみます。
今の社会はとても情報があふれています。むしろ情報が多すぎる世の中です。

そのような世の中で生きている私たちには、「知っていること」と「知らないこと」と、どちらが多いかと聞かれれば、きっと知らないことが多いと思うでしょう。すくなくとも私は、「知らないこと」が多いと思う人間です。

みなさんは、「知らないこと」と出会った場合、どうしますか?

私は、「知らないこと」と出会ったときこそ、その「知らないこと」を深く知るチャンスだと思っています。

日ごろから、他人の話を聞いて、自分とは異なる価値観や感覚を持っている人と出会えば、もっと話を聞きたいと思います。
話を聞いて、私にはそのような価値観を持っていないけど、この世の中にはそのような価値観を持っている人がいるのか、ならばそのような価値観を持っている人はどのように物事を見ているのだろうか、と気になってしまい、物事を多角的に見るきっかけを作ってくれます。

知らないことを知らないままにするのが人生でもったいない行為だと思っています。一概に自分の持っている価値観や感覚だけで「知らない」と拒絶することだけはしないように、心がけています。

不毛な言い争いを防ぐにも、相手の話を聞くことは大切だと思います。

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