大切な人の目が見えなくなったら
駅で寄り添って歩く夫婦を見かけた。
白杖をついていたのは男性で、奥さんは彼の左からそっと腕を持っていた。
ふと、自分の大切な人の目が見えなくなったら私はどうするかなと思った。
最初はね、戸惑ってしまうと思うの。
切なくなってしまうと思う。
切なくならないわけがない。
見つめ合えないのが辛くなると思う、
美味しいものを食べて「美味しい」と言って、幸せな顔をしている私を見ていて欲しいと思ってしまうんだろうな。
でも少しずつその切なさも癒えていくのかもしれないなとも思った。
もちろん私はそういった経験をしたことがないから想像でしかないけれど。
そうして私の言葉で、私の見えている景色を伝えるようになるんだろうな。
「この花は空みたいに青くて、花の中心に近づくほどその色は濃くなっているから、真ん中から青い絵の具が広がっているみたいなんだよ。」
「今日は人が多くてみんな忙しそうに駅を交差しているよ。オレンジの看板のあるホームに向かってみんなが早歩きしているよ。」
そうしてそんなことを話しているうちに、私はこの人と一緒にいて良かったとふいに思ったりするんだろう。
見つめたものから考えること、溢れ出す感情を言葉にさせてくれてありがとうって。
遠いものだけじゃないよ、隣にいるその人への大好きな気持ちもたくさん言葉にするんだろうな。
全身で存在を確かめあうように寄り添いあって、そのひとの香りや温もりを感じながら声を交わす。
「幸せですか」と聞かれたら私は「はい」と答える気がした。
※この話は私の主観での想像の話です。