2匹の狐
雪山に2匹の狐が居た。白い山の麓の偶然できた身をおけるところにその2匹の狐は居た。
大して会話をすることもなかった。
ただ1匹の狐は体を温めたかった。
そこには他に何も無かった。
食べ物も飲み物もなにも。
銀世界にただ2匹の狐がいた。
でも1匹の狐はどこかずっと自分だけが世界にいるような気がしていた。
もう1匹の狐に実態はないような気がしていた。
どうにも本質が見えない、幻のように見えていた。
夢を見ているようだった。
2匹の狐は共に夜を越した。
躰をつけていたから温もりはあった。
あったはずなのに狐は朝目覚めた時とても寒かった気がした。
いっそ1人で丸まって寝た方がよかったのではないかと思うほどだった。
狐は後悔したのだった。
雪山の中で出会ったもう1匹の狐と明日から違う道を歩いていくのなら、最初からこんな夜がこなければ良かったと思ったからだった。
ぬくい。生物は2匹以上が集まればぬくい。
しかしその温かさはあまりにも脆い。
空気のように周りにまとってずっといてくれるものでもない。
むしろ温かさを思い出せば内側から湧き出てくる寂寞の念にやられる。
狐は昨日見たオーロラを思い出した。
美しかった。心踊い、頭には音楽が流れた。しかしそれも思い出したくない思い出となった。
狐は冷え込むある日の湖の面を歩き始めた。
そして案の定湖面にはヒビが入り、狐は湖の中へ落っこちた。
この時狐は、これでやっと、と狐は思えた。
狐の身体は深く深く湖のそこへ落っこちていった。
生存本能を邪魔する何かがその体を湖底へと引きずり下ろしてくれたからだ。
息をしないのも本当なら刺すほど冷たいその水も苦しみを与えなかった。
たった一瞬の出来事だ。
昨日と今日という長い2日に比べれば。
とても長い長い2日間で、狐はこれ以上生きるなどできないと思ったのだった。
おわり