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なぜ「ネタの出し惜しみ」をしない方が作品の完成度が上がっていくのか?

物語のネタを考えていて「うん、これはなかなかいいぞ!」というネタが浮かんだ時、今つくっている作品に組み込める場合は「惜しみなくそのネタを組み込む」のと「大事な時のために温存しておく」のとどちらがいいのだろうか。

当然、多くの人は「いいネタであればここぞという時に使うために温存した方がいい」と思うかもしれない。
しかし、じつは可能なら「そのネタを惜しみなく使う」方が、作品づくりに対してはメリットが大きく、生み出せる作品の完成度がどんどん高まっていくのだ。

なぜ、ネタの出し惜しみをすると作品の完成度が下がり、出し惜しみをしないと完成度があがるのか、今回は「ネタの出し惜しみをしない利点」について考えてみたい。

ネタを出し惜しみしてしまう「デメリット」とは?

せっかくのいいアイディアが浮かんだら、できるだけ温存したいと思うのが人情である。
もしかしたら、「このネタは、デビューした後に使うように大事に取っておこう」なんて思っている方もおられるかもしれない。

しかし、ネタの出し惜しみや温存には、意外な落とし穴、デメリットがある。
そのいちばん大きなデメリットは、「そのネタよりもレベルの高いネタが思い浮かばなくなる」ことである。

どういうことかというと、ネタを出し惜しみする、大切に取っておく、温存するということは、「自分にとって最高レベルのネタはそのネタである」ということを自分で決めていることに他ならない。
つまり、これは「ネタの限界値、マックスレベル」を自分で設定してしまっていることなのである。

温存しておく場合は、そのネタが当然自分にとっての最高レベルであるとの自己評価や自信があるので、「いざというときには、あのネタを使えばいいや」と、まるで保険があるような気持ちになり、無理して「それ以上のレベルのネタ、アイディア」を考えなくなってしまうのである。

そして、そのまま長期間温存し続けると、だんだん「切羽詰まって何が何でももっといいネタを考えなきゃ!」とは思わなくなるのである。

もちろん、出し惜しみしない、温存しないというのは「浮かんだネタを無理に即、現行の作品にぶち込む」ということではない。
作品に合わない、適さない場合もあるし、ネタの種類によってはまったく別の物語を新しく立ち上げた方がいい場合もある。

ポイントは「“長く温存しない」&「出し惜しみ”しない」ということである。
「次作のネタとして準備しておく」ことと「出し惜しみする」ことは、まったく別なのだ。
出し惜しみとは、そのネタが自分にとっての生涯で最高のネタであると思い込むことであり、「使えるの場面があるのに使わない」ことに他ならない。

しかし自分にとって最高のネタは、あくまで「現時点での最高」のネタであり、未来永劫最高というわけではない。
そうでなければ、そのネタを超えるレベルのネタを思い浮かべることを自分で否定することになってしまうのだ。

なぜ「ネタを出し惜しみしない方が、いいネタ、いい作品が生まれる」のか?

さて、ここまで読んだ方なら、上記の小見出しの問いかけの答えが見えてくると思う。
つまり、物語をつくり続けていくには、どんどん最高のネタを超えるさらなる最高のネタを毎回つくろうとしなければならない。
そして、手持ちの最高のネタを超えるネタを得るには、その「温存しているネタ」を惜しげもなく使ってしまうことが何よりも大切なのである。
最高のネタを使ってしまえば、「必然的に、必要に迫られて、それ以上のレベルのネタを考えなければならなくなる」
のである。その切羽詰まった状況に置かれることが、さらに高いレベルのネタをひねり出すための原動力になるのだ。

一度使ってしまえば、その「最高のネタ」は過去のもの、「今の時点での最高」になる。
それならば、つくり手は「これからつくる作品では、それ以上のネタを考えなければならない」と思うはずです。

じつは、これが「より高いレベルのネタ、アイディアを生み出すためのコツ」なのである。

たとえば、自分にとって「レベル99」の水準のネタが浮かんだとして、そのネタを使うと「レベル99の作品」をつくることができるが、もっと高いレベル、たとえばレベル100とか120といった水準の作品をつくるには、レベル100、120のネタをつくらなければならない。
そのためには、レベル99のネタを一度使って、そのネタが現時点の自分の力量の水準として捉え、今後つくる次作ではもっと上のレベルのネタを考えようとしなければ、100や120レベルのネタを得ることはできないのである。

いいネタを消費したら、もうそのレベルのネタが浮かばないのではないかという不安は無視していい!

もしかしたら、不用意に切り札を放出したら、もうそれ以上のネタは思い浮かばないんじゃないかと不安を感じることも多いかもしれない。
これは、誰もが感じることである。
しかし筆者の経験上、それ以上のレベルのネタを考えようとすれば、案外思いつくものである(いや、結構浮かびます、その切り札が霞むようなさらにいいネタが)

大事なのは、もういいネタを使っちゃったから「新しい良いネタを考えようとすること」である。

人間は、必要に迫られ、また何らかの制限を受けた状態でこそ、知恵が働く。

だから安心して、「この作品で使える」と思ったら大事なネタもどんどん使ってみよう。

ネタは後で「改良、再利用」できる! 「パイロットフィルム(試作版)」をつくるつもりでいいネタを投入しよう! 

ネタやアイディアは、一回こっきりで使えなくなってしまうものではなく、再利用することができる。
プロでも、個々のエピソードなどでは「前の作品のネタの再利用や改良版」を活用している場合が多くあるのだ(注意してみると、使い回しはどの作家にでもあります。しかし、プロはそれを使いまわしていると思われないように再利用するのが上手いです)。

マンガの世界などでは、一度読み切りとしてつくられて人気を博した作品を、今度は連載の形に直して、再び同じその題材で作品をつくっていく。
マンガの読み切り作品は、ある意味「パイロットフィルム(試作版)」でのプレゼンテーションであり、そこで人気が出ればそれをさらにブラッシュアップして連載マンガとして「本編」をつくるゴーサインが出るのだ。

もちろん、何回も似たようなことをしていれば当然飽きられてしまうが、流行が何回もサイクルしながら洗練されていくファッションなどと同じで、まだそのネタを知らない年代の読者が入ってくると、過去のネタを新しいと感じてくれてウケる場合も少なくないのである。

一度過去に使ったネタも、今の時代に合わせた形に仕立て直せる!

いいネタは、その時代に合わせた形に仕立て直して再び使えばいいのである。

何年か前に爆発的にヒットした対戦格闘ゲームに『バーチャファイター』がある。初めて「ポリゴン」を使って描画された3D格闘ゲームで、そのまったく新しい見た目と表現に多くの人が魅了され(余談ですが、筆者はジャッキー使いでした)、同作は当時最新のコンピューターグラフィックス技術(軍用レベルとも言われる)が使われた、ゲームの歴史を大きく変えてしまった、ある意味「未来のゲーム」であった。

しかし、そのゲームの内容はなんと日本に古くからある「じゃんけん(『三すくみ』の読み合い)」とまったく同じものだったのである。
(くわしい説明は割愛しますが、興味のある方は調べてみてください)

つまり、「じゃんけん」でも、仕立て直せば最新のゲームになるといえるのである。

だから、過去に自分で使ったネタでも、後でもう一回「時代に合わせた形に仕立て直して」使うことが可能なのだ。

「流れる水は腐らず」という言葉がある。
水は流れていれば清らかなままだが、流れを止めればしだいに腐っていく。
同様に、かなり昔に浮かんだ「最高のネタ」を大事に温存しすぎると、やがてそのネタの鮮度も古くなり、また自分の発想的にもそれ以上のアイディアを考える必要性も失われてしまうのだ。

ネタはどこで使うかも大事だが、ネタの「鮮度」も同じぐらい大切である。
ネタは何回でも繰り返し使えるということを胸に、長い間温存したり出し惜しみせずに、恐れず思い切って今の最高のネタを使ってみよう。
そしてその後で、さらにそのネタを超えるようなネタを出そうと頭を捻ってみよう。
そうすれば必ず、あなたはもっといいネタを得ることができるだろう!

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浮かんだ物語のネタをさらに面白くする方法についてお知りになりたい方は、以下のテキストにてくわしく解説されています。
ご興味のある方は、ぜひ合わせてご一読ください。


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