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“パクリ”を使って物語を発想する方法とは

創作活動をしていると必ず関わってくる問題に「パクリ」の問題がある。
「パクリ」という言葉は、人によって定義がさまざまであり、一概にコレ! と論じることは難しいが、大多数の人が抱くイメージは「猿まね」といった意味合いのものになるのではないだろうか。
もしかしたら、「パクリって盗作のことでしょ」と思う人もおられるかもしれない。
パクリって、何なの? やっていいの? ダメなの? パクリを活用した物語の発想の方法があるってホント? 
ということで、今回はこのパクリについて考えたい。

「パクリ」と「盗作」は違う!

パクリというと一部の人にとっては「盗作」というイメージがつきまとう。これは無理もない。そのように語られることがとても多いからだ。確かにパクリと盗作は一見よく似ている。
しかし、厳密には「パクリ」と「盗作」は、まったく別のものであるといえるのだ。

盗作とは人の作品を「そっくりそのまま」使うこと

では「盗作」とは、どのようなものをいうのだろうか。
「盗作」とは、「人の作品の全部または一部をそのまま自分のものとして使うこと」と定義されている。
ここでのポイントは“そのまま”という部分である。
つまり、他の人がつくったものの全部、または一部を「そっくりそのまま」使い、それを自分がつくった作品として発表、公開すること、これが「盗作」である。分かりやすい例だと、たとえば誰かが書いた小説の文章をそっくりそのまま自分の書いた小説に書くと、これは「盗作」といわれるだろう。

もちろん、「引用」として他の人の文章を引いてくることは法律でも認められているが、その場合、引用するのは「必要な部分(一部)だけ」であり、しかも引用だと分かる形で記載し、その出典も明記する必要がある。

パクリとは「真似をしつつも、自分独自のアレンジや要素をプラスして別の作品に仕上げる」こと

さて、この盗作に対して「パクリ」とは何なのだろうか。
筆者はパクリとは、「他の人のつくった作品を大いに参考にしたり、真似したりして自分の作品づくりに活かすも、“そのまま使う”のではなく、『必ず自分なりの独自の要素を加味して』別の作品に仕上げること」であると考えている。つまり単純なコピーとは違うものが「パクリ」なのだ。

だから筆者は「コピー、盗作」は否定しても、「パクリ」は否定しない。
なぜなら、誰しも最初は感動し、憧れた作品の真似から創作活動が始まるからなのだ。すなわち「真似、パクリ」を否定したら、そもそも創作活動はできないのである。

ネットでは、ある作品と別の作品の似ている点を挙げ連ね、まるで鬼の首を取ったかのように指摘して悦に入る行為がよく見受けられる。しかし、その「パクり元、オリジナルとされた作品」も、それよりも過去の作品から多くの影響を受けている「パクリ作品」であることがほとんどなのだ。しかも、その過去の作品さえも、他の作品から影響を受けた「パクリ作品」である場合が多い。それを知らずに、直近の作品だけでパクったパクられたと論じるのは、不勉強も甚だしいことなのである。

前述の通り、プロはこの「パクリ」をよく行っている。
これは言葉を変えれば、別の作品を「下敷き」にしてつくっているということである。程度の差こそあれ、プロの作品にはほとんど何らかの「元ネタ」があるのだ。
しかし、プロは元ネタの作品をそのまま使うのではなく、必ず自分なりのアレンジを加えたり、独自の要素をプラスして、まったく別の作品に仕上げている。

たとえば、過去に別のところで例に挙げましたが、アニメ『エヴァンゲリオン』は特撮作品『ウルトラマン』を下敷きにつくられている。原作者で監督の庵野秀明氏は『ウルトラマン』の大ファンであり、アニメの企画を立てる時に、ウルトラマンのような作品を自分なりに制作したいと思い『エヴァンゲリオン』をつくり上げた。しかし、同作は『ウルトラマン』の単なるコピー作品ではなく、『ウルトラマン』にはない「さまざまなアレンジや独自の要素、展開、設定」が散りばめられているのは、みなさんがご存知のとおりである。

また別の例では、日本の刑事ドラマ『警部補古畑任三郎』は、アメリカの刑事ドラマ『刑事コロンボ』を元ネタにしてつくられた。両作はともに「倒叙形式のミステリ」であり、たくさんの共通点を持っている。しかし、『刑事コロンボ』の主人公コロンボはヨレヨレのコートを着た冴えない中年刑事であるのに対して、『警部補古畑任三郎』の主人公古畑任三郎はスタイリッシュなスーツを身にまとい、長身痩躯でイケメンという、コロンボとは正反対の人物像を持つキャラクターとしてアレンジが加えられている。舞台も、もちろん日本に置き換えられ、日本ならではなの事件が発生する。

『エヴァンゲリオン』を観て『ウルトラマン』のパクリだという人は少ないし、『古畑任三郎』を観て『コロンボ』をパクってんじゃねえと文句をいう人もやはりほとんどいないだろう。
その理由は、そっくりそのまま真似るのではなく、元ネタ作品にはない「アレンジや独自の要素」が加えられているからなのだ。

創作とは「先人から受け継いだものを、次の世代に渡していくこと」

宮崎駿氏は、創作ということに関して、次のような内容の言葉を述べている。

「我々のやることは、先人から受け継いだものを未来に伝えていくことだ」

過去の作品の素晴らしい点を吸収し、自分なりに咀嚼して取り込み、さらに自分のオリジナリティを加えて自分なりにそれを表現し、それを見た次世代のクリエイターたちがさらにそれを取り込み、自分たちの作品に昇華させる……、媒体を問わず、創作とはそうして発展していくものなのである。

“パクリ”を使った物語発想方法

では、プロが活用する「パクリ」、つまり他の作品を元ネタ、下敷きにして自分独自の表現、要素を加えて新しい作品をつくる際のコツ、「パクリ」を活用した物語の発想方法を考えていこう。

元ネタとなる他の作品を下敷きにして自分の作品を発想する場合は、その元ネタの作品の以下の3つの要素に注目しよう。

・キャラクターや、キャラクターの相関関係
・ストーリー展開
・設定、世界観

私たちが「パクリ」を行うときには、この「キャラクター」「ストーリー」「設定」のいずれかの要素をパクることになる。

そしてここで大事なことは、「3つすべての要素をパクってはならない」ということだ。

「キャラクター」「ストーリー」「設定」の3つ全部をパクると、これは限りなく「盗作」に近くなる。読者に対しても、あまりにも似すぎている、盗作なのでは、という印象を与えかねない。新人賞に応募する際も、既存の作品を似すぎているものは独自性がないと判断され、入賞は難しくなるだろう。

だから、「パクる」すなわち「他の作品を下敷きにして自分の作品をつくる」際は、

「3つのうちのどれか1つの要素だけを下敷きにし、残りの2つの要素は自分独自に考えたものにする」

ことがコツである。

たとえば、「キャラクター」をパクるなら「世界観、設定」と「ストーリー」は元ネタの作品とまったく異なるものにする「ストーリー展開」をパクるなら「キャラクター」と「世界観、設定」は元ネタと違うものを用意する、といった具合にである。

また、下敷きにしてパクった一要素にしても、そっくりそのまま使うのは避け、自分独自のアレンジや要素を加えるようにしよう。
たとえば「キャラクター」を下敷きにするなら外見や性別、年齢などを変えたり、「人物の相関関係」を下敷きにしたらキャラ自体は独自のものを考えたりと、必ず何らかのアレンジを加えるようにする。
じつは、この「どんなアレンジを加えたか」に、あなたのオリジナリティが現れるのである。

「複数の作品のオイシいところを寄せ集める」こともできる

また、前述の方法を発展させたやり方として、

「キャラ、ストーリー、設定の3つの要素で、それぞれ別の複数の作品を下敷きにする」

という裏技もある。

たとえば、「キャラクター」はAの作品を下敷きにし、「ストーリー」はBの作品を、「世界観、設定」はCの作品を下敷きにする、といったように、3つの要素それぞれを異なる作品からパクるというやり方である。
これは、いわば「色んな作品のオイシいとこ取り」といえるかもしれない。

アニメ『機動戦艦ナデシコ』は、この方法論を使って企画がつくられた作品である。同作は「キャラクターは『うる星やつら』」、「『ガンダム』のロボットや、『ヤマト』の宇宙戦艦が登場し」、「学園ものとしての騒動や恋模様もある」といった感じで、ごった煮的な面白さがある。

しかし、このやり方を使う場合でも、下敷きにした要素はそっくりそのまま使うのではなく、やはり何らかのアレンジ、独自性を加えるようにしたい。色んな作品の寄せ集めをしたからといって、最強の作品ができるわけではないし、色んな作品のそれぞれの要素をまとめ上げる構成力がなければバラバラになってしまいかねない。『機動戦艦ナデシコ』はその点が非常に優れており、ややもすれば空中分解しかねない美味しい要素の詰め込み過ぎを、巧みな構成力で1つの新しい作品へと生まれ変わらせている。しかも、同作独自のオリジナル要素も加味され、決して過去作群の焼き直しではない、新しい独自の作品になっているのである。

この方法を使う場合は、各要素がうまく噛み合うように調整を加え大きな核となる作品の中心的要素を「幹」としてすべての要素をまとめ上げるようにしよう。

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筆者は他の作品を下敷きにし、アレンジを加えて新しい物語をつくる際にも役立つ物語づくりの基礎やストーリーを面白くする方法、ストーリーの「24の型」や汎用プロットのテンプレートなどを解説したテキストや電子書籍を出版しております。
ご興味のある方は、以下のリンクに著書がまとめられていますので、のぞいてみてください。


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