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なぜ「作品を書きたい」という創作動機だと行き詰まりやすいのか:物語づくりの最良のモチベーションとは?

物語づくりで怖いのは、「つくっている途中で行き詰まってしまうこと」である。
しかしこの行き詰まりは、創作を志す誰もが経験することであり、行き詰まることは別に恥ずかしいことではない。プロでも行き詰まる時は行き詰まる。
大事なのは、その行き詰まりを何とか乗り越えて物語を完成させる、これは創作活動において非常に重要な課題であるといえる。

そんな行き詰まりを引き起こす要因にはじつにさまざまなものがあるが、今回はその中でもっとも多い原因の1つである「創作のモチベーション」を取り上げて、行き詰まりの原因とその対処法を考えてみたい。

「作品を書きたいから作品をつくろうとする」と高確率で行き詰まる理由

物語づくりの動機は、人それぞれである。
しかし、ほとんどの人は「自分が表現したいと思うものを、作品を使って表現したい」という欲求を満たすために作品を書き始める。いわば作品を書きたくて、作品を書き始めるのだ。作品を書きたくないのに書き始める人はいないだろう。
しかし、じつはここに「罠」が潜んでいる。

時折、私たちは「表現したいものを表現する」という動機ではなく、「何か、何でもいいから作品をつくりたい、書きたい」という動機で作品をつくろうとすることがある。
後々行き詰まるのは、大抵こういう場合なのだ。

なぜ行き詰まるのかというと、「表現したいもの」がないのに、何かを表現する媒体である物語をつくり始めるからなのだ。
当然、描きたいもの、表現したいものがないので、「それを描くために作品をつくる! というモチベーション」が保てなくなり、結果作品づくりが頓挫してしまうのである。

表現したいものがないのに作品を書こうとするのは、「空っぽのペットボトルからコップに飲み物を注ごうとする」ことに似ている。いくら中身をコップに注ごうとペットボトルを傾けても、中身が入ってなければ飲み物は出てこない。
それと同じで、いくら作品をつくろうと思っても、描きたいものがなければ作品をつくることはできないのである。
つくり始めてしばらく経ってから「描きたいものがなかった」ことに気づき、あわてて「描きたいもの」を探す、でもなかなか見つからない……なんていうことが始まると、これはもう高確率で作品づくりが行き詰まる原因になる。

とはいえ、締め切りの都合だったり、特定の条件で依頼されて書くなど、さまざまな事情から「表現したいものが見つかる前から作品を書かなければならないという状況が先に決まっている」場合が往々にしてあります。むしろ、そういった状況のほうが多い方もおられるだろう。
そういった「作品づくりありきの状況」でも行き詰まる事態を避けるのに大切なのは、次のような順番で作品づくりを始めることである。

(1)まず「表現したいもの」を探し、見つける。
(2)それから「その表現したいものを表現するために」作品をつくる。

どんな状況、条件でも、まずは「自分が表現したいもの」を探し、「それを表現するために物語をつくり始める」ようにすると、描きたいものがなくて行き詰まるのを避けることができる。
この順番で作品をつくっていくことが大切なのである。

「何を描きたくて」作品をつくるのか?

皆さんは「何を描きたくて、どんなことを表現したくて」作品をつくっているだろうか。
じつは作品づくりの動機があったとしても、その動機次第によっては途中で行き詰まりを生んだり、作品のクオリティをさげる要因になってしまう場合がある。
ここでは代表的な作品づくりのモチベーションについて、その特徴と作品づくりに与える影響を見ていきたい。

1.「あの作品みたいなものをつくりたい!」

おそらくほとんどの人は、創作活動を始めるいちばん最初のモチベーションは、プロの作品に触れ、感動したり、圧倒されたり、憧れたりして、自分もあの作品みたいなものが書きたい! という衝動を抱くことなのではないだろうか。
これは、創作活動においては至極まっとうな創作動機であり、楽なことばかりではない創作活動を根底から支え、拠り所とってくれる強力なものである。
逆に、この体験がない人は、創作活動を継続したり、壁に突き当たった時にそれを乗り越えるパワーを得るのが難しくなる。
さて、この「物語原体験」は、創作においてある意味必須といえるものだが、この動機だけでは作品をつくる目的が「憧れの作品を真似したい、再現したい」というものにとどまり、憧れの作品と同じものをつくることが作品づくりのゴールとなってしまい、自分独自の作品を生み出すという意識が薄れてしまう場合がある。
「あの作品みたいなものをつくりたい!」という動機は必要不可欠だが、この場合はそれにプラスして「こういうことを表現したい!」という自分独自の創作の動機、表現したいものを見つけ、それを表現するために作品をつくるようにしよう。

2.「このジャンルを書きたい!」「この舞台、設定を書きたい!」

描いてみたい特定のジャンルや世界観、舞台、設定を表現することが、作品づくりの動機となる場合もある。
たとえば「ファンタジーを書きたい」とか「19世紀のイギリスを舞台にしたい」とか「特殊な異能体系とそれに基づくバトルを描きたい」というような動機である。

もちろん、こういった動機は必要だが、この動機だけで描き始めると、行き詰まる原因になる場合がある。
なぜかというと、「ジャンル」や「世界観、舞台」「設定」といったものは、物語にとっては「容れ物」の要素だからである。
いくら容れ物を立派に描いても、肝心の中身がなければ作品はできあがらない。しかし、この動機だけを追求すると、容れ物を立派にすることだけに意識が行き、中身を充実させるという意欲や興味が薄れて、そこまで手が回らなくなるおそれがある。
こういった動機が強い場合は、作品の「中身」となる要素を描きたいというモチベーションも同時に得るようにしてみよう。

3.「このストーリーを書きたい!」

描きたいストーリーの構想が浮かんでいて、そのストーリーを描きたいという動機から作品をつくり始める人は、とても多いだろう。

この場合、「描きたいもの」である「ストーリー」があるわけですから、途中で作品づくりに行き詰まるという危険性は比較的少ないといえる。

しかしこの動機も、これだけだと作品のクオリティの低下を招くおそれがある。
特定のストーリー展開を描くということが至上命題、ゴールであるならば、それを達成することが最優先となり、「そのストーリー展開を描くことが目的」になってしまうと、それ以外の要素、つまりキャラクターを魅力的に描くということが脇に追いやられててしまい、結果的にキャラクターがストーリーを実現するためだけの人形、駒になりやすいというデメリットがある。
読者がもっとも興味を示す「人物」、その人物を描くのが物語の目的、意義であるにも関わらず、ストーリーを描くための道具として人物を扱うと、もっとも大切な要素である登場人物の魅力、ドラマ、生き様がおざなりになってしまいかねない。
描きたいストーリーを描く動機で物語をつくろうとする場合は、同じくらい「そのストーリーを使って描きたい人物」を見出すようにしよう。

最良のモチベーションは「このキャラを描きたい」&「このシーンを書きたい」だ!

では、物語作品をつくるうえで、もっともいい動機というものはあるのだろうか。
筆者がオススメする物語づくりの動機は、次の2つである。

「このキャラクターが描きたい!」
「このシーンが描きたい!」

この2つの動機は、物語ではセットになっている。
だから、この2つの動機を「このキャラクターを描くための、こういうシーンを描きたい」という形にすると考えやすいだろう。

では、なぜこの2つの動機がもっともいい動機なのか、その理由は「この2つの動機は作品を書き進めるうえでもっとも大きなモチベーションを与えてくれる」からなのだ。

読者にとって物語でもっとも大事なのは人物、キャラクターであり、物語は人物を描くためのもので、読者はその人物に会いたくて物語を読む。
当然、作者としても物語をつくる動機は、物語制作の意図、根拠となる「主人公を描くこと」が、もっとも明確で強力なモチベーションをもたらすのである。

すなわち、その作者がキャラクター、つまり何としてもその魅力や人間性を描きたいと思える「主人公」をつくったならば、自然とその主人公を描きたいから、そのために物語をつくるようになり、主人公を描くことが物語の至上命題となってそれを描ききるまでは物語づくりを何としても進めたいというモチベーションが湧き上がってくる。

また、主人公を描くうえでもっとも大事なのは「主人公の変化、成長の場面」を描くことだ。
たとえば「臆病で逃げてばかりいた主人公が、始めて勇気を振り絞って敵に立ち向かっていく」とか「ずっと対立していた主人公とライバルが始めて和解し、協力する」など、主人公が成長し、変化する場面は、キャラクターを描くうえでのハイライトシーン、もっとも盛り上がり、読者が心を動かされるシーンである。そして、これは作者としても、そのキャラクターを描くうえで「もっとも描きたいシーン」となる。
作者は、最終的にこの「成長シーン」を描くために物語をつくっていく。そして、この主人公の変化、成長のシーンは、必ず物語のクライマックスに位置する。だから、作者はこのシーンを描こうと思ったら、何とかして物語をクライマックスまで描き進めなければならないことになる。そうすると、必然的に作品づくりは捗るのである。

もちろん、物語づくりはどの場面から書き出してもつくることができる。いきなりクライマックスからつくり始めるという場合もあるだろう。しかし、良いクライマックスが出来上がったからには、そこまでのスト―リ―を完成させたいと思うのが人情だ。結果的に作品づくりは促進されるのである。

成長シーン以外でも、その「主人公にとって魅力を描けるシーン」や「その人物の過去が明らかになるキャラを掘り下げるシーン」などは、作者としてはぜひ描きたい外せないシーンである。
またラブストーリーなら、「出会いのシーン」、「2人が親しくなるきっかけのシーンや最後の告白のシーン」など、何としても描かなければならないというモチベーションを与えてくれるシーンがある。
そういった、主人公に関する活躍や魅力を描き出せるシーンを描くことを通して、物語でもっとも大事なキャラクター(主人公)を描くことを物語づくりの動機にするならば、途中で行き詰まる危険性を大幅に減らし、また、たとえ行き詰まっても、それを乗り越える力と創造的な欲求、衝動を得ることができるのである。

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物語づくりの動機と、そこからどのように物語を発想していくかについて、さらにお知りになりたい方は、以下のテキストにてくわしく解説されています。
ご興味のある方は、ぜひ合わせてご一読ください。



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