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京都コングレス「京都宣言」と国連の個人使用薬物所持非犯罪化

2021年3月7日から14日にかけて、国立京都国際会館にて第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)が開催され、「京都宣言(仮訳)」(Kyoto Declaration)[1]が成果文書として採択されました。国連犯罪防止刑事司法会議(コングレス)は、5年に一度開催される犯罪防止と刑事司法の分野における世界最大の会合であり、事務局は国連薬物犯罪事務所(United Nations Office on Drugs and Crime: UNODC)が務めています。この会議は、新型コロナウィルス対策として来場参加とオンライン参加によるハイブリッド形式で行われ、日本語でも広報されており、日本の刑事司法のあり方に関心を寄せる市民にも情報を得やすいものとなっています。開催国の日本政府による特設ウェブサイトには、大麻植物の伝統的な紋様「麻の葉柄」が背景に全面的にあしらわれています。果たして、そこにはどんな思想や願い、メッセージが込められているのでしょうか?

UNODCは個人使用のための薬物所持の非犯罪化を推奨

京都コングレスに向けて、国連広報センターのブログに掲載されたUNODC事業局長加藤美和さんのエッセイでは、国連職員として第一線で活躍されている方の意見が「犯罪への対応の再考」として次のように述べられています。


“例えば、刑務所等、矯正施設の過剰収容という問題は、世界の多くの国で問題となっており、京都コングレスでも様々な専門的議論が行われます。過剰収容に対応するために刑務所の予算・施設を増やしたり、国際規範にそぐわない収容状態において刑務所職員がどのように対応すべきかの最低基準を設定するなどの技術的議論を超えて、そもそも刑務所に収容されている人々はそこにいるべき人なのか、どのような対応が受刑者の再犯防止・社会における犯罪減少に有効なのかという問いかけから始める必要があります。”



具体的に示されてはいませんが、こうした問いかけには、当然、国連の推進する個人使用薬物所持の非犯罪化政策も含まれるものと考えられます。UNODCのウェブサイトでは、「2030アジェンダ」持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて、法の支配、公正で効果的かつ人道的な司法制度とともに、『薬物使用に対する健康志向の対応』が取り組むべき課題として掲げられています。さらに、UNODCの任務として、SDGs目標3 「すべての人に健康と福祉を」、ターゲット3.5「薬物乱用やアルコールの有害な摂取を含む、物質乱用の防止・ 治療を強化する。」のもとで、個人使用薬物所持の非犯罪化の実施が次のように掲げられています[2]。

“UNODC's work on drugs and health is inextricably linked to multiple Targets of SDG 3.

The Office's mandate, for example, is fully in line with Target 3.5 on a number of fronts. UNODC supports a balanced public health- oriented approach to the drug problem by working to end discrimination against people who use drugs; and by strengthening the access to comprehensive, evidence- based, and gender responsive services for prevention of drug use and treatment of substance use disorders, including as an alternative to conviction or punishment. 


(薬物と健康に関するUNODCの業務は、SDG3の複数のターゲットと密接に関連している。

例えば、UNODCの任務は、いくつかの面でターゲット3.5と完全に一致している。UNODCは、薬物を使用する人々に対する差別をなくすために活動することや、有罪判決や刑罰への代替措置を含む、薬物使用の予防と物質使用障害の治療のための、包括的な、エビデンスに基づく、ジェンダーに配慮したサービスへのアクセスを強化することにより、薬物問題に対するバランスのとれた公衆衛生指向のアプローチを支持している。)”

UNODCはまた、世界保健機関(WHO)との共同制作の文書「刑事司法制度と接触する薬物使用障害者への治療とケア、有罪判決や刑罰への代替手段(Treatment and care for people with drug use disorders in contact with the criminal justice system, Alternatives to Conviction or Punishment)」[3]を公表しています。この文書では表紙にSDGsロゴが用いられ、ポルトガルの個人使用のための薬物所持の非刑罰化政策やオーストラリアの大麻注意スキームが有罪判決や刑罰の代替措置の事例として次のように紹介されています。

"第4章. 有罪判決や刑罰の代替としての治療へのダイバージョンの選択肢

4.2 刑事制裁に代わる行政対応
多くの国では、道路交通違反などのような軽微な違反に対処するために、刑事制裁の代わりに行政制裁を用いている。このような違反行為が薬物使用障害者によって行われた場合、行政処分は治療へのダイバージョン(簡潔な動機づけ治療、短期間の治療、再発防止講習など)を伴うことがある。もう一つの例は、加重事由のない個人消費のための少量の薬物所持に対する非刑事司法的な対応であり、この事例はヨーロッパや南北アメリカ大陸の多くの国でみられる。このような非刑事司法的対応の場合、規制薬物の所持は依然として違法であるとみなされ、措置の一部は非医学的または非科学的使用を制限するために講じられるが、刑事的な方策ではなく行政上の方策として扱われる。(p.41)

例: ポルトガル
2001年に、ポルトガルは全ての種類の規制薬物の低レベル所持に対する刑事罰を廃止し、法律 30/2000の下に、これらの行為を行政違反として再分類した。

規制薬物の入手と所持は行政犯罪(1961年の単一条約第4条及び第36条参照)とみなされ、刑事罰(違反者の所持する量が個人的に利用する量の10日分を超えないものであること。)ではなく行政措置によって制裁される。法的な想定より多い量の薬物の取引や規制薬物の所持は、依然として刑事司法制度によって処理されている。

非医療的な個人消費のための何らかの薬物の所持を発見された場合、該当者は地域の”薬物乱用防止委員会”にダイバートされる。この委員会 - ポルトガルのアプローチ独特の基盤 - は、1人の司法専門家と2人の保健・社会サービスの代表者から構成されており、これらの代表者が薬物使用障害の有無と程度を決定する。

委員会は、違反者の個人的な状況を調査したのち、治療、教育、リハビリテーション措置の可能性を評価する。同委員会は、薬物使用障害を伴う人に、自発的治療、罰金の支払いあるいは他の行政処分(警告または特定の場所からの追放など)を課すことを適用することができる。

2012年6月、国際麻薬統制委員会(INCB)は、法律30/2000の実施結果を検証する任務を遂行す るための調査団をポルトガルに派遣した。国際麻薬統制委員会は、薬物乱用防止委員会がポルト ガルにおける需要削減メカニズムの重要な要素であることを認めた。INCBは、政府が薬物使用障害の一次予防を強化することにコミットしていることに留意した。 INCBは、法律第30/2000が薬物の所持と入手を合法化していないことから、ポルトガル政府は国際的な薬物統制条約の目的に完全にコミットしているとの結論に達した。

4.3 公判前審理段階
4.3.1 治療へのダイバージョンを伴う注意
注意は、逮捕または起訴の代替である。条件付き注意は、違反の罪に問われる代わりに、 教育セッション、評価および/あるいは簡潔な介入または治療への紹介と併せて用いられる ことが多い。一般に、注意を受けた者は違反を認め、注意を受けることに同意しなければ ならない。条件を遵守しない場合、注意を受けた者は起訴される可能性がある。いくつかの国では、個人消費のための大麻所持のケースに条件付き注意がしばしば用いられる。 (p.44)

例: 大麻注意スキーム(オーストラリア)
大麻注意スキームは、個人消費のための大麻所持を発見された成人を対象としたダイバージョナ リー・スキームである。このスキームは2000年に施行され、警察の裁量によって運用されている。このスキームのもとでは、大麻を所持している者を発見した警察官は、正式な起訴ではなく、注意の発行を選ぶことができる。この注意には、大麻を使用することによる法的影響および
健康への影響に関する警告と、アルコール・薬物情報サービス(ADIS)の電話番号が含まれてい る。情報は最初の注意で提供される。二度目の注意では、ADISに連絡し、本人の大麻の使用に関する教育セッションに出席することを要求される。"

国連事務総長は、個人使用薬物所持の非犯罪化に強い信念を持つ



現在の国連事務総長アントニオ・グテーレス氏は、ポルトガル首相時代に個人使用目的での薬物所持に対する非刑罰的な対応を導入しており、この政策は薬物対策の成功例として高く評価されています。グテーレス氏は、2018年6月の国際薬物乱用・不正取引防止デーのメッセージ[4]で、国連の推進する個人使用のための薬物所持の非犯罪化について次のように語っています。

"薬物問題は私たちが直面する最も複雑な問題の一つであり、健康とウェルビーイング、家族とコミュニティ、安全保障、持続可能な開発に幅広く影響を及ぼします。

これらに対処するためには、2016年の世界の薬物問題に関する国連特別総会で全会一致で採択された成果文書で強調されているように、多くの分野を横断する全体的な注力が必要です。

私たちは、人権を十分に尊重し、国際的な基準と規範に従って、組織犯罪ネットワークと不正薬物取引業者を阻止するための国際協力と効果的な法執行対応を必要としています。

同時に、予防、治療、支援へのエビデンスに基づくアプローチを拡充する必要があります。

UNGASSの成果文書は、共同責任の原則に根ざした、このようなバランスのとれた行動をとるための具体的なステップを概説しています。また、私がポルトガル首相時代に行ったように、各国が優先事項と必要性に応じて国家レベルの薬物政策を追求することを認める十分な柔軟性があります 。

3つの国際薬物統制条約に従って、私は個人使用目的での薬物所持に対して非刑罰的な対応を導入し、同時に、予防、治療、社会復帰のための方策を増やし、薬物取引の犯罪化を強化しました。

簡単な解決策はありません。しかし、私自身の経験は、私たちは世界の薬物問題に対処するためのより良い進路を示すことが出来るという私の強い確信を強化します。

国際的な枠組みの合意に基づき、UNGASSのコンセンサスを我々の指針として活用し、私は各国に対し、予防、治療、リハビリテーション及び社会復帰サービスを推進することを要請します; 転用と乱用を防ぎつつ、規制医薬品へのアクセスを確保する; 違法薬物栽培の代替措置を促進する; 組織犯罪と不正取引を阻止する - これらすべては、持続可能な開発目標を達成するための我々の取組みに大いに貢献するでしょう。

私たちは共に、すべての人々が安全と繁栄を伴う健康で尊厳のある平和な生活を送ることを保証することが出来ます。"

「京都宣言」と国連の既存の薬物政策のコミットメント

国連事務総長のメッセージでも宣言されているように、薬物問題に効果的に取り組むためには、組織犯罪と不正取引に対して犯罪として厳しく対処する一方で、個人使用目的の薬物所持には非刑罰的な健康と人権を重視する政策を導入する、法の支配と人権とのバランスのとれたアプローチが不可欠です。法務省の運営する京都コングレス専用ページでは「京都宣言」の仮訳が公表され、『日本は,「京都宣言」の着実な実施に向け,リーダーシップを発揮していきます。』と述べられています。「京都宣言」の中で薬物個人使用非犯罪化政策の推進と密接に関連する項目は、18、20、35、36、50、85などで、それぞれの項目の具体的な内容は次の通りです;

18 我々は,全ての国が,公平な司法の運営において,また,犯罪の防止とそれへの対処のための我々の全ての取組において,全ての人権と基本的自由を十分に促進し,保護するとともに,人間の尊厳の原則を擁護する責任を有することを強く再確認する。

20 我々は,国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約及びその議定書,腐敗の防止に関する国際連合条約,3つの国際麻薬取締条約,テロ対策に関連する国際条約及び議定書を,これらの締約国として,また,国際協力を促進するための基礎を含むその他の関連する国際的な義務を,完全かつ効果的に活用することにコミットする。

刑務所の状況の改善
35 国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルールズ)並びに女性被拘禁者の処遇及び女性犯罪者の非拘禁措置に関する国連規則(バンコク・ルールズ)の関連規定の実務上の適用を促進することを含め,公判前及び公判後の被拘禁者の拘禁状況を改善し,これに関する刑務所,矯正及びその他の関連職員の能力を向上させる。

36 非拘禁措置に関する国連最低基準規則(東京ルールズ)に十分な注意を払い,公判前拘禁及び拘禁刑に対する代替手段の利用を検討することを含め,拘禁施設の過剰収容に対処するとともに,刑事司法制度の全体的な有効性及び能力を向上させるための措置を講じる。

国内の量刑政策
50 犯罪者に対する刑罰の厳しさが犯罪の重大性に見合うものとなるように,犯罪者の処遇に関する量刑の刑罰の政策,実務又は指針を国内法の範囲内で推進する。

85 包括的でバランスのとれたアプローチを通じ,共同かつ共通の責任の原則に基づき,既存の薬物政策の約束の実施を加速するなどして,国内的,地域的,国際的なレベルの協調的及び持続的な行動を必要とする世界的な薬物問題に対し,効果的に対処し,対抗する。

「京都宣言」85で述べられている”既存の薬物政策の約束(existing drug policy commitments)”には、2016年の世界の薬物問題に関する国連特別総会(UNGASS 2016)で全会一致で採択された成果文書「世界の薬物問題に効果的に取り組み、対処するための共同コミットメント(Our Joint Commitment to Effectively Addressing and Countering the World Drug Problem, A/RES/S-30/1」[5]などがあります。この成果文書では、個人使用目的の薬物所持に対する非刑罰的な対応について、以下のように述べられており、これは「京都宣言」35、36とも関連しています。


Operational recommendations on cross-cutting issues: drugs and human rights, youth, children, women and communities

4. We reiterate our commitment to respecting, protecting and promoting all human rights, fundamental freedoms and the inherent dignity of all individuals and the rule of law in the development and implementation of drug policies, and we recommend the following measures:

(j) Encourage the development, adoption and implementation, with due regard for national, constitutional, legal and administrative systems, of alternative or additional measures with regard to conviction or punishment in cases of an appropriate nature, in accordance with the three international drug control conventions and taking into account, as appropriate, relevant United Nations standards and rules, such as the United Nations Standard Minimum Rules for Non-custodial Measures (the Tokyo Rules);


分野横断的な問題に関する運用上の勧告:薬物と人権、若者、子ども、女性、コミュニティ

4. 我々は、薬物政策の開発および実施において、すべての人権、基本的自由、すべての個人の固有の尊厳および法の支配を尊重し、保護し、促進するというコミットメントを改めて表明し、以下の措置を勧告する:

(j) 3つの国際薬物統制条約に従い、非拘禁措置に関する国連最低基準規則(東京ルールズ)などの関連国際基準および規則を適切に考慮し、国家、憲法、法律および行政制度に十分配慮し、適切な性質の場合において有罪判決あるいは刑罰に関する代替措置または追加措置の開発、採用および実施を奨励する。[p.12,4.(j)]

国連高等弁務官事務所(OHCHR)による2018年の報告書、「世界の薬物問題に効果的に取り組み、対処するための共同コミットメントの実施と人権について: 国連人権高等弁務官事務所報告書(全文仮訳)(Implementation of the Joint Commitment to Effectively Addressing and Countering the World Drug Problem with regard to human rights : report of the Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights, A/HRC/39/39)」[6]では、これらのUNGASS2016成果文書での共同コミットメントの各国の法律や政策への実施状況と人権の側面について、世界人権宣言、その他の人権条約、基準や規則などによって規定された人権基準に照らして、検討され、以下のように勧告されています。

“60. 均衡のとれた判決の要件を満たすために、各国は、最低刑および最高刑を削減すること、ならびに総刑務所人口の削減にも寄与する薬物の個人使用および軽微な薬物犯罪を非犯罪化することを目的として、刑事政策および法律を改正すべきである。

89. 世界の薬物問題に関する2016年の第30回特別総会の成果文書の横断的アプ ローチは、薬物規制の目的である — 人類の健康と福祉の保護 — と「持続可能な開発目標」を含む国連システムの重要な優先事項との新たなより良い結びつきを形成している。 各国は、人権義務に基づき、成果文書のより包括的な実施のための、さらなる努力を行うべきである。”

他に、国連の既存の薬物政策のコミットメントには、代表的なものとして2018年11月に国連システム事務局長調整委員会(United Nations System Chief Executives Board for Coordination: CEB)により採択された「効果的な機関間協力による国際薬物統制政策の実施を支援する国際連合システム共通の立場(United Nations system common position supporting the implementation of the international drug control policy through effective inter-agency collaboration, CEB/2018/2)」[7]があります。国連システム事務局長調整委員会(CEB)は、UNODCを含む国連の31機関を代表する国連システムの最高レベルの調整機関であり、このコミットメントは各機関の薬物問題への取り組みの機関間協力と一貫性の強化への要請に応じて国連機関全体の統一的見解として採択されました。コミットメントの採択に至る詳しい経緯は、国際薬物政策の専門家であるThe Transnational Institute (TNI)のMartin Jelsma氏の要約文書によって詳しく解説されています[8]。このコミットメントでは、個人使用目的の薬物所持の非犯罪化について以下のように宣言されています。

Shared principles
Reiterating our strong commitment to supporting Member States in developing and implementing truly balanced, comprehensive, integrated, evidence-based, human rights-based, development-oriented and sustainable responses to the world drug problem, within the framework of the 2030 Agenda for Sustainable Development, we, the members of the United Nations system, underlining the importance of the following common values:

Directions for action
In addition to ongoing efforts, we commit to harnessing synergies and strengthening inter-agency cooperation, making best use of the expertise within the United Nations system, to further enhance consistent sharing of information and lessons learned and the production of more comprehensive data on the impact of drug policies, including with a view to supporting the implementation of the 2030 Agenda.

We, therefore, commit to stepping up our joint efforts and supporting each other, inter alia:

・To support the development and implementation of policies that put people, health and human rights at the centre, by providing a scientific evidence-based, available, accessible and affordable recovery-oriented continuum of care based upon prevention, treatment and support, and to promote a rebalancing of drug policies and interventions towards public health approaches;
To promote alternatives to conviction and punishment in appropriate cases, including the decriminalization of drug possession for personal use, and to promote the principle of proportionality, to address prison overcrowding and overincarceration by people accused of drug crimes, to support implementation of effective criminal justice responses that ensure legal guarantees and due process safeguards pertaining to criminal justice proceedings and ensure timely access to legal aid and the right to a fair trial, and to support practical measures to prohibit arbitrary arrest and detention and torture;
・To call for changes in laws, policies and practices that threaten the health and human rights of people;
・ To cooperate to ensure human rights-based drug control and address impunity for serious human rights violations in the context of drug control efforts;
・To provide Member States with the evidence base necessary to make informed policy decisions and to better understand the risks and benefits of new approaches to drug control, including those relating to cannabis;

共有される原則
持続可能な開発のための2030アジェンダの枠組みの中で、世界の薬物問題に対する真にバランスのとれた、包括的な、統合された、エビデンスに基づく、人権に基づく、開発指向かつ持続可能な対応を策定し、実施する加盟国を支援するという強いコミットメントを改めて表明し、我々国連システムのメンバーは、次の共通の価値観の重要性を強調する:

行動指針
現在進行中の取り組みに加え、我々は、2030アジェンダの実施を支援する観点を含め、情報及び教訓の一貫した共有、並びに薬物政策の影響に関するより包括的なデータの作成をさらに強化するために、国連システム内の専門知識を最大限に活用し、相乗効果を活用し、機関間協力を強化することにコミットする。

したがって、我々は、特に次のことについて、共同の取り組みを強化し、相互に支援することにコミットする:

・科学的証拠に基づく、入手可能かつ利用可能な低価格で回復指向の、予防、治療及び支援に基づく連続したケアを提供することにより、人々、健康、人権を中心に据えた、公衆衛生のアプローチに向けた薬物政策と介入のバランスの見直しを促進する政策の開発と実施を支援すること;
個人使用のための薬物所持の非犯罪化を含む、適切なケースにおける有罪判決と刑罰への代替措置を促進し、比例性原則を促進し、薬物犯罪の被告人による刑務所の過密と過剰収容に対処し、刑事司法訴訟に関連する法的保証と適正手続のセーフガードを確保し、法的援助及び公正な裁判を受ける権利への迅速なアクセスを確保する効果的な刑事司法対応の実施を支援し、恣意的な逮捕および拘禁、拷問を禁止するための実践的な措置を支援すること:
・人々の健康と人権を脅かす法律、政策、慣行の変更を求めること;
・人権に基づく薬物規制を確保するために協力し、薬物規制対策における深刻な人権侵害に対する不処罰に対処すること;
・加盟国が十分な情報に基づいた政策決定を行い、大麻に関連するものを含む薬物規制への新しいアプローチのリスクとベネフィットをよりよく理解するために必要なエビデンスに基づく情報を提供する;

INCB委員長、薬物犯罪への均衡のとれた対応の重要性を再度強調



さらに、3月9日の京都コングレスのハイレベルセグメントでは、国際麻薬統制委員会(International Narcotics Control Board: INCB)委員長Cornelis P. De Joncheere氏が講演し、有罪判決、刑罰、収監に代わる措置を適用することを含む、人権を尊重する薬物政策や薬物関連犯罪への均衡のとれた対応の重要性を強調したと国連プレスリリースで報道されています[9]。

INCB委員長は、これまでにも

”3つの薬物統制条約から成る既存の国際的な薬物規制の枠組みは、人々の健康を保護し、個人使用または依存を理由とする薬物所持に対する不均衡な刑事司法対応から人々を守るために設計されている”

と、一貫して述べており、昨年3月の国連麻薬委員会でのノルウェーの個人使用のための薬物所持非犯罪化への取り組みに関するサイドイベントでは、

“3つの条約を完全かつ効果的に実施するためには、ある国での薬物規制政策の改革が、薬物依存の人々の投獄への依存を止め、軽微な薬物犯罪を犯した人々に対する刑罰と有罪判決という逆効果の方策の使用を防止するためにどのように役立つかについて、我々の集団的理解を深めることが必要です。”

と述べ、個人使用のための薬物所持の非犯罪化政策を強く推奨することを表明しています(全文仮訳)[10]。以下は、京都コングレスでのINCB委員長の声明に関する3月9日の国連プレスリリースの全文仮訳です。

プレスリリース
情報提供のみ - 公式文書ではありません
UNIS/NAR/1434
9 March 2021

INCB委員長、京都での第 14 回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)で講演、薬物関連犯罪への均衡のとれた対応と合成薬物蔓延へのINCBの取り組みの重要性を強調

ウィーン、3月9日(国連情報サービス) - 国際麻薬取締委員会(INCB)Cornelis P.de Joncheere 委員長は、京都で開催された第14回国連犯罪防止刑事司法会議で講演し、エビデンスに基づく薬物関連犯罪の防止と合成麻薬蔓延への対応において加盟国を支援するINCBの活動を強調した。

INCB 委員長はバーチャル講演の中で、リハビリテーションと社会復帰を含む、薬物関連犯罪への均衡のとれた対応は刑事司法の重要な要素であり、会議の優先課題であると述べた。INCB は、国際薬物統制条約のもとでの責任に従い、薬物関連犯罪に適用される制裁措置を監視し、国際的な注意と行動を必要とする可能性のある刑事司法の傾向や新たな薬物関連のデータを特定し、分析する。

de Joncheere 氏は、薬物統制条約が刑事司法対応ならびに法の支配、適正手続き、および人権を尊重する薬物政策を必要とすることを強調した。これには、恣意的な逮捕と拘禁の禁止、公正な裁判を受ける権利、あらゆる形態の残虐で非人道的な刑罰に対する保護が含まれる。条約は、加盟国に対し、教育やリハビリテーション、社会復帰を含む有罪判決、刑罰および収監に代わる措置を適用する可能性を提供する。

INCBは、薬物規制の名のもとに行われている深刻な人権侵害の報告が続いていることを非常に懸念しており、薬物関連違反への超法規的な対応の停止を再度要求する。INCB は、薬物関連犯罪に対する死刑を保持しているすべての加盟国に対し、そのような刑罰を廃止し、すでに言い渡された判決を減刑することを検討するよう引き続き要請する。

INCBの会長はまた、合成麻薬蔓延が拡大していることに言及し、国連総会、麻薬委員会の決議、加盟国の要請に応じて INCB が開発した専門的なツールやプロジェクトを強調した:

・INCB の Global Rapid Interdiction of Dangerous Substances (GRIDS)プログラムは、新たな精神作用物質を検出し、特定するための法執行機関の能力を支援している。
・Project Ion は、医療、科学、産業用途がほとんど、あるいは全く知られていない非スケジュール物質がユーザー市場に到達するのを防ぐために、各国当局を支援している。
・The Global OPIOIDS Project は、合成オピオイドの不正取引を防止するために各国当局を支援する業務提携に焦点を合わせている。
・INCB IONICS プラットフォームは、疑わしい事件についての所轄国家当局間の通信をリアルタイムで安全に交換することを容易にする。これにより、新たな精神作用物質の世界的な不正取引に対抗するための戦略的および運営上の情報の開発と共有が可能になる。
・INCB の Public Private Partnerships Initiative は、民間部門の搾取を防止するための自発的な協力の開発と実施において、加盟国を支援している。

de Joncheere 氏は、INCB は薬物関連犯罪の複雑な課題に対処するために、第 14 回国連犯罪防止刑事司法会議からもたらされる新たな戦略と革新的アプローチを支援することを楽しみにしていると述べた。

ポスト京都コングレスの日本社会
へ

このように、UNGASS2016以降、国連全体と薬物政策関係各機関は、法の支配と人権とのバランスのとれた薬物政策や薬物関連3条約の完全かつ効果的な実施に向けて、薬物使用をアルコールやタバコへの依存と同じ物質使用障害とみなし、個人使用のための薬物所持の非犯罪化を「持続可能な開発のための2030アジェンダ/ 持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」のターゲットに掲げ、加盟国に対し、国内の法律の見直しと、より一層の協力体制の構築を呼びかけています。法務省の京都コングレス便り第3回「京都コングレスの開催意義」では、我が国にとっての開催意義として、「国際社会におけるリーダーシップ」、「国際的議論の把握」、「自国の刑事政策・刑事司法制度の客観的認識」などが掲げられ、この分野への日本の経済的負担の大きさについて次のように述べられています。

“我が国は,国連の犯罪防止・刑事司法分野を担当する国連薬物犯罪事務所に対し,多額の金銭的貢献を行い,その活動を財政面で支えている。金額ベースでは,我が国は,ここ数年,国別では,実質的にみて米国に次ぐ2番目となっている。”

“UNODC「2017年拠出リスト(List of Pledge 2017)」(UNODCウェブサイト参照。)によると,2017年のUNODCへの任意拠出国は,1位がコロンビア(約105百万米ドル),2位が米国(約72百万米ドル),3位がEU(約65百万米ドル),4位が日本(約25百万ドル)となっている。1位のコロンビアの拠出は,UNODCの自国内における活動に対するものであることから,この点を勘案すると,日本は,国際貢献の観点からは,国別では,米国に次いで2位となる。”



年間約25百万ドルといえば日本円では約27億円に相当します。京都コングレスの予算は2019年と2020年だけでも約20億円が要求されています。2021年の日本の国連分担金負担額は、247.7百万ドル(約267億円)であり、アメリカ、中国に次いで世界第3位となっていますが、国連の公文書は、アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語、スペイン語の6言語に翻訳されるにもかかわらず、日本語に翻訳されることはほとんどありません。このような言葉の壁による影響なのか、京都コングレスとほぼ同時期に行われている日本の薬物政策に関する厚生労働省監視指導・麻薬対策課による有識者会議「大麻等の薬物対策のあり方検討会」では、大麻取締法に「使用罪」の導入が検討されると報道されるなど、薬物政策に関する世界情勢や国連の方針が有識者とされる人たちの間で十分に理解されていない様子が窺われます。「反面教師」という言葉がありますが、日本の薬物行政に携わる人たちが、大麻の個人使用のための所持に刑罰を与える現在の規制のあり方を支持する立場に甘んじて税金から収入を得ているとしたら、それは国連の方針や国際人権基準に反する人権侵害であり、私たちの税金を貪る薬物禁止政策利権への依存です。日本政府は、国際社会で個人使用のための薬物所持の非犯罪化政策の実施を何度も約束してきているはずです。京都コングレス以降、日本の薬物行政の担当者は、これまでの刑事司法の問題点を見直し、人権と健康を中心に据えた薬物政策へと大きくバランスを取り直す法改正を実施し、国際協調に貢献する絶好の機会を迎えています。

参考文献

1. Fourteenth United Nations Congress on Crime Prevention and Criminal Justice, Draft Kyoto declaration on advancing crime prevention, criminal justice and the rule of law: towards the achievement of the 2030 Agenda for Sustainable Development(A/CONF.234/L.6)
https://undocs.org/Home/Mobile?FinalSymbol=A%2FCONF.234%2FL.6&Language=E&DeviceType=Desktop



2. UNODC, UNODC and the 2030 Agenda for Sustainable Development, SDG 3: Ensure healthy lives and promote well-being for all at all ages [2021年3月22日閲覧]

https://www.unodc.org/unodc/en/sustainable-development-goals/sdg3_-good-health-and-well-being.html

3. UNODC-WHO, Treatment and care for people with drug use disorders in contact with the criminal justice system Alternatives to Conviction or Punishment
https://www.unodc.org/documents/UNODC_WHO_Alternatives_to_conviction_or_punishment_ENG.pdf

4. UNODC, SECRETARY-GENERAL MESSAGE, Message of United Nations Secretary-General, António Guterres, on the International Day Against Drug Abuse and Illicit Trafficking, 26 June 2018 [2021年3月22日閲覧]
https://www.unodc.org/unodc/en/press/releases/2018/June/message-of-united-nations-secretary-general--antnio-guterres--on-the-international-day-against-drug-abuse-and-illicit-trafficking.html

5. UN. General Assembly (70th sess. : 2015-2016). President, Our Joint Commitment to Effectively Addressing and Countering the World Drug Problem (2016)(A/S-30/L.1)
https://digitallibrary.un.org/record/826678

6. Office of the High Commissioner for Human Rights(OHCHR), Implementation of the joint commitment to effectively addressing and countering the world drug problem with regard to human rights - Report of the Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights (A/HRC/39/39)
https://undocs.org/Home/Mobile?FinalSymbol=A%2FHRC%2F39%2F39&Language=E&DeviceType=Desktop

7. UN System Chief Executives Board for Coordination, United Nations System Common Position Supporting the Implementation of the International Drug Control Policy Through Effective Inter-agency Collaboration [2021年3月22日閲覧]
https://unsceb.org/united-nations-system-common-position-supporting-implementation-international-drug-control-policy

8. Martin Jelsma, UN Common Position on drug policy - Consolidating system-wide coherence
https://www.tni.org/files/publication-downloads/un-common-position-briefing-paper.pdf

9. UNITED NATIONS INFORMATION SERVICE (UNIS), INCB President addresses 14th UN Crime Congress in Kyoto, highlighting importance of proportionate responses to drug-related crimes and INCB efforts to address the synthetic drug epidemic, UNIS/NAR/1434
https://unis.unvienna.org/unis/en/pressrels/2021/unisnar1434.html

10. INCB, Statement by Mr. Cornelis de Joncheere, President, International Narcotics Control Board (INCB), “Drug Reform: From a Punitive to a Supportive Approach – The Norwegian Proposal”, Special Event organized by Norway, the INCB, the UNODC Drug Prevention and Health Branch and the WHO, Sixty-third session of the Commission on Narcotic Drugs Monday, 2 March 2020, 13.15 – 14.45, Room C3 [2021年3月22日閲覧]
https://www.incb.org/documents/Speeches/Speeches2020/INCB_President_statement_Norway_side_event_drug_reform.pdf

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