Watcher #13
私は、SNSで知った男の人を好きになった。
“ウォッチャー”
彼をそう呼ぶ人もいる。
その話しをすると、「やめてよ」と彼は笑った。
運転しながら笑った横顔をかわいいと思ってしまった。
彼は、特別なのに特別ぶらない。
もし彼が、特別なんかじゃなくても、私は好きになっていた。
彼は、自分と同じものを見える人を探していた。
彼からは、孤独を感じた。
なんとかしてあげたい。
私は勇気を出して彼にコメントをした。
彼は人気者だから···
返信がきてうれしかった。
私も彼と同じものを、見れたらいいのに。
好きな人と同じものを。
気持ちがおさえられなくて、ちょっと強引になっちゃった。
けれど、彼はいやがらなかった。
勇気を出してよかった。
会うことになった。
“あれ”を見に行くために。
見えそうな場所へ、彼が連れていってくれる。
私は後悔していた。
こんなに、遠くへ連れてきてくれたのに、私はきっと見えない···
どうしよう···
がっかりさせちゃう。
そんなことを考えて、黙ってしまっていた私に彼は「着いたよ」と優しく声をかけてくれた。
がっかりさせたくない。
プレッシャーに潰されそう。
車から降りると水の音がした。
足元はぬかるんでいて、彼は手を引いてくれた。
私は“あれ”が見えないのがこわくて、目をつぶってしまっていた。
彼をがっかりさせたくないから、見えなくても彼に話しを合わせようか···
ウソをついたら余計に傷つけちゃうかな···
「いた」
彼がそうつぶやいて、その声に反応するように私は目をあけてしまった。
そのとき、奇跡が起きてた。
見えたっ!
私にも。
私はうれしくて「ほんとだっ」と、声をあげていた。
同じものを見てる。
うれしいっ。
“あれ”はちょっと怖かったけど、彼と一緒だから大丈夫。
私は彼に喜んでほしくて、彼と同じものが見えてるって、はやく伝えたくて、興奮して早口になっちゃった。
そこには、ふたりの人間がいて、一人は座っていた。
その人は“お腹”がなかった。
空洞なの。
もうひとりがペッタンコ座りして、後ろに倒れて、空洞の部分を枕にしてた。
それで、ペッタンコ座りの人の口から花がでてた。
それでその花はのびていって、もうひとりの口とつながってるの。
花は、花びらというより、多肉植物の葉っぱみたいに肉厚。
離れたとこにいるけど、やっぱりちょっとこわい。
でも花が明るく光ったり、暗くなったり。
凄くきれい。
幻想的だった。
帰りに彼とホテルにはいった。
やっぱり彼はずっと、同じものを見える人を探していたんだ。
幸せだった。
この先も一緒にいれると思った。
だけど、違った。
そのあと、彼と会ったときに、いま彼は見えているんじゃないかなって思ったことがあった。
でも、そのときは「いた」とは言わなかった。
きっと見てたんだ。
でも私に、それは見えていなかった。
それで失望させてしまったんだと思う···
彼を傷つけてしまった。
せっかく同じものが見えると思う私と出会えたのに···
ごめんね。
見えなくて。
見えないけど、一緒にいたい。
ダメかな。
メッセージアプリの既読がつかない。
もう、会えないの?
勇気をだして、ふたたびSNSで声をかけた。
普通に接してくれた。
でも、みんなの前で「もう会ってくれないの?」なんて聞けない。
迷惑かけれない。
見えたら一緒にいてくれる?
もう一度、見たい。
そのために、私は彼と行ったあの場所に行くしかないと思った。
見えたら彼とまた会える。
きっと会ってくれる。
私はほとんどペーパードライバーだけど、ひとりでいくことにした。
山道をゆっくり運転した。
すごく怖かった。
やっとついたら、もう深夜だった。
ここで、あってるよね。
水の音がした。
ぬかるんだ地面。
同じ場所だ。
私は探した。
だけど“あれ”は見えない。
お願い見えて。
もう一回だけ見せて。
彼と同じものを。
なんで見えないのっ。
涙がぽろぽろおちてきた。
私はぬかるんだ地面に膝をついて、座り込んだ。
涙がとまらない。
彼のことが好き。
でも、もう会えない。
ずっと泣いて、やっと涙が落ち着いてきた。
涙でぼやけた視界に光ったり暗くなったりするのが見えた。
一瞬、見えたと思った。
けれど蛍だった。